ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

文字の大きさ
167 / 240
英雄奪還編 後編

七章 第十六話 バーロンガムの混乱

しおりを挟む

巨帝、ウォール・ダイハードの治める国バーロンガム。巨人族が住むこの国には芸術的とも言える巨大な建物が立ち並び、それらが生み出す壮観はバーロンガムの象徴である。
しかし現在、活気を失ったその国の景観は破壊され静謐がたちこめていた。

「····グハッ–」

多くの者が地面に横たわりまさに血の海と言った状況。
地面に膝をつき血を流していたのはダイハードであった。
現れた敵は僅か二人。大天使に加えてたった一人の機人族である。
しかしこのたった一人の機人族により巨人族の兵団は壊滅させれたのだ。
そうして他の巨人族は血を流しその巨体を地面に伏せていた。

ダイハードの他に意識があったのはウォール・オーダリ。ダイハードの一人娘である。

(すまねぇッ—親父····私を庇ってるせいで)

致命傷を逃れていたオーダリだったが死という運命はすぐ近くまで来ていた。激しい体力の消耗により視界は薄まり、相手の動きに注意することは愚か意識を保ちその全力を出すことも厳しい状況であった。

「ここまで堕ちていたか。期待外れも甚だしい」

そう冷たく言い放ったクドルフは以前にこの場所へ訪れダイハードに傷を負わされた大天使である。大天使としてのプライドを傷つけられたクドルフにとってこの場所に訪れたのはある種の復讐であった。

「下界の民ッ—如きがッ——このッ—私にッ—!!」

「やめろッ—! どけ親父ッ!!」

オーダリを庇い身体に何発もの蹴りを入れられていたダイハードは無言のまま下を向いていた。
父親が侮辱され、目の前で血を流してる。その状況を理解しつつ何もできない自分にオーダリは絶望していた。

(違う····私が邪魔なんだ。私がいるから親父が全力を出せてねぇ)

ダイハードの契約する『意思のある武器』はグラダリアという名を持つ人間にとってはあまりにも巨大な金槌である。
しかし現在ダイハードは武器を持っていない。クドルフの策略によりグラダリアは一時的に封印されてしまったのだ。

「お前」

「な、なんだ」

「それ以上相手を侮辱することはやめろ。このまま続ければお前を敵と見なし排除する」

「····チッ」

クドルフは離れる際の反動でダイハードの身体を蹴り飛ばし少し距離を取った。

「親父····もういいから」

オーダリにとって今最優先すべきは自身の安全ではない。父親の命である。
巨人族最強と呼ばれている父親がまるで手も足も出ない、まるで雑兵の如く仲間が倒れていく。
そんな状況で願えるのはこれ以上誰も失わないことだった。

しかしダイハードはゆっくりと首を横に振る。
傷だらけの身体を持ち上げオーダリの頭は優しく撫でた後、目の前に立つ機人族を睨み付けた。

「巨帝よ、我と本気で戦う覚悟はあるか」

「覚悟など、とうの昔に出来ている」

「····そうか。ならば話ははやい。天使、武器を此奴の元へと戻せ」

「なっ、何を言っている。目的は巨帝をこちらに取り込むこと。これ以上時間をかけている暇などッ—」

「もう一度言う。戻せ」

「······クソッ—さっさと終わらせろ」

渋々承諾したクドルフにより封印は解かれ、グラダリアはダイハードの元へと戻っていった。

(すまんなダイハード、大天使の封印如きで)

(構わん、俺の不注意でもある)

(····これだけは言わせてもらおう。お主と共に滅びるのならばわしは一向に構わん)

(······そうか、感謝するぞ。ただ今日がその日では無い、俺にはまだ娘がいる。それに、お前と一緒に語したい相手がいる)

「オーダリ、離れていろ」

「······分かった」

「そこの天使。この戦いに一切の手出しをするな」

無論クドルフがオーダリを攻撃することはない。もしこの場で勝負に水を差すようなことをすればダイハードよりも先に死ぬのは自分であると理解していたからである。

「強き者よ。お前の名は」

「······モルガンだ。ゆくぞ、ウォール・ダイハード」

呼吸を整えたダイハードは全身の力を込めた。戦闘において力を抜き身体を楽にすることは重要である。
しかしモルガンを前に一瞬でも緊張感を解き防御を捨てることは危険であった。

そして、走り出した。顎を引き鋭い眼光でモルガンを睨みつけながら姿勢を低くする。
右手に持った巨大なグラダリアは解放されたように魔力を放ちダイハードを包み込む。
ダイハードは巨体でありながらも素早い。
軽々とグラダリアを振り回しモルガンの頭部に振りかざす。

