嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

文字の大きさ
48 / 178
第2幕:心を繋ぐ清流の協奏曲(コンチェルト)

第4-4節:フィルザードの地理的特徴

しおりを挟む
 
 再びふたりきりになった執務室で、私はフィルザードの地図を眺めていた。

 その図は思っていた以上に精密で、道や民家、畑、とりで、国境、土塁どるい空堀からぼりといった状況が詳細に記されている。さらに土地の高低差も等高線で示されていて、これが軍事機密だというのもうなずける。

 ジョセフさんが地図情報の流出を危惧きぐするのも当然かも……。

 そして私の知りたかった情報もこの地図で把握することが出来た。特に着目したのは等高線によるフィルザード領内の起伏だ。これを見る限り、私の推測した通りの結果になりそうな気がする。

「どうだ、シャロン。何か参考になったか?」

 私が地図を眺めながら確信めいた表情でうなずいたからか、隣で様子をうかがっていたリカルド様が声をかけてきた。

 それに対して私は導き出した仮説を話すことにする。

「はい、やはりフィルザードの東部地域は扇状地せんじょうちのようです」

扇状地せんじょうち?」

「川の浸食によって石や砂が堆積たいせきして出来た土地のことです。こういう場所は地面の下に地下水や伏流水ふくりゅうすいなどが流れていて、水資源が豊富であることが多いのです」

「つまりそれをみ上げて水路に流せるようになれば、フィルザードの作物が水不足で弱るということが少なくなるわけだな?」

「その通りです。もしかしたら果樹さえ育てられるかもしれません。もちろん、土がせていますから、作物の種類と収穫量を増やすにはその改良も必要になりますが」

 水路が完成したとしても、それだけで育てられる作物の種類が増やせるかといったら必ずしもそうとは限らない。栄養分にとぼしい土のままでは、アブラズナのような周囲の環境に強い植物しか育たないからだ。

 やはり作物を育てるには、その作物に合った土や環境を整えてあげる必要がある。

 例えば、植物の生育には水はけのしや土の酸性度、それらの要素と育てようとする作物の相性など、様々な条件が関係してくる。当然、水や土の状況が変われば今までフィルザードで正常に育っていた作物に悪影響が出る場合もある。

 また、隣接して植える作物が他の作物に影響を与えたり病気の原因になったり、今までは存在しなかった虫が発生する可能性だってある。

 水路の周辺から少しずつということになるだろうけど、そうした問題をフィルザード全域で解決していかなければならない。

 もちろん、普段から作物を育てているリカルド様はそういったことをご理解なさっていると思う。ただ、その上でも彼の表情は途端に明るく輝く。

「確かに土の改良はいるが、これはフィルザードの農業を大幅に改善させられる一歩になるかもしれんぞっ? 大きな障害のひとつだった水問題が解決する光明が見えたのだからな!」

「はい、私たちの夢の実現へ向けてかなりの前進になると思います」

「うまくいけば小麦を買うどころか、フィルザードで小麦が収穫できるようになるかもしれん! まさかそんな可能性が出てくるとは!」

「そのためには、まだまだ先が長いですけどね。まずは地下に水資源が豊富にあることを確認しましょう。これは私の持つ力を使えば簡単なことです」

 私はクスクスと笑いながら、お気楽な感じで述べた。なぜならこうしたことは精霊使いが最も得意とする分野だから。

 通常なら地面に影響を与えずに地下の状況を確認するのは困難なこと。地系魔法や水系魔法を使ったとしても、穴が開いたり地下水の流れが変わってしまったりすることは充分に考えられる。

 一方、水の精霊を呼び出して状況をたずねるなら、地面にも水脈にも影響を与えることがない。しかも情報を詳細かつ正確に知ることが出来る。

 ただ、私の言葉を聞いたリカルド様はなぜか眉を曇らせている。

「……それはシャロンの体に無理が掛かるわけではないよな?」

「あ……。それが気になっていたのですか。ご安心ください。を聞くだけなら、何かの奇跡を起こすよりも負担は少ないですから」

うそではないな? もし無理が掛かるなら力を使う必要はないぞ。カネや労力を掛けてでも、何か所かを掘って確認すればいいのだからな。カネや労力は代えが利く。だが、キミの代わりはいない」

 リカルド様は神妙な面持ちで私の手を取り、優しく握った。そして視線をらすことなく私を見つめ続ける。

 温かくて力強さを感じる手の感触、私だけが映るその魅力的な黒い瞳。そこから彼の私に対する熱い想いがひしひしと伝わってくる。それが嬉しくて、私の胸は幸せな気持ちで一杯になる。

「本当に大丈夫です。お気遣きづかい感謝いたします」

「分かった。それならその調査はシャロンに任せよう。では、僕に出来ることは何かないか?」

「おそらくは予想通りフィルザードの地下には豊富に水資源が眠っていることでしょう。ですからそれを前提として動いても問題はないはずです。そうなると、水路関連の作業を進めていくということになりますね」

「ふむ……」

 リカルド様は拳を口元に当てながら軽くうつむいて考え込んだ。


(つづく……)
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

ウッカリ死んだズボラ大魔導士は転生したので、遺した弟子に謝りたい

藤谷 要
恋愛
十六歳の庶民の女の子ミーナ。年頃にもかかわらず家事スキルが壊滅的で浮いた話が全くなかったが、突然大魔導士だった前世の記憶が突然よみがえった。  現世でも資質があったから、同じ道を目指すことにした。前世での弟子——マルクも探したかったから。師匠として最低だったから、彼に会って謝りたかった。死んでから三十年経っていたけど、同じ魔導士ならばきっと探しやすいだろうと考えていた。  魔導士になるために魔導学校の入学試験を受け、無事に合格できた。ところが、校長室に呼び出されて試験結果について問い質され、そこで弟子と再会したけど、彼はミーナが師匠だと信じてくれなかった。 「私のところに彼女の生まれ変わりが来たのは、君で二十五人目です」  なんですってー!?  魔導士最強だけどズボラで不器用なミーナと、彼女に対して恋愛的な期待感ゼロだけど絶対逃す気がないから外堀をひたすら埋めていく弟子マルクのラブコメです。 ※全12万字くらいの作品です。 ※誤字脱字報告ありがとうございます!

処理中です...