嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

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第3幕:重なる想いの交響曲(シンフォニー)

第3-4節:交渉を終えて……

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 そんな彼に対し、私は優しい言葉で妥協案を提示することにする。

「――と、それはあくまでも最後の手段。ですから私もクレストさんのご要望を反映した提案をすることとしましょう。10年後、岩塩の税を現在の2分の1、さらにそこから5年間は断続的に税率を下げ、最終的に15年後には現在の10分の1の税率にするというのではいかがですか?」

「10分の1ですかっ!? で、ですがそれでは実質的にフィルザード家にとってはほとんど税収が望めないことになりますが、それでよろしいのですか?」

「クレストさんがおっしゃったように、水路が完成してほかの作物からの税収が上がれば問題はないでしょう。ただ、ゼロでは万が一の時に困りますから、わずかでも岩塩の税収を確保したいというわけです」

 正直、安定的な収入である岩塩の税が減ってしまうのはフィルザード家にとって痛手だ。ただ、お互いに歩み寄らないとまとまる話もまとまらない。一方だけが主張ばかりしていてもダメなのだ。

 当然、商人として無数の交渉を経験してきているであろうクレストさんはそのことを分かっているはず。事実、彼は大きく息をくと、苦笑しながら顔を上げてこちらに視線を向けてくる。

「……シャロン様には負けました。そこまでお考えだったとは。それにその不退転の覚悟に感じ入りました。――商人クレスト、責任を持ってこのお話を受けさせていただきます。風車も水路掘削も全て私にお任せください」

「ありがとうございます、クレストさん!」

「いやぁ、シャロン様には商人の素質がある。我々のギルドに欲しい人材ですな」

「残念ですが、私にはフィルザード家での仕事がありますので。ただ、何かあれば私もクレストさんのご相談には乗らせていただきます」

「えぇ、その時はぜひ! では、今後はともにフィルザードの発展のために力を尽くしていきましょうぞ!」

「はいっ!」

 私とクレストさんはその場で立ち上がり、固い握手を交わした。その後、私が用意してきた仮の契約書へサインをするなど、必要な手続きを進めていく。

 こうしてフィルザード家と商人ギルドは協力関係を構築し、風車と水路事業がまた前へと進んだのだった。





 商人ギルドからの帰り道、私は繁華街にあるメインストリートで雑貨を販売している露店に目が留まった。普段なら特に気にもせず通り過ぎてしまうところだけど、この時はなぜかそこに並べられている品物が気になったのだ。

 私が立ち止まると、隣を歩いていたナイルさんとポプラもそれに合わせて足を止める。

「いらっしゃい、お嬢さん! 冷やかし大歓迎! 気軽に見ていってくれよ!」

 そう笑顔で明るく声をかけてきたのは、その露店のおじさん。年齢は40歳くらいで、日焼けした肌と口髭くちひげ、頭にはターバンのようなものを巻いている。

 私はお言葉に甘え、陳列されているアクセサリーや小物を眺めていく。するとその中でひとつの髪留めに意識が向く。

 それは銀色の金属に繊細なデザインが施されたもので、末端には豆粒大の魔法石が付けられている。もしかしたら何かの魔法効果が付加されているのかもしれない。

 そんな感じでじっくりと観察していると、露店のおじさんが声をかけてくる。

「お嬢さん、なかなかお目が高いね。そいつは名工ムラサの作った髪留めだ。そこに付いてる石には持ち主に幸運をもたらす力が込められてるらしい」

「へぇ、そうなんですか!」

 思わず私は感嘆の声を上げた。なぜなら名工ムラサという名前は私も知っているから。生まれ育った家にあった何冊もの本で何度も見かけている。

 ムラサは謎の多い伝説の人物で、本職は武器職人だったらしい。ただ、武器だけでなく防具や魔法道具マジックアイテム、そのほかあらゆる道具をこの世に生み出している。その多くが美術的にも実用的にも優れていて、一部は一流の騎士や冒険者が代々受け継いで使っているとのこと。

 当然、そうしたものは城が買えてしまうほどの値段がする。ただ、本物であっても中には大量生産されたものもあって、その類のものなら一般人にも手が出る範囲となっている。

 もちろん、世の中には贋作がんさくも多く出回っているけど……。

「ま、売ってる俺が言うのもなんだが、単なるうわさに過ぎないとは思うがな。もし本当にそんな力があるなら、俺が幸運になってないとおかしいからな。はっはっは!」

「ふふっ、どうなんでしょうね。それでこの髪留め、お値段はいかほどですか?」

「売れ残りだし、100ルバーに負けとくよ。本来なら500ルバーはする品物だぜ」

「分かりました、買います」

「まいどっ!」

 私は懐から巾着袋を取り出し、中に入っている硬貨を露店のおじさんに手渡した。そしてその代わりに髪留めを受け取ると、隣に立っているポプラの前髪にすかさず付けてあげる。

 それに対し、キョトンとしている彼女。ただ、しばらくして目を丸くしながら狼狽うろたえ始める。

「えっ、えぇっ!? シャ、シャロン様っ? これはどういうことなのですっ?」

「私からのプレゼント。ポプラに似合うと思ったから。こうして見てみると、思った通り可愛いよ」

「そんなっ、私のような使用人がお仕えする方から直々にお品物をいただくなんて、恐れ多いことなのですっ!」

「いつもお世話になっている御礼だよ。受け取っておいて」

「……っ……。あ、ありがとう……ございますです……」

 ポプラは頬を真っ赤に染めて照れていた。そんな私たちの様子をナイルさんは穏やかな表情で見守ってくれている。

 こんな温かな時間がこれからも続いていくといいな……。


(つづく……)
 
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