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「ちゃんちゃら」8話
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「ちゃんちゃら」8話
大地が帰ってくるまでの数日間、海斗はまともにアパートの部屋から出られなかった。日に日に具合が悪くなり、吐き気も治るどころか、一日に吐く回数が徐々に増えていった。
辛抱たまらず、もう一度なんとか南雲先生の元に行ったが、先生曰く「フェロモンが弱い状態のΩの妊娠は身体にも影響が出やすい。」とさも普通のことのように吐き気を抑える薬を処方してもらうだけで、その日はアパートに帰った。
帰りの道中、日差しがまるで責め立てるように頭を照らし、顔はずっと火照っていた。
大学にもバイトにも行く気が起きず、薬が効いてきた時は近くのコンビニに何とか寄って水と食料を買っていた。
たまに心配した空島もスーパーで買ったパンやゼリーなどを持ってきてくれることもあった。学校の様子を聞くと、皆なに事も無く、普通に過ごしていると伝えられた。大地のことも聞いたが、まだ帰ってきていないと空島は首を振るばかりだった。
実は、チャットに「話がある。」とメッセージを一応送ったが、返信は無かった。それが気まずいからなのか、それとも送るのが面倒だからなのか、大地はいつも返信が遅いので、いつも通りかもな、と海斗は自分に言い聞かせた。連絡を断たれるかもしれない恐怖に怯えながら、鳴らないスマホを枕元に置き、海斗は布団の中へ潜り込んだ。
バイトにも碌に顔を出せず、収入も減る一方で海斗は焦りを覚えていた。
ー早くどうにかしないと。この体調と、
そっとぺしゃんこのお腹を摩る。
ーこの、子ども、をどうにか、しないと。
海斗はここ数日で徐々に動揺と緊張で呆然としていた頭は冷えていき、少しずつ自分のおかれた状況を理解し始めていたが、空島からどこが悪いのか聞かれても、胃の調子が悪いとしか答えられなかった。
頼れる身内などいない海斗にとって、唯一このことを話せるのは当事者でもある大地くらいだった。
それから一週間が経ち、空島から連絡が入った。海斗はすぐにメッセージを確認する。
「大地さん。大学戻ってきましたよ。」
さすがに何回も訊ねられたからか、空島も海斗が大地に用があるのは勘づいている様子だった。
薬を飲んで、重たい身体を無理矢理起こし、海斗はフラフラになりながらも駅まで歩き、電車に乗った。
何とか空島に、大地に大学近くの公園にいるよう伝えておいて欲しいとメッセージで伝える。
電車に乗ってる最中、何度も具合が悪くなったが、どうにか耐えた。近くに座ってる人たちは、海斗が嘔吐するのではないかと不安気に睨む。だが、そんな周りの反応を気にしている余裕は海斗に無かった。電車の優先席は空いていた。
大学の最寄駅に着き、またフラフラと歩き始める海斗だったが、ここにきてようやく大地にどう伝えるべきか、何も考えていないことに気がついた。よろめきながらも懸命に動いていた足がどこか頼りなく宙を彷徨う。一歩、また一歩と歩く度、待ち合わせの公園が見えてくる。
しかし、そう悩んでいるのも束の間、公園の入り口に着いてしまった。公園は、夕日の影になってしまい、暗く、少し不気味に見えた。大地の姿は無く、人も見当たらなかった。
海斗は安心したような、不安のような気持ちが綯い交ぜになり、大きく息を吐き出した。やっとの思いで近くのベンチに腰を下ろし、項垂れる。
地面には蟻たちが一生懸命に協力しあいながらバッタの死骸を巣に持ち帰ろうとしていた。
「海斗?」
大地が帰ってくるまでの数日間、海斗はまともにアパートの部屋から出られなかった。日に日に具合が悪くなり、吐き気も治るどころか、一日に吐く回数が徐々に増えていった。
辛抱たまらず、もう一度なんとか南雲先生の元に行ったが、先生曰く「フェロモンが弱い状態のΩの妊娠は身体にも影響が出やすい。」とさも普通のことのように吐き気を抑える薬を処方してもらうだけで、その日はアパートに帰った。
帰りの道中、日差しがまるで責め立てるように頭を照らし、顔はずっと火照っていた。
大学にもバイトにも行く気が起きず、薬が効いてきた時は近くのコンビニに何とか寄って水と食料を買っていた。
たまに心配した空島もスーパーで買ったパンやゼリーなどを持ってきてくれることもあった。学校の様子を聞くと、皆なに事も無く、普通に過ごしていると伝えられた。大地のことも聞いたが、まだ帰ってきていないと空島は首を振るばかりだった。
実は、チャットに「話がある。」とメッセージを一応送ったが、返信は無かった。それが気まずいからなのか、それとも送るのが面倒だからなのか、大地はいつも返信が遅いので、いつも通りかもな、と海斗は自分に言い聞かせた。連絡を断たれるかもしれない恐怖に怯えながら、鳴らないスマホを枕元に置き、海斗は布団の中へ潜り込んだ。
バイトにも碌に顔を出せず、収入も減る一方で海斗は焦りを覚えていた。
ー早くどうにかしないと。この体調と、
そっとぺしゃんこのお腹を摩る。
ーこの、子ども、をどうにか、しないと。
海斗はここ数日で徐々に動揺と緊張で呆然としていた頭は冷えていき、少しずつ自分のおかれた状況を理解し始めていたが、空島からどこが悪いのか聞かれても、胃の調子が悪いとしか答えられなかった。
頼れる身内などいない海斗にとって、唯一このことを話せるのは当事者でもある大地くらいだった。
それから一週間が経ち、空島から連絡が入った。海斗はすぐにメッセージを確認する。
「大地さん。大学戻ってきましたよ。」
さすがに何回も訊ねられたからか、空島も海斗が大地に用があるのは勘づいている様子だった。
薬を飲んで、重たい身体を無理矢理起こし、海斗はフラフラになりながらも駅まで歩き、電車に乗った。
何とか空島に、大地に大学近くの公園にいるよう伝えておいて欲しいとメッセージで伝える。
電車に乗ってる最中、何度も具合が悪くなったが、どうにか耐えた。近くに座ってる人たちは、海斗が嘔吐するのではないかと不安気に睨む。だが、そんな周りの反応を気にしている余裕は海斗に無かった。電車の優先席は空いていた。
大学の最寄駅に着き、またフラフラと歩き始める海斗だったが、ここにきてようやく大地にどう伝えるべきか、何も考えていないことに気がついた。よろめきながらも懸命に動いていた足がどこか頼りなく宙を彷徨う。一歩、また一歩と歩く度、待ち合わせの公園が見えてくる。
しかし、そう悩んでいるのも束の間、公園の入り口に着いてしまった。公園は、夕日の影になってしまい、暗く、少し不気味に見えた。大地の姿は無く、人も見当たらなかった。
海斗は安心したような、不安のような気持ちが綯い交ぜになり、大きく息を吐き出した。やっとの思いで近くのベンチに腰を下ろし、項垂れる。
地面には蟻たちが一生懸命に協力しあいながらバッタの死骸を巣に持ち帰ろうとしていた。
「海斗?」
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