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第4幕:解け合う未来の奇想曲(カプリッチオ)
第3-4節:本当は良い子なんだ
しおりを挟む私は悲しい気持ちが堪えきれない。唇も体も小刻みに震えている。それでもなんとか強く自我を保って、彼に言葉を投げかける。
「ダメだよ……絶対にそんなことを言ったら……」
「なぜ……涙を……!?」
「命を蔑ろにするようなことを言ってはダメ……。どんなに意地を張っても、どんなに悔しくても、どんなに寂しくても、言って良いことと悪いことがあるよ……」
「う……く……」
ノエル様は苦虫を噛み潰したような顔をして、私から視線を逸らした。ただ、その場から逃げずに耳を傾け続けているのは偉いと思う。
私はゆっくりと彼に歩み寄り、優しく抱き締めた。
まだ子供っぽさの残る小さくて柔らかな体。彼の後頭部に触れた手にはサラサラとした髪の感触が伝わってくる。それを愛しげに撫でてあげる。
ノエル様は抱き締めた瞬間にビクッと震えたけど、突き放そうとはせずそのまま動かない。むしろ全身から力を抜き、為すがままになっている。
その状態で私は言葉を続ける。
「ホントは自分が悪いって分かってるんだよね? でもリカルドに叱られて、味方になってくれなくて、気持ちが抑えられなかっただけなんでしょ? 大丈夫、リカルドは誰よりもノエル様のことを大切に想ってるよ。私、端から見ていてそれを強く感じるもん。嫉妬するくらいに」
「ぁ……」
「もしリカルドがノエル様のことをどうでもいいって思ってるなら、叱らずに放っておくよ。そうでしょ? 私だってあなたを大切な相手だと思ってる。それは分かってほしい」
「……っ……」
「キールさんだってノエル様を守るために、即座にリカルドに謝ったんだよ? プライドを投げ捨ててまで即座に土下座をするなんて、それだけあなたは慕われてる。だからノエル様も未来の領主として、反省すべきところは素直に反省しなきゃ」
「ぐ……ぅ……」
ノエル様は私の胸の中で小さく震え始めた。しゃくり上げるのを必死に我慢しているように思える。
私も鼻を啜り、微笑みを浮かべながら彼をさらに強く抱き締める。
「平手打ちをしてゴメンね。痛かったでしょ? でもこれで私はあなたに罰を与えたんだから、もうこの件はおしまい。間違っても侮辱罪に問われるようなことにはさせないから。もし何かあったら、私が全力で守るよ」
「う……ぁ……あああああああぁーっ!」
とうとう堤防が決壊したかのように、ノエル様は大きく肩を震わせて号泣した。
やっぱり根は素直で寂しがり屋で甘えん坊。決して悪い子じゃない。私はそう確信しつつ、彼の感情が落ち着くまでそのまま抱き締め続けてあげたのだった。
◆
色々とあった夕食の時間も終わり、お風呂に入るなどして就寝の準備を終えた私は自室で本を読みながら過ごしていた。すでにポプラも自分の部屋に戻っていったから、室内にはほかに誰もいない。
静かな室内には、開け放たれた窓から涼しげな夜風が入り込んできている。それは私の前髪を揺らし、肌を優しく撫でていく。それがなんとも心地良い。
そんな中、不意に部屋の中にドアをノックする音が響く。
こんな時間に訪ねてくるとしたら、思い当たるのはリカルドくらい。そもそも最近はほぼ毎日のことだしね。そして一緒にお茶を飲みながら、何気ない身の回りのことやお互いのことなど色々な話をしている。
お互いに多忙となった今、就寝前のこのわずかな時間がふたりっきりで過ごすことの出来る貴重な機会にもなっている。
「はい、どなたですか?」
「シャロン、僕だ」
「あっ! すぐに開けるねっ!」
リカルドの声だと認識した私はすかさず本を机の上に置き、嬉しさで少し浮かれながら出入口のところへ駆け寄った。その勢いのままにドアを開けると、目の前には柔和な笑みを浮かべたリカルドの姿が現れる。
「やぁ、シャロン。こんばんは」
「あの……こんばんは……。シャロン……殿……」
「えぇっ? ノエル様っ!?」
なんとリカルドの後ろからノエル様がひょっこりと顔を出し、私は声を裏返して驚いてしまった。まさかリカルドのほかに誰かがいるとは思ってもみなかったし、しかもその相手がノエル様だなんて完全に想定外だったから。
(つづく……)
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