ちゃんちゃら

三旨加泉

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「ちゃんちゃら」79話

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「ちゃんちゃら」79話


 大地は海斗が無意識に下腹部を触っている事に気づいた。海斗の顔色が悪いのは一目瞭然で、大地の頭の中で警報が鳴る。
「なあ、何か思い当たる節があるのか?」
 海斗はようやく我に返り、恐る恐る彼が口を開き、一生懸命話す憶測を大地は黙って聞いた。

「すると、なんだ?大知は指輪を探しにこっそり海斗の職場周辺に行ったって言うのか?」
 海斗は力無く頷く。根拠はどこにも無かった。ひょっとしたら誘拐という方が信憑性があるかもしれない。しかし、大地はなぜか海斗の言っていることは当たっていると感じていた。こちらも大した根拠はない。それでも大地の経験上、今まで海斗と一緒にいて、こういう時の海斗の発想は妙に的を射ていることが多い気がするし、何より海斗を信じたかった。
「分かった。ここでずっと待ってるよりマシだ。行ってみよう。」


 二人でバスを降りる。海斗にとってはいつも見る光景だが、大地にとっては馴染みの無い土地だった。ここは自分が率先して動かなければ、と海斗は意気込む。
 しかし、辺りが既に暗いのもあってか、大知どころか人すら見当たらなかった。仮に見かけたとしても、小学生くらいの子どもなど一人もいない。試しに歩いてる人に尋ねてみても、首を横に振られるばかりだった。海斗の鼓動は速まっていった。
「どうしよう。俺のせいだ。」
 後ろを確認していた大地がこちらを向く。
「海斗のせいじゃないだろ。」
「だって、俺があんな嘘つかなければ。俺が嘘つきだったばっかりに。また俺のせいで子どもが」
「本当に指輪を探しに出掛けてたのだとしても、連絡しないのはおかしいだろ。海斗のせいじゃない。」

 ずっと海斗の後ろをあの女の声がついてくる。まるですぐ後ろにいるかのような気がして寒気がした。

 大地は海斗がただの寒さだけで腕を摩っているわけではないことに気づき、彼に駆け寄り、背中を摩る。
「大丈夫だ。俺が支えてやる。今まで力になれなかった分、いや、それ以上にな。」
 大地の言葉に耳を傾けていると、気がついたら後ろの声は消えていた。一回気持ちを切り替えようと大地の胸に頭を擦り付ける。大地は少し驚いていたが、満更でもない表情で海斗の頭を撫でた。
 海斗の震えが治ってきたところで、大地はスマホを開いた。雫たちはあの後、家に戻ったみたいだが、大知の姿は無かったことがメッセージアプリに綴られていた。文字だけでも雫の焦りようは嫌でも伝わってきた。大地は徐々に焦りが芽生えてくる。メッセージアプリを閉じると、位置情報アプリが一瞬チラつく。もう一つ指輪、買っておけば良かったかな、とあらぬ後悔をしていると、後ろから大きな声が響く。

「あ!海斗先輩に大地さん!どうしたんすか?」
 状況に似合わず軽快な声に調子が外れるが、今はその声に救われた。
「空島!」
 振り向くと、空島の他にBARのマスターも歩いていた。二人はレジ袋を手に持ってこちらへ歩いてくる。
「なんでこんなところに?」
 大地の質問に空島はレジ袋を肩まで上げながら答える。
「うち、クリスマスは意外と人来ないんすよね。常連さんがみんな年末年始に集中するんで、今日は独り者の俺とマスターで一緒に店でクリスマス会するんす!今はマスターの買い物に付き合わされた帰りっす!」
「やだ、あたしはまだ恋人探しを諦めてないわよ!」と軽く空島の方をマスターが叩く。軽くのはずなのに空島は体勢を少し崩していた。
「それで、二人はどうしたの?仲良くクリスマスでラブラブデート」とマスターが言ったところで、海斗の顔色の悪さに尋常じゃない空気を察知したようだった。さっきまでおちゃらけていた空島の顔も真顔になっていた。
「何かあったの?」
 マスターの心配する表情に二人はここにいる経緯を軽く説明した。説明している間、マスターも空島も顔を見合わせて不安そうにしていたが、気がつくと決心した真剣な眼差しに変わっていた。

「そういうことなら、お供するっす!」
「みんなで探した方が見つかりやすいしね!」
 心強い返事に二人が勇気づけられていると、空島が「あ!」と声を上げて遠くを指差す。
「今、子ども通り過ぎませんでした!?」
 空島の言葉に一同一斉に走り出した。曲がり角を左に曲がると、見覚えのあるリュックサックを背負った子どもが見えた。

 大知だった。大地は安心して駆け寄ろうとしたが、すぐ大知の隣に視線を移し、背筋を凍らせた。

 そこには、見知らぬ男が大知と手を繋いで歩いている姿があった。


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