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「ちゃんちゃら」7話
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「ちゃんちゃら」7話
南雲先生が言った言葉を頭の中で何回も反芻するが、中々意味を理解できず、ただ頭を抱えることしか出来ない。そんな海斗の様子を南雲先生はじっと見つめている。そこには優しさもあるように見えれば、どこか圧をかけているようにも見えた。
「相手は誰だか分かってる?」
海斗の今にも泣きそうな目を見て、南雲先生は微笑む。
「相手は恋人?」
小さく首を振る。
「連絡は取れるの?」
今度は小さく頷く。
「お互い時間を作って話し合う機会、作れそう?力になってくれそうな人はお互いいる?」
すぐに頷けなかった。
海斗は母子家庭で育ち、母親はもう数年前に他界していた。問題は大地の親だった。有名な財閥のトップにこの事を知れたらと思ったら血の気が引いた。
ずっと目が泳ぎっぱなしの海斗を横目で見ながら南雲先生は何やらパソコンに入力しているようだった。
「第二性の診断が間違っていたからには、君の保険証その他諸々、記載を変更しなければならない。」
南雲先生はキーボードから手を離し、再び海斗に向き直った。
「悪いけれど、その件に関しても、手続きでまた来て欲しいんだ。」
海斗は小さく「はい。」と返事し、次に来院する日付を決めた。
日付を入力してる際に先生は大事なことを思い出したかのように「あ。」と一瞬天井を見上げてからこちらを向いた。
「頸を確認したところ、番は成立してるようだから、薬出そうか?」
番という言葉に鼓動が速まるが、必死に叫びたい気持ちを抑えて質問する。
「あの、薬って」
「あー、妊夫さんだと入院したり、療養したりで一時的に番と離れて過ごすことがあるから、離れていても支障が出ないように薬を処方するんだ。」
今まで自分にはあまり縁のなかった言葉たちが頭を駆け巡るが、まだ大地が帰ってくるまで時間は掛かることは嫌でも理解していた。
「よろしく、お願いします。」
海斗が診察室のドアに手をかけた際、南雲先生は後ろから優しい声で語りかけた。
「僕は中絶も出産も担当できるから、じっくり考えておいで。ここで待ってるから。何を言われても決めるのは君だし、君が決めて良いことだからね。」
海斗は振り返らず、そのまま力無くお辞儀をした。
外に出ると、気温はすっかり上がっていた。顔の火照りが暑さからなのか、それとも妊娠したからなのか判断できなかった。
恐る恐るスマホを取り出したが、空島からの心配のメッセージや悪友の遊びの誘い以外なにも通知は来ていなかった。
ー明日の講義どうしよう。
海斗は頭にじりじりと太陽の光を直接浴びながらアパートの階段を上がる。ところどころ錆びた、年季の入ったアパートを見ながら海斗は部屋に入った。
テーブルには課題に必要な本やレポートが置いたままになっていた。その上に、袋を上乗せした。袋からは白い処方箋が少し顔を出している。
部屋の中は熱がこもっていて蒸し暑く、思わず手で顔を煽ぐ。エアコンはあるにはあるが、電気代を気にしていつも付けれずにいた。代わりに扇風機を取り出して風に当たることにした。
しかし、扇風機のコンセントを差し込んだところで急な吐き気に見舞われ、思わず嘔吐いた。
急いで口を押さえてトイレに向かい、嘔吐する。
一通り吐き終えて、海斗はトイレの壁に力無く寄りかかる。
外からカッコウの鳴き声が聞こえる。
海斗は虚な目でそっと平らな自分のお腹をさすった。
南雲先生が言った言葉を頭の中で何回も反芻するが、中々意味を理解できず、ただ頭を抱えることしか出来ない。そんな海斗の様子を南雲先生はじっと見つめている。そこには優しさもあるように見えれば、どこか圧をかけているようにも見えた。
「相手は誰だか分かってる?」
海斗の今にも泣きそうな目を見て、南雲先生は微笑む。
「相手は恋人?」
小さく首を振る。
「連絡は取れるの?」
今度は小さく頷く。
「お互い時間を作って話し合う機会、作れそう?力になってくれそうな人はお互いいる?」
すぐに頷けなかった。
海斗は母子家庭で育ち、母親はもう数年前に他界していた。問題は大地の親だった。有名な財閥のトップにこの事を知れたらと思ったら血の気が引いた。
ずっと目が泳ぎっぱなしの海斗を横目で見ながら南雲先生は何やらパソコンに入力しているようだった。
「第二性の診断が間違っていたからには、君の保険証その他諸々、記載を変更しなければならない。」
南雲先生はキーボードから手を離し、再び海斗に向き直った。
「悪いけれど、その件に関しても、手続きでまた来て欲しいんだ。」
海斗は小さく「はい。」と返事し、次に来院する日付を決めた。
日付を入力してる際に先生は大事なことを思い出したかのように「あ。」と一瞬天井を見上げてからこちらを向いた。
「頸を確認したところ、番は成立してるようだから、薬出そうか?」
番という言葉に鼓動が速まるが、必死に叫びたい気持ちを抑えて質問する。
「あの、薬って」
「あー、妊夫さんだと入院したり、療養したりで一時的に番と離れて過ごすことがあるから、離れていても支障が出ないように薬を処方するんだ。」
今まで自分にはあまり縁のなかった言葉たちが頭を駆け巡るが、まだ大地が帰ってくるまで時間は掛かることは嫌でも理解していた。
「よろしく、お願いします。」
海斗が診察室のドアに手をかけた際、南雲先生は後ろから優しい声で語りかけた。
「僕は中絶も出産も担当できるから、じっくり考えておいで。ここで待ってるから。何を言われても決めるのは君だし、君が決めて良いことだからね。」
海斗は振り返らず、そのまま力無くお辞儀をした。
外に出ると、気温はすっかり上がっていた。顔の火照りが暑さからなのか、それとも妊娠したからなのか判断できなかった。
恐る恐るスマホを取り出したが、空島からの心配のメッセージや悪友の遊びの誘い以外なにも通知は来ていなかった。
ー明日の講義どうしよう。
海斗は頭にじりじりと太陽の光を直接浴びながらアパートの階段を上がる。ところどころ錆びた、年季の入ったアパートを見ながら海斗は部屋に入った。
テーブルには課題に必要な本やレポートが置いたままになっていた。その上に、袋を上乗せした。袋からは白い処方箋が少し顔を出している。
部屋の中は熱がこもっていて蒸し暑く、思わず手で顔を煽ぐ。エアコンはあるにはあるが、電気代を気にしていつも付けれずにいた。代わりに扇風機を取り出して風に当たることにした。
しかし、扇風機のコンセントを差し込んだところで急な吐き気に見舞われ、思わず嘔吐いた。
急いで口を押さえてトイレに向かい、嘔吐する。
一通り吐き終えて、海斗はトイレの壁に力無く寄りかかる。
外からカッコウの鳴き声が聞こえる。
海斗は虚な目でそっと平らな自分のお腹をさすった。
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