嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

文字の大きさ
65 / 178
第3幕:重なる想いの交響曲(シンフォニー)

第3-2節:対等な商談相手

しおりを挟む
  
 でも私だって彼の立場で同じ提案をされたらきっと渋ると思うから、その反応には納得がいく。だから彼の心が動くような一押しをすることにする。

「それならクレストさんにメリットしかない提案もすることとしましょう。風車の導入に併せ、あなたがたには水路掘削もお任せしたいと考えています。そのため、フィルザード家に資金をお貸しいただきたい」

「借金の申し出……ということですか……?」

「そういうことです。もちろん、そのおカネを実際にご用意いただく必要はありません。クレストさんたちが岩塩掘削のために雇っている作業員を水路掘削に当ててほしいというわけです」

「つまり彼らの賃金の肩代わりをしろ、と。……なるほど、確かにそれなら我々からフィルザード家に対してカネの移動は実質的に生じませんな」

「これはクレストさんにとって損はない話だと思います。水路掘削に着手するだけで、水路事業の結果によらず私たちに貸したおカネの利息が手に入るのですから。しかもこの事業が成功すれば作物の収穫量や種類が増え、フィルザードで商売をしているクレストさんたちはさらに潤います」

 私は身を乗り出しながら情熱と強い意志、勢いを込めて言い切った。

 それに対してクレストさんはしばらく呆然ぼうぜんとしていたけど、不意にその表情は端正たんせいなものに変化し、雰囲気にもいつになく敬意や品行方正さをただよわせる。

「シャロン様は賢い御方のようですな。フィルザード家にとっても我々にとってもメリットのあるお話をまとめ上げてくるとは。正直、感服いたしました」

「いえ、メリットがあるのは私たちだけではありません。フィルザードで畑を耕している領民の皆様も、生活が楽になるだけでなくえる心配も少なくなります」

「ただ、この事業には最大の問題点があります。そもそも水路が完成し、機能するかどうか。そして想定している収穫量が確保できるかどうか」

 その話を聞き、明らかにクレストさんの意識が変わったと私は感じた。だってもし私たちのことをどうでも良いと思っているなら、事業の成否を心配する必要なんてないから。黙って私たちから得られる借金の利息だけ考えていればいい。

 でもわざわざ成否に対して言及するということは、本気で水路事業による儲けも視野に入れて話しているということを意味する。どうやら風はこちらへ向かって吹き始めたらしい。

 私はあらためて気を引き締め、話を続ける。

「実は水量に関しては調査済みなので、水路を掘削して水を通せれば機能する可能性は極めて高いです。収穫量に関しても秘策があります。ただし、その『秘策』はこの事業の要とも言えるので、詳細はまだ誰にも明かせませんが」

「そうなると、我々から見ればやはり収穫量に関しては不確定要素となるのは確かですな。その秘策の内容が納得するものでない限りは」

「……は、はい。その点は……おっしゃる通りです……」

 痛いところをかれ、私は口ごもるしかなかった。

 もちろん、秘策があるというのはうそじゃない。ただ、これだけは決して誰にも話すわけにはいかない。例えそれがリカルド様であっても。事ここに至るまで、私の胸の中だけに収めておきたい。

 幸いなことに、クレストさんはこちらの心中を察してくれたようで、それ以上の追求をしてくることはなかった。商売では自分たちだけが把握している機密というものがありがちなので、色々と察してくれたのだろう。

 彼は小さく息をき、真顔であらためて私に問いかけてくる。

「もう一度おたずねしますが、本当に作物の収穫量や種類を増やすことが出来るのですな?」

「もちろんです! それは自信を持って言えます!」

「――よろしい! シャロン様に風車をひとつおおくりします。水路掘削もお任せください。ただし、私からも条件を出させていただきます。それを呑んでいただければ、交渉成立ということにいたしましょう」

「あ、ありがとうございますっ!」

 私はクレストさんに向かって深々と頭を下げた。隣に座っていたナイルさんやかたわらにたたずんでいるポプラも顔を輝かせ、私に合わせるようにこうべを垂れる。

 もっとも、これで万々歳というわけにはいかない。交渉成立には条件があるという話だから。もしそれが呑めるものでなければ、ぬか喜びとなってしまう。

 ゆえに私は高ぶる気持ちを抑えつつ、クレストさんに向かって話しかける。

「それで、その条件というのは?」

「将来的に岩塩に関する税を撤廃していただきたい。10年後、岩塩に関する税をゼロにするというお約束をいただければこのお話をお受けします」

「なっ! 岩塩の税をゼロにっ!?」

「10年後であれば水路が完成していて、作物も充分に収穫できるようになっているはずです。その税収があれば、岩塩から税を取らなくても問題ないではありませんか。この事業の成功に自信がおありなんですよね?」

 クレストさんは眉ひとつ動かさず、こちらの反応をうかがっている。

 さすがに商人というだけあって、商売に関してはシビアだ。フィルザード家にとって厳しい条件を提示してくる。筋の通った正論でもあるし。もっとも、それだけ本気になってくれているということなんだけど。


(つづく……)
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

ウッカリ死んだズボラ大魔導士は転生したので、遺した弟子に謝りたい

藤谷 要
恋愛
十六歳の庶民の女の子ミーナ。年頃にもかかわらず家事スキルが壊滅的で浮いた話が全くなかったが、突然大魔導士だった前世の記憶が突然よみがえった。  現世でも資質があったから、同じ道を目指すことにした。前世での弟子——マルクも探したかったから。師匠として最低だったから、彼に会って謝りたかった。死んでから三十年経っていたけど、同じ魔導士ならばきっと探しやすいだろうと考えていた。  魔導士になるために魔導学校の入学試験を受け、無事に合格できた。ところが、校長室に呼び出されて試験結果について問い質され、そこで弟子と再会したけど、彼はミーナが師匠だと信じてくれなかった。 「私のところに彼女の生まれ変わりが来たのは、君で二十五人目です」  なんですってー!?  魔導士最強だけどズボラで不器用なミーナと、彼女に対して恋愛的な期待感ゼロだけど絶対逃す気がないから外堀をひたすら埋めていく弟子マルクのラブコメです。 ※全12万字くらいの作品です。 ※誤字脱字報告ありがとうございます!

処理中です...