ちゃんちゃら

三旨加泉

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「ちゃんちゃら」6話

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「ちゃんちゃら」6話


「βじゃ、ない?」
 海斗はポカンと開けた口から素っ頓狂な声が出た。自分でもこんな間抜けな声が出るんだと海斗は自分自身に驚いた。動揺しながら顔を俯かせている海斗をよそに、南雲先生は椅子から腰を上げる。

「じゃあ、ちょっと検査するよ。隣の部屋に入ったら下脱いでくれるかい?」
「え!」
 普段どちらかというと声が聞こえ辛いと言われる海斗の声もはっきり南雲先生に伝わったのか、少し申し訳なさそうに振り返る。
「悪いけど、ちょっと確認しなければならないことがあるんだ。血液検査よりこっちの方が手っ取り早いからね。」

 海斗は毎日している行いなのに、どこか覚束ない動きでズボンとパンツを脱ぎ、椅子に座った。温泉に入る時などに人に裸を見られる機会はあったが、そういう時には感じない羞恥心があった。
 人に股を開いて見せるのにはかなりの抵抗があったが、子どものように嫌々と駄々を捏ねるわけにもいかず、ただ黙って座っていた。

「プローブ入れるね~リラックスしてていいからね~」と言うや否や何か肛門に違和感を感じた。この状況をもし客観的に見ることがあったら、かなり異様な光景に見えるだろうなと天井を見つけながら海斗は思った。
「痛くない?」
 中をこねくり回されるような感覚に不快感を感じながらも、海斗は「はい。」と端的に返事をした。つい先程まで普通に生活していた事を思い出しては、やはり今の奇妙さについ呼吸が浅くなる。

 暫くすると、プローブを抜いて南雲先生は「じゃあ、服を着て、隣の部屋に戻ってね~」と一言言って、すぐに去っていく足音が聞こえた。
 聞こえないように小さくため息をつくと、籠に入れておいたズボンとパンツを手に取った。自分の身に起きてる事、さっき南雲先生に言われたことをなるべく考えないように暗示をかけながら重い足取りで隣の診察室に戻った。

 再び丸い椅子に座ると、先程まで微笑んでいた南雲先生から笑みが消える。
「いきなり本題を話しちゃうと、きっと頭に入ってこないだろうから、順を追って説明するね。」
 南雲先生の真っ直ぐに凝視してくる瞳に吸い込まれそうになりながらも海斗は戸惑いながらも、その瞳を見つめ返した。お尻と胃の気持ち悪さはまだあるが、そんなことを気にしている場合ではない事を悟った。

「あのね。君が運ばれてきた時、救命士の一人がαなんだけどね。その子がどうも君からΩのフェロモンを感じるって言うんだ。」
 Ωというワードに心臓が跳ねる。しかし、それでも姿勢を崩さず先生の話に何とか耳を傾ける。
「それで、一緒に連れ添いで来てくれてた男の子にそれとなく聞いたら、βだって答えるじゃないか。」
 海斗は眉根を寄せる。
「その救命士曰く、君からΩのフェロモンは感じるけど、かなり薄いから診断を間違えているか、番がいるんじゃないかって言ってるんだ。」
 南雲先生は海斗を凝視したまま質問する。
「君はいつ第二性検査受けたの?」
「ちゅ、中学生の時、学校で血液検査をしました。」
「その結果がβだったんだね?」
「はい。」
 緊張して息継ぎをすることを忘れていた為、言い終わった後、呼吸が荒くなった。
 南雲先生はうーんと唸りながら何かを確認するようにパソコンを弄っている。

「最近、性行為はした?」
 体が硬直した。上手く口が動かせない。
「特に、一ヶ月前、とか。」
 身に覚えはあったが、口に出したくなかった。記憶には残っていないが、確かに体に感覚は残っていた。
 しかし、南雲先生はそんな何も語らない海斗の心の内を完全に見透かしているようだった。

 それでも、残酷に先生は海斗に言い渡す。

「君はΩで、いま妊娠してるよ。」
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