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息のつまる朝食のあと――
家を出た途端、隼がさっと手を差し出してきた。
「えっと……?」
「手」
手……?
よく分からないまま差し出すと、きゅっと恋人つなぎをされて――
へ?
隼が満面の笑みを浮かべる。その後ろで尻尾がパタパタと揺れていた。
こいつ……“氷のエース”なんて呼ばれてるのに、俺の前ではやたら表情豊かなんだよな。
そのまま隼に先導されて歩く。
尻尾が妙にリズミカルにぱたぱた揺れていて――
……うん、なんか犬の散歩をしてる気分。
学校に着いて、手をぶんぶん振って離そうとしてみるけど、
しっかりと結ばれたその手は、かえって強く握り返されて――
痛いし、恥ずかしい……!
俺は下を向いたまま、きょろきょろと周りをうかがう。
朝練の時間だから、まだあまり生徒が歩いていない。
いても皆、自分の目的地へ向かってさっそうと歩いていく。
……助かった。
胸の奥で小さく息をついた。
俺たちは下駄箱を抜けて、
「じゃ、俺は図書室に行くから」
と声をかけた瞬間――
隼の耳が伏せられ、尻尾がしょんぼりと丸まって……
そして、きゅるるん……とした瞳で俺を見つめてくる。
きゃ、きゃわいい……!
思わず、ひしっと隼に抱きついてしまった。
俺……なんか、ちょろすぎない……?
隼がぎゅっと抱きしめ返してくる。
その腕の力が、やさしくて、あたたかくて。
なんか……癒される。
俺は思わず、ぐりぐりと頭を胸に押しつけた。
くすっと、隼の笑い声が落ちる。
「無自覚な直央、可愛い」
「ぎゃあああああああ!!」
急な悲鳴にびっくりして振り向くと、
少し離れたところで赤くなってぷるぷるしている女子たち――
中には、目頭をそっと押さえてる子まで。
「尊い……」
きらきらした目で見つめられて、
は……恥ずかしい……!!
「じゃ、朝練、頑張って!」
俺はぱっと隼から身体を離し、
そのまま反対方向へ走った。
静まり返った図書室。
なんとなく本棚を眺めているうちに、手が大学案内へ伸びて――ぱらぱらとめくっていた。
ずっと、大学は隼と一緒に行って、バレーを続けるものだと思っていた。
だから自分でも入れそうな大学で、スポーツ学部に入るのだろうと――漠然と考えていた。
こうして見てみると、スポーツって言っても、いろんな分野がある。
ちゃんと準備して挑めば、俺にもまだ可能性ってあるのかもしれない。
そう思うと、胸の奥が少し高鳴った。
これからは自分一人で将来を描いていくことになる。
それは少し怖くて……でも、同時に自由でもある。
ページをめくる音だけが響く。
不安と自由――そのふたつが、胸の奥で静かに溶け合っていった。
その後、教室に向かっていると――
「相馬くんっ!」
たたたっと駆け寄ってきたのは、同じクラスで俺のあこがれだった美羽ちゃん。
試合に負けて……しかも、お姫様抱っこされたのも見られてる。
思わず、へにゃりと眉が落ちた。
「昨日、相馬くんが放課後に帰るのを見かけて……」
「……ちょっと休んでて」
美羽ちゃんがそっと距離を詰めてきて、俺をじっと上目づかいで見つめてくる。
「じゃあ……美羽と放課後、一緒に帰ろ?」
「えっと……」
数日前だったら、間違いなく舞い上がってた。
でも今は――なぜか隼の耳がぴたんと伏せて、悲しそうにしてる姿が浮かんできて。
……いや、なんで隼??
「ごめんっ」
気づいたら、断っていた。
「あ……その……ちょっと今は、そういうこと考えられないっていうか……」
美羽ちゃんがそっと俺の手を包む。
「大丈夫だよ、美羽、待ってるから」
首をこてりと傾けて、ふにゃりと微笑む。
か……可愛い……。
思わず見とれてしまった、その瞬間――
背後から、ひやりと冷気が走った。
次の瞬間、背後から伸びてきた腕が俺をぐいっと引き寄せ、
「わっ!」
その勢いのまま、壁際へ乱暴に押しやられた。
ドゴンッ!!
隼が、腕を壁に打ちつけて俺を捕らえる。
……壁ドンならぬ、壁ドゴンッ!
あまりの衝撃に、声も出ない。
かわりに、心臓がバクバクとうるさい。
ちらっと見ると、美羽ちゃんが顔を真っ赤にして、
般若みたいな顔で隼をにらみつけていた。
こ……怖い……。
そして隼はというと、
今度はこっちを、氷のように冷たい目で見下ろしてきていた。
こっちも……怖い……!
「……もう、浮気?」
低い、地の底から響くような声。
「ひっ……!」
今、『死にたいの?』って聞こえた気が……
違うよね!? 浮気って言っただけだよね!?
いや、もうどっちでもいい――!
俺はぶんぶんと頭を振った。
「い、今、断ってたとこだから!」
隼の目が、わずかに揺れた。
今だ!
――って、どうすればいいの!?
お手?お座り?いや、ここはハグ!!
俺は隼の胸に飛び込んだ。
ぎゅむむっと隼に抱きつく。
隼はしばらくじっと動かなかったけど、
やがて、はぁーっと息をはいた。
そして――ぎゅっと、俺を抱きしめ返してきた。
背中に回された手が、少し震えている。
……すごい罪悪感。
ごめん、飼い主失格だ……って、いや、俺、飼い主じゃないし!?
