ちゃんちゃら

三旨加泉

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「ちゃんちゃら」11話

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「ちゃんちゃら」11話


 あれから一週間経過したが、海斗の姿は見かけなかった。連絡もなく、どうやら大学にも来ていない様子だった。別に今回の一件と関わりがあるわけではなかったが、普段連む連中とも距離が自然と離れていった。
 海斗の言っていた妊娠のことは気になったが、それよりも憎悪の気持ちの方が勝っていた。これで海斗を受け入れてしまったら父と同じことになる。大地は海斗と最後にした会話を思い出しながら思案を巡らせた。

ー本当にΩだったら、ヒートとかどうしていたんだ?まったくそんな素振りは見せなかったぞ。

 大地は海斗に対し、出逢った時から育ちは悪そうだが、地頭が良いのを確信していた。実際に学業の成績も良い方だった。今まで父に対する反抗目的で付き合ってきた悪友たちの中では一番落ち着いた、気立の良い男だと思った。
 そこまで考えて大地は思わず自分の頬を引っ叩いた。近くを通った人はこちらを目を丸くしながら窺い、歩き去っていった。
 海斗のこれまでの粗探しをしようとしたのに、失敗に終わった自分を腹立たしく感じる。

 どこか頭を冷やす、落ち着ける場所は無いかと考え、ふと最近行っていないBARの存在を思い出した。あそこは悪友たちとよく行く場所だったが、最近は連まなくなったので、てんで行っていない。
 暫く大学から歩くと、見覚えのある紫色の看板が見えてくる。金色のローマ字でロメオと書かれているそれがはっきりと読める頃には、すでに大地は店のドアを開けていた。
 ある程度融通が効くお店で、大地たちが飲みに来た際は、開店時間より早くても店を開けてくれる。

 階段を降りると、そこには筋骨隆々の男が床の掃き掃除をしていた。下を見ると、割れたグラスが散らばっている。そんなガタイの良い体だけでも目立つ存在なのに、真っ赤な口紅を塗られた唇もまた、ここのマスターが目立つ要因でもある。姿はいつもと変わらないが、マスターはどこか上の空のように見えた。いつもだったら生き生きとした笑顔で出迎えるはずなのに。
「どうかしたのか?」
 気になって話しかけると、マスターは驚いた顔でこちらを見た。
「あんた!大地!」
 まるでさっきまで話していた話題の人だと言わんばかりにマスターはこちらを指差す。
「海斗ちゃんと仲直りしたの!?」
 大地はうんざりした。まさかここに来て、その話題を振られるとは思わなかったからだ。
「海斗から聞いたのか?」と呆れ顔で聞く。すると、向こうも呆れ顔で答えた。
「その海斗ちゃんを最近見ないから聞いてるんでしょーが!」
 「やぁねぇ!」とこちらを叩く真似をしてマスターは円形カウンターへ帰って行った。
 大地は頭を捻った。海斗が喋ったのではないなら誰が情報を漏らしたのか。海斗の妊娠について広められるのは非常に困る。

 そう大地が悩んでいると、カウンターの奥の席に誰かが座っていることに気づいた。あの背が低くてベリーショートの髪型は、間違いない。

「空島?」

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