29 / 102
「ちゃんちゃら」29話
しおりを挟む
「ちゃんちゃら」29話
海斗と金城親子は大原が運転する車で近くのハンバーガー店へ向かった。
入ったハンバーガー店は海斗の知っているようなお店ではなく、テラスがついた所謂おしゃれなお店というやつだった。来ている客も小綺麗な者ばかりで、サングラスをかけてテラス席に座る客なんて、まるでどこかの絵画の一部のようだった。
ハンバーガー店は賑やかな繁華街とは違い、静かで落ち着いた住宅街近くに建っていた。そのせいか、客はそこそこ入っているが、騒がしくなかった。
海斗は思った。自分は気を失い、気がついたら金城家の別荘にいたから知らなかったが、ここ周辺は富裕層が暮らす高級住宅街なのだろうと察した。
「僕、テラス席がいい!」と大知はテラス席を指差す。しかし、大原が海斗の気を遣ったのか、困り眉で首を小さく振る。
「申し訳ございません。真夏日が終わっても、外は暑いでしょうし、今日は店内にしましょう。」
「えー!」
大知が頬を膨らませる。自分の思い通りにならなくて不貞腐れる姿はどこか大地に似ている気がした。その様子を見て海斗は「いいよ。俺のことは気にしなくて。」と言って、自らテラス席のガラス戸を開けた。大原はまだ困り眉をしていたが、雫は笑顔で「ありがとう」と感謝を述べていた。
正直、暑いのは苦手だが、ガーデンパラソルが差してあったので特に気にならなかった。大知は海斗の隣にどっかり座り、心を弾ませながらメニュー表を見ていた。
「ねぇ、お兄ちゃんはなに食べるの?僕はこのベーコンが乗ったやつにするー」とバンズからベーコンが飛び出した食べ応えのあるハンバーガーの写真を海斗に開いて見せた。
「よく食べるんだなぁ。」
「これくらい食べれるよー。僕こどもじゃないもん。」と締まりのない笑いをしている。そんな様子を見た雫は口を挟んだ。
「そんなこと言って、この間も少し残しただろう?自分が食べれる量を頼みなさい。」
「食べれるのにぃ」と口を尖らせている大知を見て思わず吹き出すように笑う。片親違いではあるが、どこか意地を張る姿はやはり大地に似ていた。笑っている海斗を最初はジト目で見ていた大知だったが、次第に可笑しくなってきたのか大知も笑っていた。
そんな様子にはじめは目が点になって見ていた雫も大原も今は微笑んで二人の様子を眺めていた。外のアブラゼミの声も、どこか遠く感じる程、時間はゆっくり流れている気がした。
海斗は胃の調子も考えてベジタブルバーガーを頼んだ。運ばれてきたハンバーガーはバンズがふっくらしていて、厚みのあるパティが挟まれていて、見るだけで満足しそうだった。大知ははじめは美味しそうにベーコンが乗ったハンバーガーを口に運んでいたが、雫が頼んだチーズとアボカドが入ったハンバーガーに目が行っていた。
「パパのも美味しそうだなぁ。」
「じゃあ、少し食べる?」と言ってナイフで綺麗にハンバーガーを切り分けた。
海斗もその様子を横目で見ながら、自分のハンバーガーに口をつける。
レタスがバーベキューソースと絡まり、トマトの果肉でさらに甘酸っぱさが追加される。細かく切ったピクルスもマヨネーズと合わさって美味しかった。こんなに健康に良いハンバーガーは初めてだったが、悪い気分はしなかった。特にピクルスが気に入った。
お店のカウンターを見ると、ピクルスが別売りしているのを発見した。そんな海斗の行動に気がついた大原が微笑みながら話しかけてくる。
「良ければ、後で買いましょうか?」
海斗はギョッとした。さすがに他人に買ってもらうわけにはいかなかった。
「え、いや、それは申し訳ない」と言い掛けたところで雫が目を輝かせながら口を挟む。
「えー、いいじゃないか!僕も料理に使うから、海斗くんも買ってもらいな!」と後押しすらしてきた。隣を見ると、大知も全く同じ目の輝きでこちらを見ていた。
「えー!お兄ちゃん、なんかピクルスで作るの!?僕にも食べさせてね!」
海斗が苦笑していると、隣のテラス席に二人の親子が座った。母親らしき人物はお腹が大きかったので、恐らく妊婦だろう。娘の方は足をパタパタさせながらハンバーガーを今か今かと待ち侘びている。母親が運ばれてきたハンバーガーを食べやすいように切って取り皿に分けて渡していた。お腹がテーブルにつっかえそうになっていたが、母親は気にせずハンバーガーを食べていた。
娘はハンバーガーを手で口に運びながら母親のお腹を見て言った。
「ママ、お腹大きくなってきたね。」
「そうねぇ」
