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「ちゃんちゃら」9話
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「ちゃんちゃら」9話
海斗は頭痛と吐き気がするのをすっかり忘れ、勢い良く顔を上げた。
そこにはほんの数週間ぶりだというのに懐かしさすら覚える少しウェーブがかかった金髪の男が立っていた。海斗の存在に気づいた男はこちらへ歩いてくる。背筋は伸びているのにゆっくり歩く様は、背伸びした田舎のヤンキーのようにも見えなくもなかった。
「大地。」
海斗の口から振り絞るように名前が出る。金城大地は視線を逸らし、首の後ろを掻いていた。
「なんだよ。」と少し間を置いてから口を尖らせて返事した。
少しの間、沈黙が流れた。大地もこの間の夜に何が起きたのか察しがついているようで、どこか仏頂面だった。
すると、頭のてっぺんに冷たい何かが当たった。海斗はふと上を見上げる。ぽつぽつとそれは続けて落ちてくる。
「夕立だ。」
「マジか。」と大地が気怠そうに頭の上に腕を傘代わりに上げる。
まだ視線は合わないが、痺れを切らしたように大地が声を上げる。
「激しくなる前に、今日はもう帰ろうぜ。」
その発言を聞いて思わず海斗は大地の腕を反射的に掴んでいた。大地は目を丸くして海斗を見ている。急に体を動かしたからかバランスを崩し、腕を握ったまま、地面に膝をついてしまう。暑いのに身体はずっと震えていた。
「あの、さ。おれ。」
大地は呆然と親友がしがみついている様を見ている。真冬でもないのに体が震えて仕方がなかった。
「でき、ちゃったんだ。」
大地は眉を顰め、周りを見渡す。海斗は深く息を吸って、やっとの思いで簡単な三文字の言葉を口にする。
「こども。」
夕立は瞬く間に激しくなり、二人の頭上に勢い良く降り注いだ。だが、海斗にはその音は緊張で全く聞こえなかった。大地の顔を直視できず、俯きながら何度も深く呼吸する。掴んでいる腕はまるで人形のように生気を感じなかった。
「どういう、意味だよ。」
大地の声も震えていた。その声には苦笑も含んでいるようにも感じた。
「いや、悪かったよ。俺だって、まさかおまえとあんなことになるなんて思わなかったからさ。」
大地は頭に手を当てる。
「怒ってんなら謝るって。冗談きついぞ。」
大地の引き攣った笑いを見て、海斗の表情にも焦りが滲み始めた。海斗はさらに強く大地の腕を掴む。
「ほ、本当なんだって!本当に、俺」
「お前、βなのに妊娠するわけねえだろ。」と海斗が言い終わる前に大地は吐き捨てる。
自分の頬に伝っているのが雨なのか、それとも自分の涙なのか、海斗にはもう分からなかった。荒い呼吸の中、必死にしがみつきながら海斗は絞り出すように言った。
「Ωだったんだ、俺。」
大地の腕がピクリと少し揺れた。海斗は段々と薬の効果が切れてきたのか、また俯き加減になりながら呼吸する。
すると、頭上から冷たい声が降り注いだ。
「おまえ、俺のことを騙してたのか?」
海斗が驚きで苦しいのも忘れ、顔を上げると、そこには軽蔑の眼差しを向ける大地がいた。今まで見たことのない表情に海斗は狼狽する。
「俺にΩなのをずっと黙って近づいてたっていうのかよ!」
すぐ真上で怒鳴り声に近い声を出されて海斗は思わず目を閉じる。しかし、ちゃんと事の顛末を伝えなければと声が出ない代わりに必死に首を振る。
「おまえ、嘘、ついたのかよ。」
海斗の鼓動がどんどん速くなり、呼吸も荒くなる。それでも必死に首を振る。
「嘘つき。」
そう言うと、大地は海斗が必死に掴んでいた手を振り払い、公園を足早に去って行った。海斗は何か叫んだ気がしたが、雨の音で自分でも何を叫んだのかよく分からなかった。
段々遠ざかっていく大地の背中を海斗は地面に膝をついた状態で呆然と眺める。
ー「あんた、嘘をついたんだね。」
土砂降りの中、頭に女の声が響く。
