嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

文字の大きさ
84 / 178
第4幕:解け合う未来の奇想曲(カプリッチオ)

第3-3節:本気!

しおりを挟む
 
 でもそれは当然だ。リカルドは十五歳という若さであっても、正式にフィルザード辺境伯へんきょうはくという爵位しゃくいを持っている。しかも有事の際にはこの地方を預かり、軍を指揮する立場にある。

 その人物に対して、フィルザード家の指揮下に入る貴族の嫡子ちゃくしが今の発言をするのはマズイ。もしノエル様の発言が外部に知れたら、本当に冗談じゃ済まされない。

 イリシオン王国に対する宣戦布告や反逆の意思ありとして、スティール家の一族はもちろん、家臣すらも連帯責任としてひとり残らず処罰されかねない。女性や幼い子どもでさえも……。

 そういったことを理解しているからなのか、今まで黙って事態を見守っていたキールさんであっても即座に立ち上がり、色を失ってノエル様へと訴えかける。

「ノエル様っ、その言葉はお取り消しくださいっ!」

「うるさいっ! 俺は本気だ!」

 キールさんの必死の進言にも全く聞く耳を持とうとしないノエル様。

 それを見てキールさんはすかさずリカルド様の前に駆け寄り、躊躇ちゅうちょすることなくその場で土下座をする。それどころか額を床にこすりつけ、体を震わせている。

 さすがにその行動に私は度肝を抜かれ、思わず息を呑んでしまう。

「リカルド様、なにとぞ今のノエル様の発言は聞かなかったことに! このキール、命をもっておびすることもいといません! 後生ごしょうでございます! なにとぞっ、なにとぞぉおおおおぉーっ!」

「……安心しろ、キール。これは単なる兄弟ゲンカだ。売り言葉に買い言葉のようなものだからな。僕はごとだととらえているよ」

「っ! あ、ありがたき幸せっ! リカルド様のご慈悲に感謝申し上げますっ!」

「分かったからもう頭を上げろ。お前は何も悪くないのだから。むしろ主君に対する忠義は見事だ。お前のような者がノエルのそばにいて、僕はあらためて安心したぞ」

 リカルドは未だ土下座をしたままのキールさんに対し、優しく穏やかな瞳を向けていた。それを見て、私を含めた周りにいるみんなも一様に安堵あんどの息をらす。唯一、ふて腐れたままのノエル様を除いて。

 それから一拍の間があいたあと、リカルドは体勢をノエル様に向けて表情を再び曇らせる。そして深い溜息ためいきをつくと、肩を落としながら彼にさとす。

「この意地っ張りが……。もうお前は子どもじゃないんだぞ? まだ爵位しゃくいを引き継いではいないが、伯爵はくしゃく嫡子ちゃくしであるのは間違いない。本当にお前の言葉で領地や領民、家臣たちの運命が動くんだ。みんなの命を預かっているということを忘れるな」

「ふんっ、領民や家臣たちの命がどうなったって構わない。むしろ領主のために死ねるのなら本望のはずだ」

「お前なぁ、いい加減に――」

 リカルドが話をしている最中、その場に乾いた音が響き渡った。途端に全員の視線が私とノエル様に注がれる。



 ――なぜなら眉を吊り上げた私がノエル様のほほに強く平手打ちをしたから。


 不意の出来事だったということと何が起きたのか理解できていないということもあって、みんな目を丸くしたまま沈黙している。

 一方、私の右手は平手打ちの反作用によって痛みと熱を帯びている。ノエル様は目を見開いて呆然ぼうぜんとしたまま、叩かれて手のあとが赤く残っているほほへゆっくりと自分の手を伸ばす。

 程なく我を取り戻した彼は奥歯をみ締め、憎しみと怒りを込めた瞳で私の方を見上げた。そのまま不満の声をらそうとしていたようだけど、私の様子を認識した瞬間、毒気を抜かれたような顔になって立ちつくす。

 それはきっと私が瞳から大粒の涙をポロポロとこぼして、ノエル様を真っ直ぐ見つめていたからだと思う。


(つづく……)
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヒロインに躱されて落ちていく途中で悪役令嬢に転生したのを思い出しました。時遅く断罪・追放されて、冒険者になろうとしたら護衛騎士に馬鹿にされ

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
第二回ドリコムメディア大賞一次選考通過作品。 ドジな公爵令嬢キャサリンは憎き聖女を王宮の大階段から突き落とそうとして、躱されて、死のダイブをしてしまった。そして、その瞬間、前世の記憶を取り戻したのだ。 そして、黒服の神様にこの異世界小説の世界の中に悪役令嬢として転移させられたことを思い出したのだ。でも、こんな時に思いしてもどうするのよ! しかし、キャサリンは何とか、チートスキルを見つけ出して命だけはなんとか助かるのだ。しかし、それから断罪が始まってはかない抵抗をするも隣国に追放させられてしまう。 「でも、良いわ。私はこのチートスキルで隣国で冒険者として生きて行くのよ」そのキャサリンを白い目で見る護衛騎士との冒険者生活が今始まる。 冒険者がどんなものか全く知らない公爵令嬢とそれに仕方なしに付き合わされる最強騎士の恋愛物語になるはずです。でも、その騎士も訳アリで…。ハッピーエンドはお約束。毎日更新目指して頑張ります。 皆様のお陰でHOTランキング第4位になりました。有難うございます。 小説家になろう、カクヨムでも連載中です。

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

【コミカライズ企画進行中】ヒロインのシスコンお兄様は、悪役令嬢を溺愛してはいけません!

あきのみどり
恋愛
【ヒロイン溺愛のシスコンお兄様(予定)×悪役令嬢(予定)】 小説の悪役令嬢に転生した令嬢グステルは、自分がいずれヒロインを陥れ、失敗し、獄死する運命であることを知っていた。 その運命から逃れるべく、九つの時に家出を決行。平穏に生きていたが…。 ある日彼女のもとへ、その運命に引き戻そうとする青年がやってきた。 その青年が、ヒロインを溺愛する彼女の兄、自分の天敵たる男だと知りグステルは怯えるが、彼はなぜかグステルにぜんぜん冷たくない。それどころか彼女のもとへ日参し、大事なはずの妹も蔑ろにしはじめて──。 優しいはずのヒロインにもひがまれ、さらに実家にはグステルの偽者も現れて物語は次第に思ってもみなかった方向へ。 運命を変えようとした悪役令嬢予定者グステルと、そんな彼女にうっかりシスコンの運命を変えられてしまった次期侯爵の想定外ラブコメ。 ※コミカライズ企画進行中 なろうさんにも同作品を投稿中です。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里
恋愛
社交界デビューの日。 訳も分からずいきなり第一王子、エルベルト・フォンテーヌ殿下に挨拶を拒絶された子爵令嬢のロザンヌ・ダングルベール。 後日、謝罪をしたいとのことで王宮へと出向いたが、そこで知らされた殿下の秘密。 それによって、し・か・た・な・く彼の掃除婦として就いたことから始まるラブファンタジー。

処理中です...