モルガンの精密な機械で作り込まれた右目はその動きを追尾し素早く後ろに避けた。
地面は割れ、大小の岩石が空中を舞う。

「フゥ—」

グラダリアを地面に打ち付けたままダイハードは舞い上がった岩石に息を吹きかけた。
岩石は軌道を変えモルガンの身体へと吸い込まれるように向かっていく。

「ッ——」

強固な防御力を持つモルガンにとって飛んできた岩石を避ける必要はなかった。
しかし直前で何かを察したモルガンは岩石を弾く。
本能がそうしろとモルガンの手を動かしたのだ。

(····これは)

直前に感じた違和感。弾いた岩石からは予想を遥かに超えた質量を感じたのだ。

(意思の特性か。触れた物の質量を増大させ、それに加えて硬度を上げるといったところ。だが重さが増えれば今の軌道は不自然だ)

予想外の攻撃に少し姿勢が崩れたモルガンの視界の下から地面についていたはずの鎚が迫っていた。

「グッ——」

しかしモルガンの鋼鉄の足は鎚を軽々と弾き返しダイハードの顎を蹴り上げる。
意識が飛ぶ程の威力。衝撃は一瞬で広がりその波動は身体中を駆け巡った。

(起きろダイハードッ)

「ッ—!!」

グラダリアの声でダイハードは途切れかけた意識を無理矢理呼び起こし受け身を取った。

「メテオ・プラトン」

ダイハードの眼は天空の一点を捉える。そしてその眼力に応えるようにして何かが生み出された。
そこはまさに無の空間。ダイハードに応えたのは宇宙空間の一点であった。
無限とも言えるその空間に散らばる無数の結晶。その一部が魔力に応え寄せ集まる。
拡がり続ける宇宙においてその大きさは塵に等しい。
だがその塵は地上にとっては”隕石”と呼ばれる。

「ほう、面白い」

モルガンはその顔に小さな笑みを浮かべ大気圏を突入しながら轟々と燃える隕石を見つめた。

(隕石の硬度を変えるか? だが何故ここに撃ち込む。娘とこの国共々自爆する気か)

「ハァアアアア」

ダイハードの鍛え上げられた筋力は凄まじい覇気を放ちながらグラダリアを振るう。
しかしそこにモルガンはいない。グラダリアは空を殴り空気の塊が迫り来る隕石に迫ったのだ。

(間接的に金鎚と触れる場合でも変化を及ぼせるいうことか)

モルガンの推測は概ね正しいように思えた。たが少し、考えが甘かった。
迫り来る隕石は瞬きと同時にその巨大な姿を消し去り轟音は静まったのだ。

「大地よ、我が魔力に応えその身を振え」

モルガンが目の前の事象を頭で処理する前に突然地面が揺れ始める。
次第に激しくなる揺れを避けるため空中に飛び上がった。

(何が目的だ。この程度の力で)

しかし突然隆起した地面は空中に浮かんだモルガンを追尾するようにして動き始める。
地面だったものは細く太く、長く短く変形しながら無数の手となりモルガンを上へと追い詰めていった。

(もっと上だ。もっとッ)

絡まり合うこともなく伸びた無数の手は高速でモルガンを追尾した。
だがモルガンの飛行速度はその速度を遥かに凌駕する。
正確さ、素早さ、反射神経そして桁外れの空間認識能力により現状態でのダイハードが相手をできる範疇を超えていたのだ。

「この程度では当たらんぞ。我を楽しませろ」

モルガンは挑発によりダイハードの更なる強さを引き出そうとしていた。
同時に湧き上がってくる妙な違和感を放ったまま。

(先程の隕石は。ただの陽動とは思えん。それに先程から空中で妙な魔力が渦巻いている)

更に高度を上げるが地面から伸びた手は際限なく伸び続ける。
遥か上空のモルガンを掴もうとするその手の数は減るどころか枝分かれし更に増えていった。

(魔力の無駄遣い、他の目的があると考えるべきか。硬度、質量それだけでは無いとすれば····誘導されている)

「ッ———」

その考えが頭を過った時、真下から猛烈な熱波が押し寄せ身体中が熱気に包まれた。

「—フッ」

モルガンは自然とその能力を賞賛してしまった。再び現れた”隕石”は重力に従い落下して行くことはない。
重力に抗うようにしてその”隕石”は天高く舞い上がっていた。

(大きさも同様ということか。隕石を我と衝突させる直前に視認できぬほどの大きさまでに縮め軌道を上に変えた後、我を上に誘導させた状態で大きさを元に······いや更に大きくしたのか)

「——見事」

隕石は再び轟々と燃え上がりながら天空を満たす。
そして感嘆とも言える感情に包み込まれながら、モルガンは嬉々とした笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...