現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央

文字の大きさ
23 / 34

埋もれた真実

しおりを挟む
「まるで詐欺師か泥棒のようね」

 聖女は教会に集まった村人に向かい、そう言い放った。
 アレンが「ちっ……」とうめき、ウロブ長老はぐっ、と言葉に詰まり、ディアスは瞳を伏せて俯いてしまう。
 イブリースというアレンの弟は相変わらず不敵な視線を向けて来たし、村人の多くは目を伏せるかにらんでくるかのどちらかに別れた。
 村長を含めた彼らはいきなり飛び出た自分たちへの非難に、戸惑いや怒りや恥じらいや悔しさや。
 そして、よそ者が語るきれいごとだ、とばかりに怒りの色をその目に浮かべていた。

「まだら模様よりは蒼が良く売れたわけですか、村長。それにウロブ長老も」
「ライラ、それは違う……誤解だ」

 ウロブが待ってくれと手を伸ばして語ろうとするが、ライラはその手を軽く払っていた。
 汚らわしい、寄らないでと暗に告げていた。
 聖女の怒りはおさまらない。
 売った後に買い戻すわけでなく、奪い返すなんてそれこそ、恥知らずだわ。
 子供を失った悲しみと、いずれは戻ることが決まっている安堵のはざまで、村人は子供たちを売り買いしていた。
 同族が生き残るためとはいえ、それはやるべきことなの?
 ライラはこの事実に思い至り、どうして自分に連絡が来なかったか痛く理解していた。 

「私に何も言えないかった理由が良く分かりました。ついでに戻って来て欲しくなかった、その真意も、ね。どうして……こんなことになったの」
「だが、仕方なかった!」
「村長? 仕方ないことなどないでしょう! せめて、この十年間だけでも私を頼ってくれていたら……大神官様にお願いして状況を変えることだってできたかもしれないのに!」

 悲しむ家族を救えたかもしれないのに。
 子供を数年でも見知らぬ誰かのもとに、奴隷として売ることに抵抗がない親なんていないはずだ。
 ライラはそう思う。
 しかし、ウロブはそれは無理だ、と首を振って否定した。

「ライラ、これはこの村の行ってきたことなのだ。ずっと、昔からな……」
「呆れた……」
 
 どうして! と、ライラは悲しみの声を上げる。
 だが税が納められない貧しい家々はその子供を売ることで、代価を得て生活してきた過去があることも思うと、それ以上のことは言えなかった。
 三年前から、取り戻すことを始めた首謀者だと思われるアレンがウロブに変わって口を開いた。
 長老ばかりを責めるな、そんな感じだった。

「そうしなければ、誰もが罪人として処刑されただろうな、ライラ」
「アレン……貴方までそんなことを言うの」
「きれいごとじゃ生きていけない。この国では蒼狼は特にそうだ。扱いもひどく、身分も低い。子供が成長するのがある時期まで遅く、それを越えれば一気に成人になる。意味が分かるだろ? 人や魔族を買うよりも効率的なんだよ」
「効率的、なんて言葉をその口から言われるなんて思ってもみなかった。貴方は唯一の――精霊王様に誓いを立てた仲間だと思っていたのに」
「ライラ! だから、だろ。そうだったから取り戻すことにしたんだ。俺だって出ていなきゃ同じ目に遭っていた……ディアスのように、な」
 
 師に名を呼ばれて真っ蒼のディアスはさらに俯いてしまう。
 まだら模様よりも、蒼の方が価値がある。
 それはライラの正しい予測だった。
 つまり、ディアスは肉体労働に従事させるために売られた他の子供たちとは違ったというわけだ。
 愛玩や物珍しい存在として――売られたのだろう。
 その過去を掘る下げることが正しいとは、ライラには思えない。
 つまり、これ以上むかしのことに言及するな、アレンは暗にそう言っていた。そうだったからと彼が言った一言もライラには安堵を与えた。
 精霊王に誓ったあの約束を守り、アレンは自分のことを信じていてくれたのだと遠回しにだけど、分かったからだ。

「そうね……」

 ライラはひとつだけ大きな間違いに気づいた。
 推測の大まかな部分はただしかったけど、あることが大きく違った。
 奴隷の売買ははるかな数世紀前からあったことだ。
 それを今更、村の指導者たちを非難しても意味がない。意味はあるが、これから先止めさせるとかそれくらいにした役立たない。
 誤りは、三年前からうしなった村人を奪還してきたことだった。
 売って、それで得たお金で税金を払い、恣意的にだまって取り戻すようなことではなかったことだ。
 いや、もしからしたらそれもあるかもしれないが……いまは正確ではなかった。

「いま広場に集められている子供たちはどういうことですか、村長」
「あれは隠していたんですよ、聖女様!」
「ゼフト神官、あなたまで――でも、そうね。あなたも関わっていた。隠していたとは?」
「あれだけ多くの神殿騎士がやって来たのです。最初はこの村にしにきたのかその本意がわからなかった。子供たちをさらう気なのかもしれない。そう思うのは当然です」

 そう思うのも当然って……。
 なんだろう、最後の一言が妙にこころを揺らした。なにかが頭の片隅に引っかかる、そんな感じだ。
 奴隷の売り買い。
 アレンと神官による奪還。
 王太子の近衛騎士による誘拐事件。
 どれが本当、なのとライラは聞いたすべてに首を傾げた。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので、聖女になりました。けど、こんな国の為には働けません。自分の王国を建設します。

ぽっちゃりおっさん
恋愛
 公爵であるアルフォンス家一人息子ボクリアと婚約していた貴族の娘サラ。  しかし公爵から一方的に婚約破棄を告げられる。  屈辱の日々を送っていたサラは、15歳の洗礼を受ける日に【聖女】としての啓示を受けた。  【聖女】としてのスタートを切るが、幸運を祈る相手が、あの憎っくきアルフォンス家であった。  差別主義者のアルフォンス家の為には、祈る気にはなれず、サラは国を飛び出してしまう。  そこでサラが取った決断は?

ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜

嘉神かろ
恋愛
 魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。  妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。  これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?

小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。 しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。 突然の失恋に、落ち込むペルラ。 そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。 「俺は、放っておけないから来たのです」 初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて―― ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。

悪役令嬢なので最初から愛されないことはわかっていましたが、これはさすがに想定外でした。

ふまさ
恋愛
 ──こうなることがわかっていれば、はじめから好きになんてならなかったのに。  彩香だったときの思いが、ふと蘇り、フェリシアはくすりと笑ってしまった。  ありがとう、前世の記憶。おかげでわたしは、クライブ殿下を好きにならずにすんだわ。  だからあるのは、呆れと、怒りだけだった。 ※『乙女ゲームのヒロインの顔が、わたしから好きな人を奪い続けた幼なじみとそっくりでした』の、ifストーリーです。重なる文章があるため、前作は非公開とさせていただきました。読んでくれたみなさま、ありがとうございました。

処理中です...