転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら

文字の大きさ
2 / 15

しおりを挟む
三カ月前――春。
俺は中規模の企業に新入社員として入社した。

大学まで続いた女子たちの謎の“同盟ハブり”からも解放され、
「今度こそ友人を作ってやる!」と胸を躍らせて新人研修に臨んだ。

……が、慣れない交流で体調を崩し、あえなく入院。

ようやく体調を立て直して迎えた久しぶりの出勤日。

ドアにぶら下がっていたのは――山盛りのみかんだった。

見渡すと、他の部屋のドアにもいくつか同じ袋が。

アパート前を掃除している管理人のおばあさんに声をかけた。

「あの、みかん……」

「それねぇ、106号室の子よ。知ってるでしょ?真面目そうな学生さん。
ご両親が愛媛で農園やっててね、段ボール二箱も送ってきたの。
私に、二箱も! 二箱よ!!」

「そう……なんですね」

おばあさんのテンションが、すんっと落ちる。

「そう……なのよ」

――沈黙。
カラスの鳴き声だけがむなしく響く。

あ、相槌を外したらしい……。研修であれほど練習したのに。
でも、人とのふれあいが極度に低い俺には至難の業だ。

今からでも巻き返せる?

「あの……」
「行ってらっしゃい」

笑顔の管理人さん。

でも、目が笑ってない。
……もう行け、って圧がすごい。

「行って……きます」

結局お礼も言えないまま、会社へ向かった。

翌日。
またドアに袋があって。
今度は――高級レストランのお弁当。そして小さなカード。

『まだ体調も本調子ではないでしょうから、どうぞ体力をつけてください』

見回すと、今回は他の部屋にはない。

俺には分かった。
これは会社から入院の連絡をもらった管理人さんが、気を遣ってくださったんだと。

袋を持ち上げて声をかける。

「いつも……ありがとうございます」

管理人さんがぼけっと俺と袋を交互に見て、それからほうきを掲げた。

「いいえねぇ、これはおばちゃんの毎日のおつとめだから」

……おつとめ?

そのうちお弁当だけじゃなく、ネクタイやシャツまで入ってくるようになった。

『いつも見守っています』
『今日も悠里の笑顔を楽しみにしているよ』
『大好きだよ』

心がほんわか温かくなるカードも添えられていて、
俺は毎朝「ありがとうございます」と管理人さんに伝えるのが日課になった。

そんなある日。新入社員の飲み会。

「ねえ王子くん、そのネクタイ、イタリア製だよね?」

きゅるるんって効果音が似合う、上目づかいの桃瀬さん。

「王子くんって、実はお金持ちなんでしょ?もしかして本物の王子さま?」

「いや、これ貰いもので……」

「またまたぁ。お昼のお弁当も、いつも高級レストランのだよね?」

「えっ……あれは管理人さんが……」

「すごーい! じゃあタワマン? コンシェルジュ?」

「いや、極貧アパートで……」

「やだぁ、王子くんの謙遜ジョーク面白ーい」

その後、桃瀬さんは俺の腕に絡みつき、
「酔っちゃったから、泊めて?」と甘えてきて、そんなスペースはないからと断る俺を半ば強引に連行してアパートへ。

――が。

自宅に一歩足を入れた瞬間。

桃瀬さんの声が、一気に低く落ちた。

「……金ねーじゃん」

「だから無いって何度も――」

「アンタさぁ、金持ってるふりして女持ち帰るとか――マジ無理」

そのとき、桃瀬さんの視線が壁のメッセージカードに止まった。

俺はちょっと嬉しくなって、

「これ、いつもお弁当と一緒に入ってて、管理人さん優しいなって……」

けれど、桃瀬さんの顔色がさーっと変わり、真顔でつぶやく。

「……これ、ストーカーじゃん」

「えっ」

「私、ただの同僚だからーっ!!」

叫ぶや否や、ドアを叩き開け、靴もろくに履かず闇夜に消えていった。

次の日。

ドアノブにかかっていたのは、ずたずたに裂かれたネクタイと――
赤インクで大きく書かれたカード。

『浮気もの』

手が震えて、袋ごと床に落ちた。

……桃瀬さんの強行のおかげで、俺はやっと気づけた。

なぜか噛み合わない管理人さんとの挨拶の理由に。

そして――俺のストーカーの存在に。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。

くまだった
BL
 新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。  金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。 貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け ムーンさんで先行投稿してます。 感想頂けたら嬉しいです!

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

婚活アプリのテスト版に登録させられたら何故か自社の社長としかマッチング出来ないのですが?

こたま
BL
オメガ男子の小島史(ふみ)は、ネットを中心に展開している中小広告代理店の経理部に勤めている。会社が国の補助金が入る婚活アプリ開発に関わる事になった。テスト版には、自社の未婚で番のいないアルファとオメガはもちろん未婚のベータも必ず登録して動作確認をするようにと業務命令が下された。史が仕方なく登録すると社長の辰巳皇成(こうせい)からマッチング希望が…

親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。

処理中です...