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「ちゃんちゃら」23話
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「ちゃんちゃら」23話
大地は夕暮れの中、誰もいない公園で一人ブランコに座っていた。公園とは、海斗が必死に自分に縋ってきた、あの公園である。
今思えば、海斗があんなに感情を剥き出しにしてきたのは、あれが初めてだったように思う。
大地はブランコから見えるベンチを眺める。あそこに海斗は座っていた。今考えると、既に具合は悪かったのだろう。項垂れていたような気がする。
さっき聞いた南雲先生の話を反芻しながら大地は歯を食いしばった。
電気が明るく照らす診察室で大地は憮然としていた。
「自殺?」と思わず南雲先生に聞き返す。南雲先生は小さく唸った。
「さっき、知り合いの坊さんに供養を頼んだって言ったよね。僕は同行できなかったんだけど、終わった後、彼から連絡がきてね。」
大地の心臓は徐々に大きな音を鳴り響かせた。何か聞きたかったが、乾いた口からは何も出てこなかった。
「供養を終えて、今後のことを説明しようと思ったら海斗くんの姿が見えなくて探したんだって。そうしたら、近くの峠から身を乗り出そうとしていたそうなんだよ。」
大地は想像したくないのに、峠に覚束ない足取りで向かう虚な目の海斗を想像してしまった。
「慌てて寺の人たちで止めたんだ。無事、飛び降りることは無かったけど、その友人から精神科で治療も考えたらどうだ?って言われてねぇ。」
大地は顔を上げた。あいつ、精神科にも通院しているのか?
「って、言われたのが、つい一昨日の事なんだけど。」とまた南雲先生は頬杖をついた。
「彼、元気そう?」
大地は俯いた。この話を聞く前では何の躊躇も無く頷けただろう。だが、さっきまで見ていた海斗が本当に自分の見たイメージと相違ないのか自信が無くなってしまった。そんな大地の様子を見て、南雲先生はカラッと笑った。
「いやー、でも良かった良かった!海斗くん一人でいるのかと思ってたけど、今はそうじゃないんだね。」
大地はハッとした。今日、大原に海斗のことを頼んでいて本当に良かったと心の底から思った。
「もし、海斗くんが落ち着かない様子だったら、僕に聞いてよ。良い人紹介するね。」と南雲先生は名刺を大地に渡した。
ずっと緊張していたのか、段々と力が抜けていく。ぼんやりと名刺を手に取り、眺めた。
「どうして、ここまで親切にしてくれるんですか?」
南雲先生は目を丸くしたが、すぐにまたいつもの朗らかな笑いをした。
「いまどき第二性の誤診なんて珍しいでしょ?本当だったらなにか対応を取ってくれてもいいのに、何にもないでしょ?彼、ただでさえ生き辛そうなのに。」
南雲先生は頬杖をついていた手で頰を掻いた。
「まあ、ただの老婆心だよ。」
大地が診察室を出る際、なにか思い出したように南雲先生は呼び止めた。
「供養のことだけど。」
大地が振り向く。
「もし、君も何かしたいと思ったら、海斗くんが落ち着いた頃に話し合ってみたら?子どもの名前を決めて塔婆を建立するのもありだしね。」
「名前か。」
大地が座っているブランコが少し揺れた。ベンチには未だに誰も座りにこない。
まさか海斗がいま崖っぷちに立っているなど想像すらできなかった。
海斗の心の内を聞きたい。寄り添って、痛みを分けて欲しい。
だが、今までの行いを考えると海斗が自分に話してくれるとは考え難かった。無理してでも聞こうとしたら、そのまま崖から飛び降りそうな気がして、大地は背筋が凍った。
思えば、自分はよく海斗に相談したり、心境を喋ったりすることはあったが、海斗の方から自分に心の内を語ることは無かったような気がする。
大地は大きなため息をついた。俯くと、ブランコに座る自分の影が、どんどん時間が経つにつれ伸びていくのが見えた。