母親は娘の口についたケチャップを拭く。しかし、娘はどこか落ち着きがない様子だった。
「ねぇ、これ以上ママ食べたらお腹破裂しちゃう?」と母親の顔を窺いながら聞いていた。その質問に母親はキョトンとしていたが、意味を理解したのか声を抑えるように笑った。
「ママが食べたものが赤ちゃんの栄養になるのよ。だから、食べることは大事なの。まあ、食べ過ぎは良くないけどね。」
ー赤ちゃんの栄養。
海斗は無意識に下腹部を摩っていた。そして、いつの日か感じた何か腹から迫り上がってくる感覚を思い出した。すぐに口を押さえ、椅子から床へとへたり込む。大原たちがこちらへ向かってくる途中、視界がショッキングピンクに染まる。
最後に薄ら見えたのは、娘を庇うように席から離れる母親の姿だった。
海斗と金城親子は大原が運転する車で近くのハンバーガー店へ向かった。
入ったハンバーガー店は海斗の知っているようなお店ではなく、テラスがついた所謂おしゃれなお店というやつだった。来ている客も小綺麗な者ばかりで、サングラスをかけてテラス席に座る客なんて、まるでどこかの絵画の一部のようだった。
ハンバーガー店は賑やかな繁華街とは違い、静かで落ち着いた住宅街近くに建っていた。そのせいか、客はそこそこ入っているが、騒がしくなかった。
海斗は思った。自分は気を失い、気がついたら金城家の別荘にいたから知らなかったが、ここ周辺は富裕層が暮らす高級住宅街なのだろうと察した。
「僕、テラス席がいい!」と大知はテラス席を指差す。しかし、大原が海斗の気を遣ったのか、困り眉で首を小さく振る。
「申し訳ございません。真夏日が終わっても、外は暑いでしょうし、今日は店内にしましょう。」
「えー!」
大知が頬を膨らませる。自分の思い通りにならなくて不貞腐れる姿はどこか大地に似ている気がした。その様子を見て海斗は「いいよ。俺のことは気にしなくて。」と言って、自らテラス席のガラス戸を開けた。大原はまだ困り眉をしていたが、雫は笑顔で「ありがとう」と感謝を述べていた。
正直、暑いのは苦手だが、ガーデンパラソルが差してあったので特に気にならなかった。大知は海斗の隣にどっかり座り、心を弾ませながらメニュー表を見ていた。
「ねぇ、お兄ちゃんはなに食べるの?僕はこのベーコンが乗ったやつにするー」とバンズからベーコンが飛び出した食べ応えのあるハンバーガーの写真を海斗に開いて見せた。
「よく食べるんだなぁ。」
「これくらい食べれるよー。僕こどもじゃないもん。」と締まりのない笑いをしている。そんな様子を見た雫は口を挟んだ。
「そんなこと言って、この間も少し残しただろう?自分が食べれる量を頼みなさい。」
「食べれるのにぃ」と口を尖らせている大知を見て思わず吹き出すように笑う。片親違いではあるが、どこか意地を張る姿はやはり大地に似ていた。笑っている海斗を最初はジト目で見ていた大知だったが、次第に可笑しくなってきたのか大知も笑っていた。
そんな様子にはじめは目が点になって見ていた雫も大原も今は微笑んで二人の様子を眺めていた。外のアブラゼミの声も、どこか遠く感じる程、時間はゆっくり流れている気がした。
海斗は胃の調子も考えてベジタブルバーガーを頼んだ。運ばれてきたハンバーガーはバンズがふっくらしていて、厚みのあるパティが挟まれていて、見るだけで満足しそうだった。大知ははじめは美味しそうにベーコンが乗ったハンバーガーを口に運んでいたが、雫が頼んだチーズとアボカドが入ったハンバーガーに目が行っていた。
「パパのも美味しそうだなぁ。」
「じゃあ、少し食べる?」と言ってナイフで綺麗にハンバーガーを切り分けた。
海斗もその様子を横目で見ながら、自分のハンバーガーに口をつける。
レタスがバーベキューソースと絡まり、トマトの果肉でさらに甘酸っぱさが追加される。細かく切ったピクルスもマヨネーズと合わさって美味しかった。こんなに健康に良いハンバーガーは初めてだったが、悪い気分はしなかった。特にピクルスが気に入った。
お店のカウンターを見ると、ピクルスが別売りしているのを発見した。そんな海斗の行動に気がついた大原が微笑みながら話しかけてくる。
「良ければ、後で買いましょうか?」
海斗はギョッとした。さすがに他人に買ってもらうわけにはいかなかった。
「え、いや、それは申し訳ない」と言い掛けたところで雫が目を輝かせながら口を挟む。
「えー、いいじゃないか!僕も料理に使うから、海斗くんも買ってもらいな!」と後押しすらしてきた。隣を見ると、大知も全く同じ目の輝きでこちらを見ていた。
