嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

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第3幕:重なる想いの交響曲(シンフォニー)

第3-2節:対等な商談相手

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 でも私だって彼の立場で同じ提案をされたらきっと渋ると思うから、その反応には納得がいく。だから彼の心が動くような一押しをすることにする。

「それならクレストさんにメリットしかない提案もすることとしましょう。風車の導入に併せ、あなたがたには水路掘削もお任せしたいと考えています。そのため、フィルザード家に資金をお貸しいただきたい」

「借金の申し出……ということですか……?」

「そういうことです。もちろん、そのおカネを実際にご用意いただく必要はありません。クレストさんたちが岩塩掘削のために雇っている作業員を水路掘削に当ててほしいというわけです」

「つまり彼らの賃金の肩代わりをしろ、と。……なるほど、確かにそれなら我々からフィルザード家に対してカネの移動は実質的に生じませんな」

「これはクレストさんにとって損はない話だと思います。水路掘削に着手するだけで、水路事業の結果によらず私たちに貸したおカネの利息が手に入るのですから。しかもこの事業が成功すれば作物の収穫量や種類が増え、フィルザードで商売をしているクレストさんたちはさらに潤います」

 私は身を乗り出しながら情熱と強い意志、勢いを込めて言い切った。

 それに対してクレストさんはしばらく呆然ぼうぜんとしていたけど、不意にその表情は端正たんせいなものに変化し、雰囲気にもいつになく敬意や品行方正さをただよわせる。

「シャロン様は賢い御方のようですな。フィルザード家にとっても我々にとってもメリットのあるお話をまとめ上げてくるとは。正直、感服いたしました」

「いえ、メリットがあるのは私たちだけではありません。フィルザードで畑を耕している領民の皆様も、生活が楽になるだけでなくえる心配も少なくなります」

「ただ、この事業には最大の問題点があります。そもそも水路が完成し、機能するかどうか。そして想定している収穫量が確保できるかどうか」

 その話を聞き、明らかにクレストさんの意識が変わったと私は感じた。だってもし私たちのことをどうでも良いと思っているなら、事業の成否を心配する必要なんてないから。黙って私たちから得られる借金の利息だけ考えていればいい。

 でもわざわざ成否に対して言及するということは、本気で水路事業による儲けも視野に入れて話しているということを意味する。どうやら風はこちらへ向かって吹き始めたらしい。

 私はあらためて気を引き締め、話を続ける。

「実は水量に関しては調査済みなので、水路を掘削して水を通せれば機能する可能性は極めて高いです。収穫量に関しても秘策があります。ただし、その『秘策』はこの事業の要とも言えるので、詳細はまだ誰にも明かせませんが」

「そうなると、我々から見ればやはり収穫量に関しては不確定要素となるのは確かですな。その秘策の内容が納得するものでない限りは」

「……は、はい。その点は……おっしゃる通りです……」

 痛いところをかれ、私は口ごもるしかなかった。

 もちろん、秘策があるというのはうそじゃない。ただ、これだけは決して誰にも話すわけにはいかない。例えそれがリカルド様であっても。事ここに至るまで、私の胸の中だけに収めておきたい。

 幸いなことに、クレストさんはこちらの心中を察してくれたようで、それ以上の追求をしてくることはなかった。商売では自分たちだけが把握している機密というものがありがちなので、色々と察してくれたのだろう。

 彼は小さく息をき、真顔であらためて私に問いかけてくる。

「もう一度おたずねしますが、本当に作物の収穫量や種類を増やすことが出来るのですな?」

「もちろんです! それは自信を持って言えます!」

「――よろしい! シャロン様に風車をひとつおおくりします。水路掘削もお任せください。ただし、私からも条件を出させていただきます。それを呑んでいただければ、交渉成立ということにいたしましょう」

「あ、ありがとうございますっ!」

 私はクレストさんに向かって深々と頭を下げた。隣に座っていたナイルさんやかたわらにたたずんでいるポプラも顔を輝かせ、私に合わせるようにこうべを垂れる。

 もっとも、これで万々歳というわけにはいかない。交渉成立には条件があるという話だから。もしそれが呑めるものでなければ、ぬか喜びとなってしまう。

 ゆえに私は高ぶる気持ちを抑えつつ、クレストさんに向かって話しかける。

「それで、その条件というのは?」

「将来的に岩塩に関する税を撤廃していただきたい。10年後、岩塩に関する税をゼロにするというお約束をいただければこのお話をお受けします」

「なっ! 岩塩の税をゼロにっ!?」

「10年後であれば水路が完成していて、作物も充分に収穫できるようになっているはずです。その税収があれば、岩塩から税を取らなくても問題ないではありませんか。この事業の成功に自信がおありなんですよね?」

 クレストさんは眉ひとつ動かさず、こちらの反応をうかがっている。

 さすがに商人というだけあって、商売に関してはシビアだ。フィルザード家にとって厳しい条件を提示してくる。筋の通った正論でもあるし。もっとも、それだけ本気になってくれているということなんだけど。


(つづく……)
 
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