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第3幕:重なる想いの交響曲(シンフォニー)
第4節(第3幕:完結編):月夜の口づけ
しおりを挟むその日の深夜、私の部屋にはリカルド様がいらっしゃっていた。商人ギルドとの交渉結果について報告するため、事前にその約束をしていたからだ。
彼は隣に座り、静かに私の話に耳を傾けてくれている。そして仮の契約書なども提示しながら全ての説明を終えると、満面に笑みを浮かべて私の頭に手を置き、不意にこちらを覗き込むように顔を近付けてくる。
彼の髪から漂ってくるシャボンの良い匂い。さらに月明かりに照らされた美しいリカルド様の顔が息の掛かる距離まで迫り、一気に私の心臓の鼓動は最高潮に達する。頬も体も瞬時に熱くなってくる。
――マズイマズイマズイ! 嬉しいのは確かなんだけどっ、頭の中がくぢゃぐちゃに混乱して気持ちが落ち着かないッ!
「良くやったぞ、シャロン。さすがは僕の妻だ」
「い、いえ……お義姉様のアドバイスのおかげです……」
「ふふっ、謙遜するな。それを実際に活かして目的を達したのはキミ自身だ。もっと誇っていい」
「ありがとうございます……」
「こうなると僕もますます忙しくなるな。今まで以上に頑張らないと」
リカルド様はクスッと微笑むと、私の頭に乗せていた手を離して軽く伸びをした。
当然、私たちの物理的な距離も少し広がり、その瞬間に私の心はなんだか切なくなる。本当はずっと息の掛かる距離で見つめていてほしいのに……。
…………。
私は俯きながら唇を軽く噛み、拳を握り締める。ただ、その直後に彼の方を振り向き、自分でもよく分からないうちに勢いのまま今の気持ちを口にしてしまう。
「あのっ! リカルド様っ、ひとつだけ私の我が儘を聞いてくださいますか?」
「ん? 内容によるが、商人ギルドとの交渉をまとめた褒美に多少のことなら叶えてやることとしよう」
「では……その……ギュッて抱き締めてくださいませんか?」
「なっ!? なななななっ!」
リカルド様は頬を真っ赤に染め、大きく狼狽えていた。
もちろん、想いを口にした私自身も水が沸騰するほど頭が熱くなっている。心臓は爆発してしまうのではないかというくらいに激しく脈動し、痛いくらいだ。
あぁ、我ながらなんでこんなことを言ってしまったのだろう。でも事ここに至ったなら勢いに任せて突き進むだけ。私は意を決し、あらためて彼に問いかける。
「……ダメですか?」
「べ、別に……ダメじゃない。それくらいなら、むしろ喜んで……」
リカルド様は遠慮がちにそう言って立ち上がり、意を決したように私の両肩を掴んでその場に立たせた。そのまま彼の手が私の背中に回され、少しずつ力を込めながら抱き締められる。
熱い彼の体温と呼吸音、私と同様に高鳴る心臓の音。それらがリンクするように一体化し、幸せな気持ちと安息が心の中に広がっていく。
ダメだ……頭の中が融けていくような感じがして……クセになりそう……。
「これでいいか、シャロン?」
「……はい、嬉しいです。これで明日からもまた頑張れます」
「こうして抱き締めるだけでいいのか?」
「だってもっと甘えてしまったら心が満たされ過ぎて、頑張る意欲が薄れそうですから」
「フッ、自分に厳しいんだなシャロンは。僕としてはもう少しくらい緩んでもいいと思うんだが?」
小さく微笑んでいるリカルド様の声が耳元で響く。私は彼の背中に回した手に力を込めて呟く。
「その少しの緩みがきっかけで、どんどん歯止めが利かなくなるのが怖い……」
「たまにはそういうことがあってもいいんじゃないのか? 少なくとも僕はその少しがきっかけで、もっと頑張る力が湧いてくることもあると思う」
「リカルド様……」
「ふたりっきりの時は“様”を付けなくていい。いや、付けないでくれないか。敬語も不要だ」
「……うん、分かった。リカルド」
「ありがとう、シャロン」
彼は私の両肩を掴んで体を離れさせると、真顔で真っ直ぐ私の瞳を見つめた。
その瞬間、私の心臓はあらためてドキッと高鳴り、体は金縛りにあったように動かなくなる。そのままお互いに視線を逸らさず、見つめ合い続ける。
何も言葉は発しないけど、彼の温かな想いが伝わってくる。きっと私の想いも彼に伝わっていると思う。気持ちが重なっているのがハッキリ感じられる。頭の中がジンジンして気持ちいい。
やがて彼の人差し指と親指が私のアゴへ伸び、わずかに顔を上に向けさせてきた。程なくゆっくりと顔が近付いてきて、目の前には彼しか映らなくなる。永遠にも思える一瞬のトキメキが唇に伝わる。
――こうして私たちは月明かりに照らされる中、初めての口づけを交わした。
(第3幕:終幕/第4幕へつづく……)
※2024年7月に更新予定ですっ。しばらくお待ちいただければ幸いですっ!!
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