嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

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第3幕:重なる想いの交響曲(シンフォニー)

第3-1節:交渉開始ッ!

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 数日が経ち、クレストさんと風車や水路に関する交渉をする日を迎えた。

 それを行う場所は以前にも訪れた彼の屋敷で、その時と同様に私はポプラやナイルさんとともにやってきている。


 今、私は応接室に通され、テーブルを挟んでクレストさんと向き合う形でソファーに腰掛けている。隣にはナイルさんが座り、かたわらではポプラが立ったまま控えている形。私たちは一様に緊張した面持ちで交渉にのぞむ。

 一方、正面にいるクレストさんは相変わらず豪華な服やきらびやかなアクセサリーを身に付け、穏やかな笑みを浮かべている。

「ようこそ、シャロン様。お待ちしておりました。今回は商売に関して何か私に相談があるとのことですが」

「はい、これはクレストさんにとっても悪い話ではないと思います。フィルザード家が行おうとしている新規事業に関することですから。それに伴って物資の調達などをお任せするつもりでいます」

「ほぉっ!? それは我々の儲けにも繋がりそうな話ですな!」

 クレストさんは瞳を輝かせ、興味津々きょうみしんしんに大きく身を前に乗り出してきた。さすが彼は商人というだけあって、おカネのニオイを敏感に察知したらしい。

 とりあえず聞く耳を持ってくれたようで、その点は心の中で安堵あんどする。

「もちろんです。この件がまとまれば、間違いなくクレストさんや商人ギルドは潤うことでしょう」

「それはなにより! では、詳細をお聞かせいただけますか?」

「まずはクレストさんにお願いしたいことがあります。以前、こちらへご挨拶あいさつうかがった際に、結婚祝いの品をいただけるとおっしゃっていましたよね?」

「――あぁ、はいはい! 確かに申し上げました! つまり何かご入り用のものが思い浮かんだということですな? して、何をご所望で?」

 私の申し出に何の疑いもなく同意するクレストさん。実はその言葉を引き出したくて色々と策を考えていたんだけど、どうやらそんなことをする必要はなかったらしい。あっさりと思い通りに事が運び、私はちょっと拍子抜けしてしまう。

 やはり彼にはどこか私に対して『無知な小娘』のような意識があり、油断や慢心があるのだろう。ただ、経緯がどうであれ、この話の流れになったからには後悔してももはや遅い。

 早速、私は遠慮なく欲しいモノを彼に向かって口にする。

「大型の風車をひとついただきたく存じます」

「風車?」

「はい、このお屋敷と同じくらいの大きさがある風車です」

 私は真顔で彼を見つめ、キッパリと言い放った。

 途端に室内には沈黙とおかしな空気がただよい、クレストさんは目を点にして呆然としている。ただ、私の表情や態度からそれがたわむれではないことを悟ったのか、彼は額に汗をにじませながら薄笑いを浮かべる。

「……ご、ご冗談をっ! 宝石やアクセサリーならまだしも、風車などそんな規模の大きなものを――」

「ダメなのですか? では、あの時の言葉はうそだったということですか? 商人にとってうそは致命的ですよね? 信用をなくしますから」

「で、ですが、風車を導入するとなると金額は莫大ばくだいなものとなります。常識的に考えて、おおくりする品の域を超えていると思うのですが……。そもそも風車を手に入れて何をしようというのです?」

「では、フィルザード家が行おうとしている新規事業についてご説明しましょう。風車の導入もそれに関わることですので」

 私が目顔で合図をすると、そばで控えていたポプラは手に持っていた大きめの封筒をこちらに差し出した。それを受け取り、私は中から書類の束を取り出してクレストさんの前に提示する。


 これは数日前からコツコツと制作してきた企画書。水路事業に関する概要や風車の建設予定地、栽培予定の作物の候補、収穫量の予測数値などを文字やデータ、図などで示している。私はそれを元にクレストさんへ事業の説明をしていく。

 そして全ての話が終わると、彼は目を丸くしつつもようやく納得したような顔をする。さすが商人だけあって数字には強く、状況も理解してくれたらしい。

 もちろん、壮大すぎる計画ということもあって、まだ動揺を隠せていないようだけど……。

「な、なるほど……。事情は分かりました。しかしフィルザードに水路網を建設しようとは、想像を遙かに超える大事業ですな……。確かにそれなら風車が欲しいというシャロン様の申し出も理解できます」

「当然ながらこの事業には実現の可能性が充分にあります。だからこそ、こうしてクレストさんへ話を持ってきています」

「それは理解していますが、現時点ではハイリスクハイリターンなのは否めませんな。不確定要素が多すぎます」

 クレストさんは困惑した表情を浮かべながら、額やほほにじむ汗をハンカチでぬぐっていた。やはりこれだけでは私たちの提案にすんなりとうなずいてはくれないらしい。


(つづく……)
 
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