嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

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第3幕:重なる想いの交響曲(シンフォニー)

第3-3節:意外な返しと切り札

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 ……ただ、ここで弱気になるわけにはいかない。今こそお義姉様から伝授された交渉術とアドバイスを駆使する時だ。

 あくまで私は平静を装いつつ、口を開く。

「そうですか、分かりました」

「では、私の提示した条件をお受けいただけると」

「いいえ、この話はなかったことにさせていただきます」

「なっ!? そっ、それはどういう――」

「そのままの意味です。クレストさんたちには風車建設も水路掘削も依頼しないということです」

 私は涼しい顔をして静かに言い放った。そしてテーブルの上に広げていた書類を片付ける素振りを見せる。

 一方、この展開はクレストさんにとって全くの想定外だったようで、彼は目を白黒させながら激しく狼狽うろたえる。もっとも、この段階に来て交渉が白紙に戻るなんて大抵の人は思わないだろうから、それも無理はないかもしれないけど。



 ――実は商人ギルドから無理な条件を出されるかもしれないというのは、お義姉様が想定していたことだった。そして私はそうした場合の対応を彼女とともに考え、シミュレーションを重ねてきている。

「で、ではっ、シャロン様はどうするおつもりなのですかっ? この事業の実施を諦めるおつもりですか?」

「まさか……。水路はなんとしてでも完成させます。あくまでもその事業をクレストさんたち以外に依頼するというだけです。商人さんは領外にもたくさんいらっしゃるわけですから」

「なっ!? そ、そんなことが許されるとでもお思いですかッ! フィルザード内の商売に関しては、我々のギルドが独占的に管理しております! 縄張りを荒らすことなど、同業者としてタブーとなっているのですぞ!」

 クレストさんは眉を吊り上げ、身を乗り出しながらテーブルを激しく叩いた。頭に血が上り、私がご領主様の妻であることをすっかり失念してしまっている。

 でも私は臆することなく、あくまでも冷静に話を続ける。

「イリシオン王国内には商人ギルド未加盟の商人さんやクレストさんの加盟している団体とは別の商人ギルドもあるそうですね。たまたまフィルザードにはクレストさんたちの団体しかないため、独占状態にあるようですが」

「そ、それは……」

「そういう商人さんたちなら越境して取引をすることはありえますし、フィルザードに新たな商人ギルドが設立されることだってあるかもしれません」

「そんなことをすれば、我々とフィルザード家の関係は修復不可能なくらいに最悪なものになりますぞ?」

 クレストさんは目つきや声に敵意を含ませ、私をおどすように言った。空気にも緊張感がただよい、一触即発いっしょくそくはつといった状況になる。

 そうなれば当然、ナイルさんの表情も厳しくなる。いつでも戦闘態勢に入れるように身構え、周囲に意識を向けている。

 でもそんな中だからこそ私は意識して相好そうごうを崩し、穏やかな口調でクレストさんに話しかける。

「ふふっ、ですからこの話を最初にクレストさんのところへ持ってきたのです。私たちだってそんな事態は出来るだけ避けたいですし、今までの恩義もあります。お互いに良好な関係を維持し、ともに栄えていきましょう」

「な……」

 私の意外な攻め手にすっかり毒を抜かれたクレストさんは、唖然あぜんとしたまま背後のソファーへへたり込んだ。きっと頭の中は混乱しているに違いない。

「クレストさん、私たちに貸しを作っておいた方が得策だと思いませんか? フィルザードが発展すれば、あなたやあなたの商人ギルドの地位は揺るがないものになります。しかもすでにお話しした通り、今以上に儲かるわけですし」

「損して得取れ……ですか……。確かにそれは商売の基本ですが……」

「まだ迷っておられるなら、私もここで切り札を切りましょう。当地では資源に関する権利を持つ者が領内から離れて50年が経過した場合、その権利は領主に戻るという法律があります。これはフィルザードがイリシオン王国領となった時代に制定された古い法律ですが、現在も有効です。あなたがたを当地から追放すれば、いずれ岩塩鉱山の所有権は私たちの元へ帰ってきます」

「なっ!? そんな横暴なことが……いや、そもそも50年も経過したら私はもちろん、シャロン様もその法律が効力を発する前にこの世から去っていることだって……」

「はい、そうですね。でも未来の領主に希望を残すことが出来ます。私は数十年から数百年先を見据えて申し上げています」

「…………」

 外堀を埋められ、クレストさんは何も言えない状態になっていた。肩を落とし、顔は色を失っている。

 でもそれは当然の反応だ。フィルザード家が武力などを用いて強硬手段に出れば、彼の権利を奪うことが出来ると示されてしまったのだから。例え屈強な傭兵を集めたとしても、領主の持つ全兵力に太刀打ちできるものでもない。

 そもそもフィルザード家に対抗するために彼が兵を雇うとなれば、勝敗に限らず懐は確実に痛むわけで……。


(つづく……)
 
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