すると、もう一つの影がひょっこり横から顔を出す。
「大地さん?何してるんですか?」
大地は夕暮れの中、誰もいない公園で一人ブランコに座っていた。公園とは、海斗が必死に自分に縋ってきた、あの公園である。
今思えば、海斗があんなに感情を剥き出しにしてきたのは、あれが初めてだったように思う。
大地はブランコから見えるベンチを眺める。あそこに海斗は座っていた。今考えると、既に具合は悪かったのだろう。項垂れていたような気がする。
さっき聞いた南雲先生の話を反芻しながら大地は歯を食いしばった。
電気が明るく照らす診察室で大地は憮然としていた。
「自殺?」と思わず南雲先生に聞き返す。南雲先生は小さく唸った。
「さっき、知り合いの坊さんに供養を頼んだって言ったよね。僕は同行できなかったんだけど、終わった後、彼から連絡がきてね。」
大地の心臓は徐々に大きな音を鳴り響かせた。何か聞きたかったが、乾いた口からは何も出てこなかった。
「供養を終えて、今後のことを説明しようと思ったら海斗くんの姿が見えなくて探したんだって。そうしたら、近くの峠から身を乗り出そうとしていたそうなんだよ。」
大地は想像したくないのに、峠に覚束ない足取りで向かう虚な目の海斗を想像してしまった。
「慌てて寺の人たちで止めたんだ。無事、飛び降りることは無かったけど、その友人から精神科で治療も考えたらどうだ?って言われてねぇ。」
大地は顔を上げた。あいつ、精神科にも通院しているのか?
「って、言われたのが、つい一昨日の事なんだけど。」とまた南雲先生は頬杖をついた。
「彼、元気そう?」
大地は俯いた。この話を聞く前では何の躊躇も無く頷けただろう。だが、さっきまで見ていた海斗が本当に自分の見たイメージと相違ないのか自信が無くなってしまった。そんな大地の様子を見て、南雲先生はカラッと笑った。
「いやー、でも良かった良かった!海斗くん一人でいるのかと思ってたけど、今はそうじゃないんだね。」
大地はハッとした。今日、大原に海斗のことを頼んでいて本当に良かったと心の底から思った。
「もし、海斗くんが落ち着かない様子だったら、僕に聞いてよ。良い人紹介するね。」と南雲先生は名刺を大地に渡した。
ずっと緊張していたのか、段々と力が抜けていく。ぼんやりと名刺を手に取り、眺めた。
「どうして、ここまで親切にしてくれるんですか?」
南雲先生は目を丸くしたが、すぐにまたいつもの朗らかな笑いをした。
「いまどき第二性の誤診なんて珍しいでしょ?本当だったらなにか対応を取ってくれてもいいのに、何にもないでしょ?彼、ただでさえ生き辛そうなのに。」
南雲先生は頬杖をついていた手で頰を掻いた。
「まあ、ただの老婆心だよ。」
大地が診察室を出る際、なにか思い出したように南雲先生は呼び止めた。
「供養のことだけど。」
大地が振り向く。
「もし、君も何かしたいと思ったら、海斗くんが落ち着いた頃に話し合ってみたら?子どもの名前を決めて塔婆を建立するのもありだしね。」
「名前か。」
大地が座っているブランコが少し揺れた。ベンチには未だに誰も座りにこない。
まさか海斗がいま崖っぷちに立っているなど想像すらできなかった。
海斗の心の内を聞きたい。寄り添って、痛みを分けて欲しい。
だが、今までの行いを考えると海斗が自分に話してくれるとは考え難かった。無理してでも聞こうとしたら、そのまま崖から飛び降りそうな気がして、大地は背筋が凍った。
思えば、自分はよく海斗に相談したり、心境を喋ったりすることはあったが、海斗の方から自分に心の内を語ることは無かったような気がする。
大地は大きなため息をついた。俯くと、ブランコに座る自分の影が、どんどん時間が経つにつれ伸びていくのが見えた。
すると、もう一つの影がひょっこり横から顔を出す。
「大地さん?何してるんですか?」
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