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第2幕:心を繋ぐ清流の協奏曲(コンチェルト)

第4-3節:重なり合う2人の想い、そして……

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 執務室に入ると、リカルド様はおもむろに自分の机のところへ向かった。私も一緒に付いていき、彼が忘れ物を回収するのをかたわらで見守る。

 ただ、引き出しを上から順番に開けていく最中にふと彼はわざとらしい咳払せきばらいをして、視線をチラチラとこちらに向ける。

「あー、えーと、これは独り言だが、フィルザードの地図はシャロンの後ろにある戸棚の中に入っているかもな。僕は忘れ物を探すのに忙しいから、ほかの場所には意識も視線も向かない。誰が何をしても分からないだろう」

「……えっ?」

「もっとも、ここに長時間いるのはマズイから、忘れ物を探す時間はそんなに取れない。急がないと、な?」

「っ!」

 私が目を丸くしていると、リカルド様はクスッと微笑んだ。その瞬間、私は全てを理解する。

 そうだ、彼は初めから私に地図を見せようとしてここへ連れてきたんだ。ダメだと拒否したのは建前で、忘れ物をしたというのもうそに違いない。

「――リカルド様っ!」

 感激した私は思わず彼の胸の中へ飛び込んでいた。

 熱い体温と力強い筋肉の感触、そして彼の匂いを全身で感じる。密着していることもあって、彼の心臓が大きく激しく脈動しているのがハッキリ分かる。きっと私の心臓の高鳴りに彼も気付いていることだろう。

 照れくさいけど、もはやそんなの気にならない。ただ強く彼を抱き締める。

「お、おいっ? シャロンっ!?」

「ありがとう、リカルド様!」

「う、うん……」

 直後、彼の両手が私の背中に回され、優しく力を入れながら包み込むように抱き締めてくれる。ちょっとおっかなびっくりな感じもするけど、次第にその手にはしっかりと力が入ってくる。

 やがて彼は私の両肩をつかみ、ゆっくりと体を離れさせた。

 そのまま私たちは見つめ合い、そしてどちらからともなく自然にお互いの顔が近付いていく。

 程なく息の掛かるような距離になって――。



「何者だっ! ここで何をしているっ?」

 私たちの唇が重なる直前、不意に背後から耳をつんざくような怒気混じりの声が上がった。途端に私たちは揃ってギョッとしながらその声がした方を振り向く。

 薄暗い中、声の主は持っていたランプを掲げてこちらを照らした。それは同時にその人物の顔を私たちにもさらけ出すことにもなる。

「ジョセフっ!?」

「リカルド様とシャロン様っ!?」

 そこに立っていたのはジョセフさんだった。彼は執務室にいたのが私たちだと気付くと、目を見開いたまま呆然と立ちつくしている。その反応から察するに、私たちのこの状況を理解して頭の中が真っ白になっているという感じだろうか。

 一方、リカルド様は引きつったような笑みを浮かべてジョセフさんに視線を向けている。また、我に返った私はあわててリカルド様から離れ、ほほを真っ赤にしたままうつむくしかない。

 この場にいる3人とも気まずい気分……。

「や、やぁ……ジョセフ……。ははは……」

「……あっ! こ、これは……そのっ……お、お二方とも勝手に執務室へお入りになっては困ります! 速やかにご退室されますよう! で、ではっ!」

 動揺した声でそう言い放つと、ジョセフさんは開け放たれたままのドアを勢いよく閉め、そそくさとどこかへ去っていった。普段は沈着ちんちゃくな彼もさすがに決まりの悪さを隠せなかったようだ。

 誰もいなくなったドアの方を眺め、リカルド様は深い溜息ためいきく。

「ジョセフのお邪魔虫め……。なんとタイミングの悪い……」

「あはは、ムードが台無しですね。えっと、その……またの機会ということにしましょうか! あっ、もちろん地図のことではありませんよ?」

「……う、うん。分かっている。のことだろう? ま、まぁ、ドアの向こうで聞き耳を立てたり、のぞこうとしたりするやからが現れるかもしれんしな」

「で、でも怪我けが功名こうみょうですねっ! これでしばらくはジョセフさんもここには近寄らないでしょうし、しばらくいても怪しまれませんよ」

「そうなのだが……なんというか……残念というか……はぁ……」

 リカルド様は再び深い溜息ためいきいていた。

 私もちょっと残念な気持ちはあるけど、ドキドキはもうしばらく先まで取っておくことにして切り替えようと思う。想いが通じ合っているのが確認できただけでも収穫だし、あせる必要はないのだから……。


(つづく……)
 
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