転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら

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『昨日はごめんね。変わらず愛しているよ』
『今、悠里との新居を準備しているよ』
『もうすぐ迎えに行くよ』

――翌日から、またお弁当が用意されるるようになった。

最初は「食べ物に罪はない」と思って口にしていた。
けれど、あれほど美味しかったはずのお弁当の味が、もうしなかった。

やがて喉に引っかかるようになり、無理に掻き込めば吐いてしまう。
ついには食べ物そのものを受けつけなくなった。

お弁当は桃瀬さんに譲るようになり、彼女も最初は戸惑っていたが、今ではすっかり喜んで受け取っている。
俺はといえば、無理やりゼリー飲料を流し込むだけ。

痩せて、ふらふらで。
もうまともに立っていられなかった。

そんな時――

『今夜、迎えに行くよ』

たった一文を見た瞬間、背筋を氷でなぞられたみたいに体が固まった。

……怖い。

けれど、もう疲れ果てていた。
「これでやっと終わる」と、どこかで思ってしまった。

会社へ行き、残業もいつも通りを装ってこなした。

そして、自宅の駅を出た時だった。

こつ……こつ……

暗がりに響く靴音。
それに気づいた瞬間、呼吸が荒くなり――

気がついたら、駆け出していた。

やっぱり無理……!

……そうして、俺は走り続けている。

気づけば、大通りに出ていた。
この先を突っ切れば、警察署がある。

それだ!

ストーカーを振り切るためにも、大通りへ飛び出した――

その瞬間、車のライトが目に焼き付いた。

耳をつんざくブレーキ音。

ドンッ!!

全身を重い衝撃が襲い、宙を舞う。
地面に叩きつけられ、視界が暗闇に沈んだ。

あーこれ、テンプレもテンプレ。
俺、詰んだ。

こつ……こつ……

近づいてくる足音。

でも――もう、今さら。

そうして、俺は意識を手放した。


***


静まり返った空間。

ぱらり……と紙をめくる音。
カチャ……と陶器の触れ合う音。

それだけが、かすかに響いていた。

俺の意識はゆっくりと浮上し、ぱちりと目を開ける。

そこは、真っ白な世界だった。

高い天井。優しく揺れる白いレースのカーテン。
真っ白なベッドカバーに包まれて、俺は横たわっていた。

その隣には――この世のものとは思えないほどの美丈夫。
紅茶を口にしながら、静かに本を読んでいる。

胸元までさらさらと流れる金髪。
長いまつ毛に縁どられた、宝石のように輝くエメラルドの瞳。
まるで美の化身と錯覚するほどの端正な横顔。

光沢のある白シャツはゆるくはだけ、色気まで漂っていた。

――神さま? ここは天国?

やっぱり俺、車にひかれて……死んだのか?

あれ、でも……どうして車道に飛び出したんだっけ?
記憶が霧に包まれていて、思い出せない――

ふぅっと息が漏れる。

親に捨てられ、祖母と二人きりの極貧生活。
唯一の味方だったその人も、もういない。
おまけに苗字が王子というだけで、ずっと“王子さま”呼びが定着して距離を置かれてきた。
女子からは謎の“同盟ハブり”。

そして極めつけはストーカー。

……未練のない人生だったかも。

でも――女子たちに転生テンプレを叩き込まれていたおかげで、今こうしてパニックにならずに済んでいる。そこだけは感謝かな。

目に涙がにじんできた。

「神さま……俺、次の人生は、ちゃんと恋がしたい。
みんなに避けられて、勝手に愛されるんじゃなくて……
たった一人の人と、“大好きだよ”って言い合えるような……そんな恋を」

涙があふれ、ぼやけた視界の中で神さまがのぞき込む。
温かく大きな手が、そっと俺の手を包み込んだ。
そのぬくもりに安心して、意識はゆっくりと遠のいていく。

「もちろん叶うよ……」
――そんな声が、確かに聞こえた気がした。

良かった。神さまが約束してくれた。
次の人生を楽しみに、俺は深い眠りに落ちていった。
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