「えー!お兄ちゃん、なんかピクルスで作るの!?僕にも食べさせてね!」
海斗が苦笑していると、隣のテラス席に二人の親子が座った。母親らしき人物はお腹が大きかったので、恐らく妊婦だろう。娘の方は足をパタパタさせながらハンバーガーを今か今かと待ち侘びている。母親が運ばれてきたハンバーガーを食べやすいように切って取り皿に分けて渡していた。お腹がテーブルにつっかえそうになっていたが、母親は気にせずハンバーガーを食べていた。
娘はハンバーガーを手で口に運びながら母親のお腹を見て言った。
「ママ、お腹大きくなってきたね。」
「そうねぇ」
母親は娘の口についたケチャップを拭く。しかし、娘はどこか落ち着きがない様子だった。
「ねぇ、これ以上ママ食べたらお腹破裂しちゃう?」と母親の顔を窺いながら聞いていた。その質問に母親はキョトンとしていたが、意味を理解したのか声を抑えるように笑った。
「ママが食べたものが赤ちゃんの栄養になるのよ。だから、食べることは大事なの。まあ、食べ過ぎは良くないけどね。」
ー赤ちゃんの栄養。
海斗は無意識に下腹部を摩っていた。そして、いつの日か感じた何か腹から迫り上がってくる感覚を思い出した。すぐに口を押さえ、椅子から床へとへたり込む。大原たちがこちらへ向かってくる途中、視界がショッキングピンクに染まる。
最後に薄ら見えたのは、娘を庇うように席から離れる母親の姿だった。
17
あなたにおすすめの小説
あなたの家族にしてください
秋月真鳥
BL
ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。
情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。
闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。
そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。
サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。
対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。
それなのに、なぜ。
番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。
一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。
ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。
すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。
※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。
※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
この手に抱くぬくもりは
R
BL
幼い頃から孤独を強いられてきたルシアン。
子どもたちの笑顔、温かな手、そして寄り添う背中――
彼にとって、初めての居場所だった。
過去の痛みを抱えながらも、彼は幸せを願い、小さな一歩を踏み出していく。
ふた想い
悠木全(#zen)
BL
金沢冬真は親友の相原叶芽に思いを寄せている。
だが叶芽は合コンのセッティングばかりして、自分は絶対に参加しなかった。
叶芽が合コンに来ない理由は「酒」に関係しているようで。
誘っても絶対に呑まない叶芽を不思議に思っていた冬真だが。ある日、強引な先輩に誘われた飲み会で、叶芽のちょっとした秘密を知ってしまう。
*基本は叶芽を中心に話が展開されますが、冬真視点から始まります。
(表紙絵はフリーソフトを使っています。タイトルや作品は自作です)
【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—
水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。
幼い日、高校、そして大学。
高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。
運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる