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第2幕:心を繋ぐ清流の協奏曲(コンチェルト)
第4-5節:気付けば宝物はすぐそばに
しおりを挟むもっとも、公務によって様々な事業の知識や経験のある彼はすぐに何か思い当たったようで、ハッと小さく息を呑みながら顔を上げる。
「そうか、水路を掘るための人員や資金の手配かっ?」
「えっと……それはもう少しあとでも問題ないかと。まずは水を汲み上げるための装置が必要です。その後、水路を引く場所の選定と平行して各手配を進めればよろしいように思います」
「なるほど、地下に水があっても汲み上げられなければ確かに意味はないな。それで水を汲み上げるための装置というのは、魔法力によって動く魔法装置ということか?」
「それもひとつの手ですが、どんな道具も使っているうちにいつかはガタが来ます。長い目で見れば、修理や交換が容易なものの方が良いでしょう。そもそも魔法装置や魔法道具の類は価格が高いですし……」
「うむ、いずれ水路を掘る際には雇った労働者たちへ賃金を支払わなければならないわけだからな。なるべく出費を抑えたいというのは分かる」
「あっ、水路の掘削に関してはあまり心配がいらないと思います」
すでにそれを解決するアイデアが頭にある私は、反射的に返答をした。当然、何も分かっていないリカルド様は訝しげな顔をする。
…………。
……っ! しまった!
彼の反応を見てようやく私は自分の失言に気付き、心の中で舌打ちをする。
なぜなら、とある理由があってそのアイデアをリカルド様に話すわけにはいかないから。もしそのことについて追求されたら、私には隠し通せる自信がない。そしてそれを知った彼は必ず私を止めようとする。
――ダメだ、それだけは絶対に避けなければならない!
もしそんなことになれば、私たちの夢の実現が大きく遅れてしまう。ゆえに私は咄嗟に頭を働かせて仮初の説明を構築し、平静を装って言葉を付け加える。
「あのっ、きっと領民の皆さんは安い賃金でも協力してくれますよ!」
「……ん、そういう意味か。そうだな、皆がこの事業に賛同してくれればその可能性は充分にあるな」
「はいっ、そうですとも!」
私は必死に作り笑いを浮かべながらリカルド様に同意した。
するとどうやら彼は私の説明に納得してくれた様子で、何度も大きく頷いている。それを見る限り、なんとかうまく誤魔化せたらしい。掘削の話を賃金の話へ逸らすことが出来たのが、功を奏したんだと思う。
……ホッとしたけど冷や汗がなかなか止まらない。
誤魔化そうとするのは慣れていないから、どうしても焦ってしまう。今後はこういう失敗をしないように気を付けよう……。
「それならシャロン、魔法装置でないなら何を使おうというのだ?」
「えっと、私が考えているのは風車です。フィルザードは山に囲まれていて、常に一定以上の強さの風が吹き抜けています。その風の力を充分に利用できるかと」
「おぉっ、風車か! 確かに風車なら魔法装置と比べてメンテナンスも容易だ。もっとも、整備が出来る技術者の招聘や育成は必要になるが」
「はい、風車は魔法装置より構造が簡単とはいえ、整備するためにはやはり技術がいりますので」
リカルド様がおっしゃるように、技術者の確保は風車の導入と併せて乗り越えなければならない課題だ。
ただ、これは商人ギルドに協力を求めれば解決できると考えている。なぜなら風車を導入する際には彼らに建設や資材の購入を依頼するわけだし、それゆえに整備が出来る人材とも繋がりがあるはずだから。
クレストさんにご挨拶した時、彼の心象を悪くしないようにしておいて良かったとあらためて感じる。
「それに風車は魔法装置と比べると確かに揚水能力は劣りますが、汲み上げられる水量は大型の風車を導入することでカバーできます。水路網が限定的なうちはそれで充分です」
「そうか、初期から過剰な揚水能力は必要ないものな。いずれ水路が拡張して水量が不足したなら、その時に追加で新たな風車を導入すれば問題ない」
「はい、そうすることでコストを負担する時期が分散できるのもメリットです」
「フィルザードは何も手が加わらなければ貧しい土地だが、工夫をすれば水や風といった資源に満ちた場所だったのだな……」
しみじみと呟くリカルド様。そんな彼に対して私は静かに首を横に振る。
「いえ、水や風だけではありません。岩塩に温泉、アブラズナもあるではありませんか。そしてなによりの財産は、リカルド様を含めたフィルザードの領民の皆様。みんな優しくて勤勉で忍耐強い」
「ふふっ、今やシャロンもその一員だ」
「はいっ!」
「気付いていないだけで、宝物は身近なところにたくさんある――ということか。日々の生活を送るのに精一杯で、今まではそうしたことに意識が向かなかった。だが、やっと長い冬を越え、新しく吹いた春風が運命を動かしつつある。そんな気がする」
悟ったような顔をしている彼は、その視線をなぜか私に向けている。
(つづく……)
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