距離を取ったら、氷のエースに捕獲された件

米山のら

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ぱちり、と目が覚める。

触りごこちのいい、真っ白な広いベッド。
後ろからしっかりと包み込む力強い腕――
……で、一番気にしたくないのに、どうしても気になる、尻に当たってる元気いっぱいの“何か”。

いや、何かって、あれだ。あれ様だ。
俺よりも一回り大きい、元気な男子の象徴。

俺って、ここでも負けてるんだ……。
……分かってても、やっぱり自分がちょっと可哀想になった。

恐る恐る後ろを振り返ると――
隼が甘くとろける瞳で俺を見ていた。

……いや違うから。
こういう朝チュン的甘さは、俺じゃなくて女子にあるべきだから。

「おはよ、俺の直央」

……は?
俺のって何?

後ろからぎゅっと抱きこまれる。
隼の顔が俺の首筋に埋められて――

「んっ……」

「俺も……」

だから、首はやめて!
……っていうか今、隼の中でどんな会話が成立してんの!? 

あっ、そうだ!

「母ちゃんに電話しなきゃ!」

やばい、朝帰りどころじゃない。連絡も入れてない。

玄関で仁王立ちする悪鬼と化した母ちゃんの姿を想像して、さーっと顔から血の気が引いた。

「連絡しておいた」

まじか。助かった……のか?

「直央、もうちょっと寝よ」

いや、朝練行くならそろそろ起きるべきだろ。

たくましい腕にしっかり抱きこまれていて――

しかも、引き続き当たってる。
あなたの大事なお子様が元気いっぱいで、ぴんぴんしてるんですが。

……これ、絶対助かってないやつだ。

「おい、起きろ」

「もうちょっと」

こいつ、こんなに朝に弱かったか?
俺をひしっと抱きしめて、顔をうずめて、必死に二度寝しようとしてる隼。

か……可愛い。
これが大型犬の甘える破壊力……。

うう……なんか罪悪感。でも、

「サボったら絶交って……言ったよな?」

びくりと隼の身体が震えて、目を潤ませながら俺を見てくる。
切れ長の男らしい目なのに、なぜかすごく可愛い……。

時々見える、ぺたりと伏せられた犬耳とうるうるお目目。
見てたら、胸がきゅんって……。

え、きゅんってなに?
どういうこと?!

俺の動揺に気づかない隼が、上半身を起こす。

へ、上半身裸?!

普段は後ろに流している髪が、寝起きで少し乱れて頬にかかっている。
それを無造作にかきあげる仕草が、やけに色っぽい。
引き締まった腕、たくましい胸板、割れた腹筋。

むんむんに漂う男の色気。

……エロい。

やばい、鼻血出そう。
男同士なのに。

あまりの色気に当てられて、目のやり場がなくなって、そわそわと視線をさまよわせた。

「直央、綺麗」

へ?

隼の目に、ぽっと情欲の炎がともる。

……待って、え?

カバーがいつの間にかめくれていて――
のぞいた自分の上半身に、息が止まった。
……え、俺も上半身裸!?

確かに昨日、制服のまま寝たはずだよな!?
脱いだ覚えなんて――ない!
しかも、上半身裸の男に抱きしめられてたなんて!

「破廉恥!!」

がばっとシーツを引き寄せて、頭までかぶった。
……これ、ほんっとに破廉恥だ!!

真っ赤になってぷるぷる震えていると、
シーツ越しに、隼がそっと耳もとに顔を寄せて――

「シャワー、一緒に入る?」

「い……行きません! 俺はお前を、こんな破廉恥な子(愛犬)に育てた覚えはありません!」

耳もとでクスッと笑って、隼は部屋を出ていった。

なんであんなに余裕なの?!

隼が戻ってくるまで、俺はベッドカバーの中で考えていた。

いつ制服を脱いだんだ……いや、脱いでない。
ってことは、隼が――?

隼が制服を脱がすところを想像した瞬間――

やば……エロい……。

腹の奥がじんっと熱くなる。
え、これってどういう……?

シャワーを借りて、制服に着替えてリビングに出ると、
もう朝ごはんが用意されていた。

席につくと、俺の好きなカフェオレがすっと出てくる。
その横には、カリカリのベーコン、ふわふわの野菜入りオムレツ、
そして、俺好みの焦げ目がしっかりついたカリカリトースト。

生野菜が苦手な俺のことを完璧に考慮した――完璧な朝食。

「ありがと……」

隼が、ふっと口角を上げる。

「恋人、だから」

「恋人って……」

やばい。
昨日からおかしなことになってるのが、まだ続行中だ。

「食べて」

にこり。
けど、目が笑ってない。
圧がすごい。めっちゃ食べろって言ってる。

おそるおそるオムレツを一口。
ふわっと野菜の甘みが口いっぱいに広がった。

「……美味しい」

思わずつぶやいていた。

何から何まで。
見た目も、スポーツも、勉強も、それから家事まで完璧で――

そんな完璧超人と一緒にいて、才能がなくてバレーを辞める俺は、みじめで……

「隼……昨日の告白だけど、あれ違うから。なんか、受け入れたって勘違いしてたら――」

空気が、一瞬で重くなる。
どす黒い気配が、じわじわと這い寄ってくる。

え……?

見ると、隼の顔からすべての感情が抜け落ちていて――
光を失った瞳が、冷たく俺を射抜いていた。

「嘘、ついた?」

地を這うような低く沈んだ声に、喉がひゅっと詰まった。

「ち……違っ……」

「じゃあ、同じ好き?」

ごくりとつばを飲みこんだ。
このままじゃいけない。
ちゃんと言わないと。

「ち……」

すうっと、隼の目が細められる。
刃のように鋭い視線に、息がつまった。

……ダメだ、本当のことを言ったら。
言った瞬間、きっと取り返しのつかないことが起こる――。

からからに渇いた喉で、どうにか声を絞り出した。

「……好……き」

「俺も」

にこり――今度の笑みは、さらに黒かった。

獲物を逃さないような目で俺をとらえたまま、
そっと手を取り、優しいキスを落とした。

……あまりの暗い圧に屈してしまった。
俺は心の中で、ほうっと重い息を吐いた。
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