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第6幕:来るべき日の前奏曲(プレリュード)
第2-3節:スティール伯爵との対面
しおりを挟む私としてはリカルドにこんなにも想われて嬉しい反面、何の非もないノエルくんに対しては申し訳ない気持ちにもなる。
「そ、それではシャロン姉さんとの握手は、のちほどさせていただくということにしましょう。――さて、アリア。リカルド兄様たちの出迎えとここまでの先導、ご苦労だった。同行した近衛兵たちも含め、褒めてつかわす」
ノエルくんは気を取り直し、私たちの少し後ろで控えているアリアさんに向かって声をかけた。
すると彼女はその場で片膝を付き、深々と頭を下げる。
「勿体なきお言葉でございます、ノエル様。私としても無事に任務を果たすことが出来てなによりです」
「引き続き、アリアにはリカルド兄様たちの専属饗応役を命ずる。頼んだぞ」
「ははっ、かしこまりました」
「では、リカルド兄様とシャロン姉さん。父と宰相のラグナからご挨拶をさせていただきますので、こちらへどうぞ」
ノエルくんは前へ進むよう手振りを交え、リカルドと私に促した。
その指し示す先には礼服を身につけた白髪交じりの男性と、その人よりわずかに若い感じで文官のような制服を身に付けた男性の姿がある。まだ少し距離があるから顔はハッキリとは分からないけど、そのふたりの背格好に関してはそっくりだ。
おそらくそれがスティール伯爵――つまりノエルくんの父親であるカイン様と、その弟で宰相のラグナ様。いよいよ実際に間近で対面するということになる。
あらためて緊張感が増してくる。だってリカルド以外で爵位を持つ貴族との初めての外交の場ということになるわけだし、私たちの敵かも知れない相手とも言葉を交わすことになるんだから。
これで精神が全く動じないとしたら、その人はよっぽど肝が据わってる。
――ううん、私もそういう気持ちにならないといけない。事ここに至ったのなら開き直って堂々と。辺境伯夫人として恥ずかしくない所作で対応しなければ。気概を持ち、私は心の中でスイッチを切り替える。
一方、リカルドは眉を曇らせながら視線をカイン様とラグナ様らしき人たちの方へ向けつつ、ノエルくんに小声で話しかける。
「ノエル、カイン殿は体調が優れないと聞いているが、ここまで出てきて大丈夫なのか? ほかの貴族が相手ならともかく、僕とカイン殿は旧知の仲だ。過度な気遣いは無用だぞ?」
「少し外に出るくらいなら問題ありません。それにこの場でお出迎えをしたいというのは、父の意思でもありますので」
「そうか、そういうことなら良いが。ただ、決して無理をさせるな。少しでも様子に変化があったら、すぐに対処を。僕たちに対して遠慮はいらん」
「はい! お気遣いいただき、ありがとうございます」
ノエルくんの気持ちを考えてということもあるだろうけど、リカルドにとってもカイン様は大切な人物なんだろうなぁというのが伝わってくる。
こうして私たちはゆっくりと歩を進め、待ち受けている人たちの前で立ち止まる。
そこではすかさずリカルドがカイン様らしき御方に手を差し出し、握手を交わしながら小さく会釈を送る。
「ご無沙汰しております、カイン殿」
「私の方こそご無沙汰をしておりました、リカルド殿。そしてお初にお目に掛かります、シャロン殿。私がヴァーランドの領主を務めているカインでございます」
「初めまして、カイン様。フィルザード辺境伯夫人、シャロンと申します」
私は柔らかな笑みを浮かべ、優雅な仕草で挨拶を返した。
その瞬間、カイン様や周りの兵士さんたちの間で小さな感嘆の声が上がり、私への注目が一層と高まる。私としては令嬢として問題ない所作だったと思うんだけど、今の反応は好意的なものだと捉えて良いのかな?
お化粧をしていたりドレスでも着たりしていれば、多少は粗も目立たずに済んで誤魔化しも利くんだろうけど、今は旅装束のままで肌も汗やホコリにまみれたままだからなぁ……。
そうした不安な気持ちを表に出さないように注意しつつ佇んでいると、リカルドが私の肩を軽く叩いてくる。
「カイン殿、僕たちは旅をしてきたままの姿ですが、それでも我が妻のシャロンは息を呑むほどの美人でしょう? やはり滲み出る真の美しさは隠しきれないですからな。はっはっは!」
「おっしゃる通りですな。ノエルから色々と話を聞いていましたが、お世辞抜きにシャロン殿はお美しい。いやはやリカルド殿が羨ましい。私もあと二十歳くらい若ければ、アプローチをしていたでしょうに」
「……いくらカイン殿といえど、それは許しませんぞ?」
「ふふふ、リカルド殿。もはや何人もリカルド殿とシャロン殿の間に割り込む余地はありません。見ていて分かります。リカルド殿に恥をかかせまいと頑張るシャロン殿とそれを察してフォローに入るリカルド殿。素晴らしいご夫婦です」
カイン様は柔和な表情でリカルドと私を見やった。この短い時間で私たちの心情を見事に見抜いていて、その観察眼と経験に基づく考察力に私は脱帽する。
年の功なんて言ったら失礼かもしれないけど、まさにそんな感じがする。
(つづく……)
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