距離を取ったら、氷のエースに捕獲された件

米山のら

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放課後。

帰り支度をしていると、案の定、隼がいそいそと近づいてきて――
でも、その背後からハラセンの私兵、もといチームメートが現れ、
隼の腕をつかんで部活へと連行していった。

思わず苦笑しながら、手を振る。
……しょんぼり垂れた犬耳と尻尾が見える気がする。

うん、今日も安定の忠犬ぶり。

駅に着くと、まわりはみんなそれぞれの行き先へ急ぎ足で向かっていて、
その中で俺だけ、立ち止まっていた。

家には帰れない。
まだスタメンのこと、家族に話せてないし、
練習をまた休んだと知られたら、今度こそ病院送り。

みんなは迷いなく進んでいくのに――
俺だけが、行く場所もない。

……このまま、俺だけ取り残されていくんだろうか。

気づけば図書館にいた。

勉強室へ入り、周りの生徒に混ざって教科書を開く。
宿題をしてもまだ時間が余り、期末試験の範囲まで読み返した。

このまま、こうして――
なんの目的もなく、残りの高校生活を過ごしていく。

それって……あまりにもつまらなくて、あまりにも長い。

重い足を引きずるように家へ帰ると――

隼がいた。

「ちょ、お前、何してんだよっ」

お前がいたら、俺が部活サボったのバレるだろ!

腕を引こうとしたら、逆に強くつかまれて――
そのまま隼の家へ。

……あれれれ?

モダンで広い玄関を抜け、二階の隼の部屋へ引きずり込まれる。

「ちょ……待てって……お邪魔しまーす!」

「誰もいない。出張」

「へぇ、二人とも?」

「アメリカとフランス」

「すげぇな……」

隼だって大学から声がかかってる。

先を歩く隼のたくましい背中を見ながら、
隼にも置いていかれる未来がよぎって――

胸がズンと沈んだ。

隼は俺をベッドへ座らせ、その前で膝をつく。

「真央、聞いた」

心臓が跳ねた。
喉が詰まり、息がうまくできない。

「何……を?」

「スタメンのこと」

「ハラセン!」

まだ言わないって言ってたのに!

「俺にだけ。脅したらゲロッた」

脅したって……先生を!?

ぎょっとして隼を見ると、隼がまっすぐに俺を見つめていて――
何も言えなくなった。

……そっか。
もう、知っちゃったんだ。

本当は、自分の口から言いたかったけど……たぶん言えなかった。

ぽたり。

涙が落ちる。

……あ、俺泣いてる。
ダサ……部活くらいで。

隼がそっと俺の手を取る。

膝をついて、童話の王子さまみたいだ。
変なの。俺なんか相手に。

「俺、一緒に大会目指したかったよ……。 でも牛乳飲んで腹壊しても背は伸びなくて、試合もずっと隼頼みで……。 ごめん、一緒に全国って約束、守れない」

言葉にしようとしただけで、胸がえぐられる。
でも、もう逃げられない。

「……俺、バレー辞める」

言った瞬間、張りつめていたものがぷつんと切れて――
涙があふれた。

「俺も辞める」

「は……?」

はぁ!?
俺が辞めんのは、お前のためだろうが!!

怒鳴りたいのに言えなくて、にらみつけると――

隼が、号泣。

「……なんでお前が俺より泣いてんの?」

頭の中に疑問符が次々に浮かんで、
怒りも、嫉妬も、寂しさも――
ぜんぶ吹っ飛んだ。

犬耳がぺたり、尻尾もしょんぼりしてる幻が見えて、
なんだか、ふっと力が抜けた。

思わず笑ってしまう。

「……お前、辞めたら絶交な」

「辞めない」

「これ以上サボっても絶交」

「サボらない」

「でもさ……俺がバレー辞めても、ずっと一緒って約束だけは継続でいいか?」

隼の切れ長の目から、大粒の涙がぽろぽろこぼれて――
なんか、綺麗だと思ってしまった。

「直央!」

「うわっ!」

隼が勢いよく抱きつかれ、そのままベッドへ倒れ込む。

ふたりで横になり、おでこをくっつける――
小学生のころ、よくこうして話してた夜を思い出して、胸の奥がじんわりあたたかくなった。

「直央、好き」

「俺も……」

ずっとこうやって、友情を確かめてきた。
変わらないって安心した――

……のに。

隼が腰を引いて寄り添ってくる。
息が触れ、心臓が跳ねる。

「直央、違う」

違う……?

「俺のは、こういう好き」

彫刻みたいに端正な顔が近づき、
想像もしなかったやわらかさが、そっと唇に触れた。

へ……??? 
キス!?!?

え、どういう好き?!

あっ!!!

「そういう好き?!?!」

くすり、と隼が笑う。
とろけそうな目で見つめてきて――

「パニくる直央、可愛い」

「可愛いって……」

隼が完全に壊れた。

今度は、くちびるが俺の首筋をなぞる。
そのたびに、腹の奥がじん……と熱くうずく。

「直央も、同じ好き?」

「んっ……」

あ、違うから!
これは肯定じゃないから!
首がくすぐったかっただけだから!!

むっとにらむ俺に、隼はにこりと笑った。
目はぜんぜん笑ってない。

ぞくり……完全に、獲物をとらえる目。

「じゃ、いいね」

「だから何が――」

言い終わる前に、くちびるをふさがれた。

ぬるりと肉厚の舌が入り込む。

「ま、待っ――」

くちゅ、くちゅ……
いやらしい水音が、静かな部屋に響きわたる。
逃げる舌を絡め取られるたび、全身が甘く痺れていく。

「んぅ……」

理性も、孤独も、躊躇も――
全部ぐずぐずに溶けて。

――もう、何も考えられなくなった。
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