ちゃんちゃら

三旨加泉

文字の大きさ
24 / 102

「ちゃんちゃら」24話

しおりを挟む
「ちゃんちゃら」24話


 顔を上げて後ろを振り向くと空島の姿があった。
「空島。」
 名前を呼ぶと空島はこちらへ歩いてくる。リュックサックが重そうなので、恐らく講義の後だろう。
「大地さん、こんなところでなに黄昏てるんすか?」
「まあ、大体想像つくだろう。」
 空島は顔を青ざめた。
「フラれたんすか。海斗先輩に。」
 大地は唸った。
「フラれたというか、俺の片思いというか。とにかく、海斗の反応がよく分からないんだよ。」
「はぁー、恋する男は大変ですね。」と空島は呑気に感心している。しかし、すぐ空島は海斗の話題を持ち出した。
「じゃあ、一先ず海斗先輩とは話出来たんすね。良かったですね。」と嬉しそうに笑っている。
 空島は海斗とよくいるイメージがあった。元々、人懐っこい男だが、特に海斗には懐いている様子だった。そして、なぜかその様子をよく思わなかった自分がいた。今思えば、空島に対してどこか嫉妬の感情があったのかもしれない。
 長年の自分の気持ちに気づき、どこか晴れやかな気持ちになっていると、空島は持っているのが辛くなったのか、リュックサックを安全柵の上に乗せた。

「これから出産と育児ってなると大変ですもんね。蟠りは少ない方が良いでしょ。」
 大地の凍りついた表情を見て、空島も笑顔から青ざめた顔に一変した。
「え。ひょっとして。」
 空島は、そう言うとすぐにハッとして口を噤んだ。暫く沈黙が流れたが、空島は小さく溜息をついた。
「まあ、そうっすよね。突き放されたら絶望もしますし、海斗先輩あんまり身内の話とかしたがらないですし、嫌な予感してたんすよねぇ。」
 大地は俯く。空島の言葉でもう一度自分のした事を脳内で再放送された気分だった。
「俺も同じ状況だったら産まなかったかもしれないっすね。」
 空島の少し引っかかる発言に眉を顰める。

「なんか、まるで産んだことあるみたいに言うんだな。」
 すると、空島が目を丸くしてこちらを凝視する。その反応を見て大地もその場で固まった。空島はすぐに視線を泳がせ、やがて苦笑する。
「あー、まあ、色々あったんすよ。」
 まさか空島にそんな過去があるとは知らず静かに仰天する。まさか周りにΩが二人もいて、どちらも妊娠経験があるとは思わなかった。
「なあ、こ、子どもって」
 聞いていいのか分からず、言葉が詰まる。
「あー、なんかもうずっと向こうの家に引き取られて、それっきりっすね。」と踏み込まれたくないのか、話をすぐに打ち切られる。
「おまえ、結婚してたのか。」
「いや、籍入れてないっす。」
 淡白な回答に目を白黒させる。空島はそんな大地を見て苦笑いを浮かべている。
「その人、責任感とかなくて、全部親頼みで本当辟易しちゃったんすよね。だから、」
 空島は真っ直ぐ大地を見る。
「大地さんがちゃんと海斗先輩と話をしてるって知って、これでも感心してるんすよ。」
 大地は目を見開く。まさか、褒められるとは思ってもみなかったからだ。
「俺、α嫌いっすけど、大地さんは嫌いじゃないっすよ。なんか、意外と誠意がありますし。」
 意外と、という言葉は聞き逃してあげることにした。
「お前、α嫌いだったのか。」
「Ωみんながαが好きっていう偏見無くならないっすかねぇ。」と空を見上げて空島は唸る。
「Ωも色々と大変なんだな。」
「そうっすよ。」と安全柵に乗せていたリュックサックを空島は持ち上げる。
「俺が言うのもなんか変すけど、だから、海斗先輩のこと、よろしくっす。」
 空島は照れ臭そうに頭を掻いて、踵を返した。それを見て慌てて大地は空島に訊ねる。
「なあ、妊娠した時、相手にどうして欲しいって思った?」
 空島は足を止め、暫く立ち止まっていたが、蝉が鳴き始めたと同時にこちらを振り返った。
「抱きしめる、とまではいかないっすけど、手は握って欲しかったっすね。」と平然と言った。そうして、またすぐにこちらに背中を向けて歩き出していった。その背中は初めて会った時と比べて広く、しっかりしてるように見えた。

 ここでようやく大地は空島に会ったら最初に言おうと思っていたことを思い出した。

「なあ!住所教えるから、海斗に会いに来てやってくれよ!」

 空島はこちらを振り向き、腕全体を使って大きな丸を作った。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あなたの家族にしてください

秋月真鳥
BL
 ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。  情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。  闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。  そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。  サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。  対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。  それなのに、なぜ。  番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。  一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。  ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。  すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。 ※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。 ※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

ふた想い

悠木全(#zen)
BL
金沢冬真は親友の相原叶芽に思いを寄せている。 だが叶芽は合コンのセッティングばかりして、自分は絶対に参加しなかった。 叶芽が合コンに来ない理由は「酒」に関係しているようで。 誘っても絶対に呑まない叶芽を不思議に思っていた冬真だが。ある日、強引な先輩に誘われた飲み会で、叶芽のちょっとした秘密を知ってしまう。 *基本は叶芽を中心に話が展開されますが、冬真視点から始まります。 (表紙絵はフリーソフトを使っています。タイトルや作品は自作です)

この手に抱くぬくもりは

R
BL
幼い頃から孤独を強いられてきたルシアン。 子どもたちの笑顔、温かな手、そして寄り添う背中―― 彼にとって、初めての居場所だった。 過去の痛みを抱えながらも、彼は幸せを願い、小さな一歩を踏み出していく。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

処理中です...