ちゃんちゃら

三旨加泉

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「ちゃんちゃら」78話

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「ちゃんちゃら」78話


 別荘に戻ると家で準備をしていた大地が出迎える。海斗の姿を確認するなり、海斗を抱きしめてくる。海斗が驚いている間に大原はリビングの方へ荷物を持って行ってしまった。
 大地は海斗の指輪を確認してはニヤニヤと顔をニヤつかせている。どうやらまだ指輪の喜びが残っているらしい。しかし、海斗が気になるのは、指輪をつけているというのに、まだ大地がソワソワしているということだ。

「なあ、俺、お前に後で言わなきゃいけないことがあるんだ。」
「実は、俺も言いたいことがあるんだよ。」
 海斗の意外な返事に大地は動揺しているが、大地にとってはきっと良い知らせになるだろうと思い、海斗は笑ってみせた。しかし、大地は視線を合わせず、あさっての方向を見ている。

 海斗が不思議がっていると、リビングから雫がこちらへ走ってくる。いつもだったら笑顔で出迎えてくれる彼が青ざめた表情でこちらへやってくるのは違和感があり、緊張が走った。
「海斗くん。大知見てない?」
 大地と海斗は顔を見合わせる。雫の後ろから、こちらへ歩いてくる大原とも目が合ったが、彼の表情からも見当がついていないのがよく読み取れた。海斗が首を振ると、大きな溜息を雫がつく。
「なにか、あったんですか?」
 大地の質問に雫は頭を抱えながら答える。
「もうとっくに学校を出たらしいし、一度家に帰ってもいるらしいんだけど。その後、近くのコンビニで買い物するって言ったっきり帰ってないらしいんだ。」
 今日は雫が早目に別荘へ来て料理の準備をして、大知とは学校が終わった後すぐにこっちで合流する予定だったらしい。
「なにか追加で買うものが思いついたのでは?大知様も何かあったら連絡するでしょうし」
 大原の助言も雫は納得がいっていない様子だった。
「連絡が無いから心配なんだ。あの子、連絡はマメだから。」
 確かにそうだ。海斗も頷く。大知は問題児とは真逆なタイプだ。親に怒られるような事をするとは思えない。いや、仮に問題行動をしても怒られないように上手く立ち回るはずだ。実際にこういった事態は稀なのだろう。いつも大知を見ている雫がずっと不安そうに廊下を行ったり来たりしている。いつも冷静な彼とは違って落ち着きがなかった。

「まさか、誘拐」
 そこまで言い掛けて雫は自分の口を手で隠す。隣にいた大原の表情も見る見る内に悪くなっていく。
「僕、ちょっと家周辺を探してみるよ。」
「私も同行します。」
 そう言って大原が慌ただしく玄関を出る雫についていく。

「みんな心配性だな。」と大地は困り眉をしながらスマホを取り出し、大知に電話をかける。しかし、電話は繋がることが無かった。さっきまで苦笑していた大地にも焦りの表情が窺える。海斗も大地を落ち着かせようと肩に手を置く。
「まだそんな遅い時間じゃないし。コンビニなんて、そんな遠くまで行く用事じゃないんだから、大丈夫なんじゃ」

ー遠くまで行く用事?

 自分でそう口にしておきながら海斗は自分の言葉に違和感を覚えた。もし仮に大知が訳あって遠出しているとして、大知が遠くまで行く用事って、なんだろう?

ー「指輪、失くしちゃったの?」
 海斗の頭の中にまだ声変わりしていない幼い声が響く。

ー「会社周辺にあるのは分かってるから、大地にはまだ言わないでくれよ。」
 何の気無しに言った自分の言葉。

ー「じゃあ、僕も探そうか?」

 外は日が沈み、夜の始まりを告げようとしている頃だった。


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