隼のあたたかさが、じんわりと伝わってくる。
……なんか、安心する。
良かった……どうにか、生き延びた。
家を出た途端、隼がさっと手を差し出してきた。
「えっと……?」
「手」
手……?
よく分からないまま差し出すと、きゅっと恋人つなぎをされて――
へ?
隼が満面の笑みを浮かべる。その後ろで尻尾がパタパタと揺れていた。
こいつ……“氷のエース”なんて呼ばれてるのに、俺の前ではやたら表情豊かなんだよな。
そのまま隼に先導されて歩く。
尻尾が妙にリズミカルにぱたぱた揺れていて――
……うん、なんか犬の散歩をしてる気分。
学校に着いて、手をぶんぶん振って離そうとしてみるけど、
しっかりと結ばれたその手は、かえって強く握り返されて――
痛いし、恥ずかしい……!
俺は下を向いたまま、きょろきょろと周りをうかがう。
朝練の時間だから、まだあまり生徒が歩いていない。
いても皆、自分の目的地へ向かってさっそうと歩いていく。
……助かった。
胸の奥で小さく息をついた。
俺たちは下駄箱を抜けて、
「じゃ、俺は図書室に行くから」
と声をかけた瞬間――
隼の耳が伏せられ、尻尾がしょんぼりと丸まって……
そして、きゅるるん……とした瞳で俺を見つめてくる。
きゃ、きゃわいい……!
思わず、ひしっと隼に抱きついてしまった。
俺……なんか、ちょろすぎない……?
隼がぎゅっと抱きしめ返してくる。
その腕の力が、やさしくて、あたたかくて。
なんか……癒される。
俺は思わず、ぐりぐりと頭を胸に押しつけた。
くすっと、隼の笑い声が落ちる。
「無自覚な直央、可愛い」
「ぎゃあああああああ!!」
急な悲鳴にびっくりして振り向くと、
少し離れたところで赤くなってぷるぷるしている女子たち――
中には、目頭をそっと押さえてる子まで。
「尊い……」
きらきらした目で見つめられて、
は……恥ずかしい……!!
「じゃ、朝練、頑張って!」
俺はぱっと隼から身体を離し、
そのまま反対方向へ走った。
静まり返った図書室。
なんとなく本棚を眺めているうちに、手が大学案内へ伸びて――ぱらぱらとめくっていた。
ずっと、大学は隼と一緒に行って、バレーを続けるものだと思っていた。
だから自分でも入れそうな大学で、スポーツ学部に入るのだろうと――漠然と考えていた。
こうして見てみると、スポーツって言っても、いろんな分野がある。
ちゃんと準備して挑めば、俺にもまだ可能性ってあるのかもしれない。
そう思うと、胸の奥が少し高鳴った。
これからは自分一人で将来を描いていくことになる。
それは少し怖くて……でも、同時に自由でもある。
ページをめくる音だけが響く。
不安と自由――そのふたつが、胸の奥で静かに溶け合っていった。
その後、教室に向かっていると――
「相馬くんっ!」
たたたっと駆け寄ってきたのは、同じクラスで俺のあこがれだった美羽ちゃん。
試合に負けて……しかも、お姫様抱っこされたのも見られてる。
思わず、へにゃりと眉が落ちた。
「昨日、相馬くんが放課後に帰るのを見かけて……」
「……ちょっと休んでて」
美羽ちゃんがそっと距離を詰めてきて、俺をじっと上目づかいで見つめてくる。
「じゃあ……美羽と放課後、一緒に帰ろ?」
「えっと……」
数日前だったら、間違いなく舞い上がってた。
でも今は――なぜか隼の耳がぴたんと伏せて、悲しそうにしてる姿が浮かんできて。
……いや、なんで隼??
「ごめんっ」
気づいたら、断っていた。
「あ……その……ちょっと今は、そういうこと考えられないっていうか……」
美羽ちゃんがそっと俺の手を包む。
「大丈夫だよ、美羽、待ってるから」
首をこてりと傾けて、ふにゃりと微笑む。
か……可愛い……。
思わず見とれてしまった、その瞬間――
背後から、ひやりと冷気が走った。
次の瞬間、背後から伸びてきた腕が俺をぐいっと引き寄せ、
「わっ!」
その勢いのまま、壁際へ乱暴に押しやられた。
ドゴンッ!!
隼が、腕を壁に打ちつけて俺を捕らえる。
……壁ドンならぬ、壁ドゴンッ!
あまりの衝撃に、声も出ない。
かわりに、心臓がバクバクとうるさい。
ちらっと見ると、美羽ちゃんが顔を真っ赤にして、
般若みたいな顔で隼をにらみつけていた。
こ……怖い……。
そして隼はというと、
今度はこっちを、氷のように冷たい目で見下ろしてきていた。
こっちも……怖い……!
「……もう、浮気?」
低い、地の底から響くような声。
「ひっ……!」
今、『死にたいの?』って聞こえた気が……
違うよね!? 浮気って言っただけだよね!?
いや、もうどっちでもいい――!
俺はぶんぶんと頭を振った。
「い、今、断ってたとこだから!」
隼の目が、わずかに揺れた。
今だ!
――って、どうすればいいの!?
お手?お座り?いや、ここはハグ!!
俺は隼の胸に飛び込んだ。
ぎゅむむっと隼に抱きつく。
隼はしばらくじっと動かなかったけど、
やがて、はぁーっと息をはいた。
そして――ぎゅっと、俺を抱きしめ返してきた。
背中に回された手が、少し震えている。
……すごい罪悪感。
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