ー「ウソツキには、バチが当たるんだよ。」
遠くで閑古鳥がまた鳴いた。
海斗は頭痛と吐き気がするのをすっかり忘れ、勢い良く顔を上げた。
そこにはほんの数週間ぶりだというのに懐かしさすら覚える少しウェーブがかかった金髪の男が立っていた。海斗の存在に気づいた男はこちらへ歩いてくる。背筋は伸びているのにゆっくり歩く様は、背伸びした田舎のヤンキーのようにも見えなくもなかった。
「大地。」
海斗の口から振り絞るように名前が出る。金城大地は視線を逸らし、首の後ろを掻いていた。
「なんだよ。」と少し間を置いてから口を尖らせて返事した。
少しの間、沈黙が流れた。大地もこの間の夜に何が起きたのか察しがついているようで、どこか仏頂面だった。
すると、頭のてっぺんに冷たい何かが当たった。海斗はふと上を見上げる。ぽつぽつとそれは続けて落ちてくる。
「夕立だ。」
「マジか。」と大地が気怠そうに頭の上に腕を傘代わりに上げる。
まだ視線は合わないが、痺れを切らしたように大地が声を上げる。
「激しくなる前に、今日はもう帰ろうぜ。」
その発言を聞いて思わず海斗は大地の腕を反射的に掴んでいた。大地は目を丸くして海斗を見ている。急に体を動かしたからかバランスを崩し、腕を握ったまま、地面に膝をついてしまう。暑いのに身体はずっと震えていた。
「あの、さ。おれ。」
大地は呆然と親友がしがみついている様を見ている。真冬でもないのに体が震えて仕方がなかった。
「でき、ちゃったんだ。」
大地は眉を顰め、周りを見渡す。海斗は深く息を吸って、やっとの思いで簡単な三文字の言葉を口にする。
「こども。」
夕立は瞬く間に激しくなり、二人の頭上に勢い良く降り注いだ。だが、海斗にはその音は緊張で全く聞こえなかった。大地の顔を直視できず、俯きながら何度も深く呼吸する。掴んでいる腕はまるで人形のように生気を感じなかった。
「どういう、意味だよ。」
大地の声も震えていた。その声には苦笑も含んでいるようにも感じた。
「いや、悪かったよ。俺だって、まさかおまえとあんなことになるなんて思わなかったからさ。」
大地は頭に手を当てる。
「怒ってんなら謝るって。冗談きついぞ。」
大地の引き攣った笑いを見て、海斗の表情にも焦りが滲み始めた。海斗はさらに強く大地の腕を掴む。
「ほ、本当なんだって!本当に、俺」
「お前、βなのに妊娠するわけねえだろ。」と海斗が言い終わる前に大地は吐き捨てる。
自分の頬に伝っているのが雨なのか、それとも自分の涙なのか、海斗にはもう分からなかった。荒い呼吸の中、必死にしがみつきながら海斗は絞り出すように言った。
「Ωだったんだ、俺。」
大地の腕がピクリと少し揺れた。海斗は段々と薬の効果が切れてきたのか、また俯き加減になりながら呼吸する。
すると、頭上から冷たい声が降り注いだ。
「おまえ、俺のことを騙してたのか?」
海斗が驚きで苦しいのも忘れ、顔を上げると、そこには軽蔑の眼差しを向ける大地がいた。今まで見たことのない表情に海斗は狼狽する。
「俺にΩなのをずっと黙って近づいてたっていうのかよ!」
すぐ真上で怒鳴り声に近い声を出されて海斗は思わず目を閉じる。しかし、ちゃんと事の顛末を伝えなければと声が出ない代わりに必死に首を振る。
「おまえ、嘘、ついたのかよ。」
海斗の鼓動がどんどん速くなり、呼吸も荒くなる。それでも必死に首を振る。
「嘘つき。」
そう言うと、大地は海斗が必死に掴んでいた手を振り払い、公園を足早に去って行った。海斗は何か叫んだ気がしたが、雨の音で自分でも何を叫んだのかよく分からなかった。
段々遠ざかっていく大地の背中を海斗は地面に膝をついた状態で呆然と眺める。
ー「あんた、嘘をついたんだね。」
土砂降りの中、頭に女の声が響く。
ー「ウソツキには、バチが当たるんだよ。」
遠くで閑古鳥がまた鳴いた。
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