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第4幕:解け合う未来の奇想曲(カプリッチオ)
第3-3節:本気!
しおりを挟むでもそれは当然だ。リカルドは十五歳という若さであっても、正式にフィルザード辺境伯という爵位を持っている。しかも有事の際にはこの地方を預かり、軍を指揮する立場にある。
その人物に対して、フィルザード家の指揮下に入る貴族の嫡子が今の発言をするのはマズイ。もしノエル様の発言が外部に知れたら、本当に冗談じゃ済まされない。
イリシオン王国に対する宣戦布告や反逆の意思ありとして、スティール家の一族はもちろん、家臣すらも連帯責任としてひとり残らず処罰されかねない。女性や幼い子どもでさえも……。
そういったことを理解しているからなのか、今まで黙って事態を見守っていたキールさんであっても即座に立ち上がり、色を失ってノエル様へと訴えかける。
「ノエル様っ、その言葉はお取り消しくださいっ!」
「うるさいっ! 俺は本気だ!」
キールさんの必死の進言にも全く聞く耳を持とうとしないノエル様。
それを見てキールさんはすかさずリカルド様の前に駆け寄り、躊躇することなくその場で土下座をする。それどころか額を床に擦りつけ、体を震わせている。
さすがにその行動に私は度肝を抜かれ、思わず息を呑んでしまう。
「リカルド様、なにとぞ今のノエル様の発言は聞かなかったことに! このキール、命をもってお詫びすることも厭いません! 後生でございます! なにとぞっ、なにとぞぉおおおおぉーっ!」
「……安心しろ、キール。これは単なる兄弟ゲンカだ。売り言葉に買い言葉のようなものだからな。僕は戯れ言だと捉えているよ」
「っ! あ、ありがたき幸せっ! リカルド様のご慈悲に感謝申し上げますっ!」
「分かったからもう頭を上げろ。お前は何も悪くないのだから。むしろ主君に対する忠義は見事だ。お前のような者がノエルの傍にいて、僕はあらためて安心したぞ」
リカルドは未だ土下座をしたままのキールさんに対し、優しく穏やかな瞳を向けていた。それを見て、私を含めた周りにいるみんなも一様に安堵の息を漏らす。唯一、ふて腐れたままのノエル様を除いて。
それから一拍の間があいたあと、リカルドは体勢をノエル様に向けて表情を再び曇らせる。そして深い溜息をつくと、肩を落としながら彼に諭す。
「この意地っ張りが……。もうお前は子どもじゃないんだぞ? まだ爵位を引き継いではいないが、伯爵の嫡子であるのは間違いない。本当にお前の言葉で領地や領民、家臣たちの運命が動くんだ。みんなの命を預かっているということを忘れるな」
「ふんっ、領民や家臣たちの命がどうなったって構わない。むしろ領主のために死ねるのなら本望のはずだ」
「お前なぁ、いい加減に――」
リカルドが話をしている最中、その場に乾いた音が響き渡った。途端に全員の視線が私とノエル様に注がれる。
――なぜなら眉を吊り上げた私がノエル様の頬に強く平手打ちをしたから。
不意の出来事だったということと何が起きたのか理解できていないということもあって、みんな目を丸くしたまま沈黙している。
一方、私の右手は平手打ちの反作用によって痛みと熱を帯びている。ノエル様は目を見開いて呆然としたまま、叩かれて手の痕が赤く残っている頬へゆっくりと自分の手を伸ばす。
程なく我を取り戻した彼は奥歯を噛み締め、憎しみと怒りを込めた瞳で私の方を見上げた。そのまま不満の声を漏らそうとしていたようだけど、私の様子を認識した瞬間、毒気を抜かれたような顔になって立ちつくす。
それはきっと私が瞳から大粒の涙をポロポロと零して、ノエル様を真っ直ぐ見つめていたからだと思う。
(つづく……)
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