ちゃんちゃら

「ちゃんちゃら」28話

「ちゃんちゃら」28話


　どうやら大原が玄関のドアを開けたらしい。インターフォンの音が止んだ。何やら大原以外の声がドアの向こうから聞こえる。すると、パタパタとスリッパを引き摺る音とドタドタと何か駆けてくる足音が聞こえた。誰か人が来たと察し、海斗が自分の部屋に戻ろうとソファから立ち上がると同時に勢い良くドアが開け放たれる。

　「おじゃまします！！」と元気な声が部屋に響き、思わず海斗は片耳を押さえた。見ると、小学校中学年くらいの男の子が不思議そうな表情で海斗を見ていた。海斗がギョッとしていると、向こうの男の子の方が先に口を開く。
「パパ、このお兄さん誰？」とちょうどドアを開けて入ってきた男の人に駆け寄って行った。
　男の人の方は綺麗な銀杏色のしたゆるいウェーブがかかった髪と、まるで常にこちらに微笑んでいるように見える温和そうな垂れ目が印象的だった。髪のうねり具合を見ても、この二人が親子なのは想像がついた。

「大知。まずは、お兄さんに挨拶しないと。」
　そう言われて大知という男の子は元気にお辞儀した。
「こんにちは！」
「こ、こんにちは。」
　あまりにも明るい笑顔に海斗は少し仰反る。大知は挨拶を終えると、大原の元へ走っていく。
「大原、トランプやろー。」
「えぇ、いいですよ。」
　二人がドアをあっという間に出ていくと、部屋には垂れ目の男と海斗だけ残されてしまった。自分の場違いさに居た堪れなくなり、気づかれないようにソファから立ち上がる。しかし、男はこちらを振り返り、目を輝かせながら話しかける。
「初めまして。君が海斗くん？」
　明るい笑顔はあの子どもと瓜二つだった。海斗がまたも仰け反りながら小さく頷く。男は気にせず話しかける。
「僕は、金城雫。大地くんの継父なんだ。」
　海斗はマジマジと相手を見る。大地の親が再婚しているのは聞いていたが、まさか実際に会う日が来るとは思いもしなかった。そして、彼から漂う明らかなΩの雰囲気に海斗は圧倒された。

「大原さんから聞いたんだけど、暫くここに住むんだって？僕で良ければ何でも頼ってよ。」
　海斗はどう答えたらいいか分からず、気まずそうに頷いた。何だか無理に他人の家族の仲間入りしたような、そんな感覚があった。雫は慣れた手つきでテーブルを拭き、お茶の用意をし始める。
「海斗くん、お昼はもう食べた？今日、大知がどうしても別荘近くにできたハンバーガー屋に行くって言ってきかないから、これから行く予定なんだけど、良ければ海斗くんも行く？」
　海斗はこの場合、自分が相手をおもてなしすればいいのか、もてなされる側でいるべきなのか、はたまた質問にちゃんと答えるべきなのか、頭の中が混乱していた。
　しかし、ハンバーガーは好きだった。野菜も入っていてお肉も堪能できる、そして油っこくてお腹がいっぱいにもなれる、その料理を海斗はよく自分のご褒美にしていた。
　気がつけば、緊張で体調の悪さが紛れてしまったのか、今は何でもお腹に入りそうな、そんな気がした。

　海斗は普段、初対面の人間と食事など滅多に行かないが、その時は何故か首を縦に振ってしまっていた。