嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

文字の大きさ
68 / 178
第3幕:重なる想いの交響曲(シンフォニー)

第4節(第3幕:完結編):月夜の口づけ

しおりを挟む
  
 その日の深夜、私の部屋にはリカルド様がいらっしゃっていた。商人ギルドとの交渉結果について報告するため、事前にその約束をしていたからだ。

 彼は隣に座り、静かに私の話に耳を傾けてくれている。そして仮の契約書なども提示しながら全ての説明を終えると、満面に笑みを浮かべて私の頭に手を置き、不意にこちらを覗き込むように顔を近付けてくる。

 彼の髪からただよってくるシャボンの良い匂い。さらに月明かりに照らされた美しいリカルド様の顔が息の掛かる距離まで迫り、一気に私の心臓の鼓動は最高潮に達する。ほほも体も瞬時に熱くなってくる。


 ――マズイマズイマズイ! 嬉しいのは確かなんだけどっ、頭の中がくぢゃぐちゃに混乱して気持ちが落ち着かないッ!

「良くやったぞ、シャロン。さすがは僕の妻だ」

「い、いえ……お義姉様のアドバイスのおかげです……」

「ふふっ、謙遜けんそんするな。それを実際に活かして目的を達したのはキミ自身だ。もっとほこっていい」

「ありがとうございます……」

「こうなると僕もますます忙しくなるな。今まで以上に頑張らないと」

 リカルド様はクスッと微笑むと、私の頭に乗せていた手を離して軽く伸びをした。

 当然、私たちの物理的な距離も少し広がり、その瞬間に私の心はなんだか切なくなる。本当はずっと息の掛かる距離で見つめていてほしいのに……。



 …………。

 私はうつむきながら唇を軽くみ、拳を握り締める。ただ、その直後に彼の方を振り向き、自分でもよく分からないうちに勢いのまま今の気持ちを口にしてしまう。

「あのっ! リカルド様っ、ひとつだけ私のままを聞いてくださいますか?」

「ん? 内容によるが、商人ギルドとの交渉をまとめた褒美ほうびに多少のことなら叶えてやることとしよう」

「では……その……ギュッて抱き締めてくださいませんか?」

「なっ!? なななななっ!」

 リカルド様はほほを真っ赤に染め、大きく狼狽うろたえていた。

 もちろん、想いを口にした私自身も水が沸騰するほど頭が熱くなっている。心臓は爆発してしまうのではないかというくらいに激しく脈動し、痛いくらいだ。

 あぁ、我ながらなんでこんなことを言ってしまったのだろう。でも事ここに至ったなら勢いに任せて突き進むだけ。私は意を決し、あらためて彼に問いかける。

「……ダメですか?」

「べ、別に……ダメじゃない。それくらいなら、むしろ喜んで……」

 リカルド様は遠慮がちにそう言って立ち上がり、意を決したように私の両肩をつかんでその場に立たせた。そのまま彼の手が私の背中に回され、少しずつ力を込めながら抱き締められる。

 熱い彼の体温と呼吸音、私と同様に高鳴る心臓の音。それらがリンクするように一体化し、幸せな気持ちと安息が心の中に広がっていく。


 ダメだ……頭の中が融けていくような感じがして……クセになりそう……。


「これでいいか、シャロン?」

「……はい、嬉しいです。これで明日からもまた頑張れます」

「こうして抱き締めるだけでいいのか?」

「だってもっと甘えてしまったら心が満たされ過ぎて、頑張る意欲が薄れそうですから」

「フッ、自分に厳しいんだなシャロンは。僕としてはもう少しくらい緩んでもいいと思うんだが?」

 小さく微笑んでいるリカルド様の声が耳元で響く。私は彼の背中に回した手に力を込めて呟く。

「その少しの緩みがきっかけで、どんどん歯止めが利かなくなるのが怖い……」

「たまにはそういうことがあってもいいんじゃないのか? 少なくとも僕はその少しがきっかけで、もっと頑張る力が湧いてくることもあると思う」

「リカルド様……」

「ふたりっきりの時は“様”を付けなくていい。いや、付けないでくれないか。敬語も不要だ」

「……うん、分かった。リカルド」

「ありがとう、シャロン」

 彼は私の両肩をつかんで体を離れさせると、真顔で真っ直ぐ私の瞳を見つめた。

 その瞬間、私の心臓はあらためてドキッと高鳴り、体は金縛りにあったように動かなくなる。そのままお互いに視線を逸らさず、見つめ合い続ける。

 何も言葉は発しないけど、彼の温かな想いが伝わってくる。きっと私の想いも彼に伝わっていると思う。気持ちが重なっているのがハッキリ感じられる。頭の中がジンジンして気持ちいい。

 やがて彼の人差し指と親指が私のアゴへ伸び、わずかに顔を上に向けさせてきた。程なくゆっくりと顔が近付いてきて、目の前には彼しか映らなくなる。永遠にも思える一瞬のトキメキが唇に伝わる。

 ――こうして私たちは月明かりに照らされる中、初めての口づけを交わした。


(第3幕:終幕/第4幕へつづく……)

※2024年7月に更新予定ですっ。しばらくお待ちいただければ幸いですっ!!
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

ウッカリ死んだズボラ大魔導士は転生したので、遺した弟子に謝りたい

藤谷 要
恋愛
十六歳の庶民の女の子ミーナ。年頃にもかかわらず家事スキルが壊滅的で浮いた話が全くなかったが、突然大魔導士だった前世の記憶が突然よみがえった。  現世でも資質があったから、同じ道を目指すことにした。前世での弟子——マルクも探したかったから。師匠として最低だったから、彼に会って謝りたかった。死んでから三十年経っていたけど、同じ魔導士ならばきっと探しやすいだろうと考えていた。  魔導士になるために魔導学校の入学試験を受け、無事に合格できた。ところが、校長室に呼び出されて試験結果について問い質され、そこで弟子と再会したけど、彼はミーナが師匠だと信じてくれなかった。 「私のところに彼女の生まれ変わりが来たのは、君で二十五人目です」  なんですってー!?  魔導士最強だけどズボラで不器用なミーナと、彼女に対して恋愛的な期待感ゼロだけど絶対逃す気がないから外堀をひたすら埋めていく弟子マルクのラブコメです。 ※全12万字くらいの作品です。 ※誤字脱字報告ありがとうございます!

処理中です...