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「ちゃんちゃら」番外編3話
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「ちゃんちゃら」番外編3話
「それで、こっちで不貞腐れてるの?」
屈強な男は飲み物を運びながら、テーブルに顔を突っ伏している空島を見遣った。
「本当に最悪っす。なんで今さら傷口抉るような話を蒸し返すんすかね。」
「その男、未練タラタラって感じよね。」
「そんなこと言われても。こっちはもう何とも思ってないし、結婚なんてどうせ向こうの両親が許さないっしょ。」
マスターは険しい顔で腕組みをする。
「それもそうだけど。それにしても、元とはいえ恋人の容姿について無神経に突っ込むのはナンセンスよね。その婚約相手っていう、お金持ちご令嬢と上手くやっていけるのかしら。」
「もう俺にはどうでもいいことっす。」と言って再び空島はテーブルに突っ伏した。
ふと入り口付近に目が行く。今から約一年近く前、ここで一人の男とマスターが言い合いになった。
海斗先輩が妊娠していたことには驚きはしたが、驚きよりも同情の方が勝った。自分も同じ目に遭っているから。だから、大地がここで海斗のことを悪く言った時は本当は殴り飛ばしてやろうかと思った程だ。
しかし、大地はすぐに自分の行動を反省し、海斗と一緒にいることを選んだ。大地の悩みながらも真っ直ぐに海斗を見つめる瞳に空島は感心したのと同時に羨望の念を抱いた。その姿は自分が木待先輩に求めていた全てが詰まっていた。
空島は被りを振った。いつも自分は求めてばかりだ。だから全てを失ったのだ。
空島が暗い表情で掃除をしているのをマスターは心配したのか閉店後、自分に一杯奢ってくれた。
「心配かけてすんません。でも、俺もう大丈夫っすよ。」
「ソラちゃん。そろそろ新しい恋でも始めてみたら?」
空島は持ってるグラスを少し回す。
「恋愛はもう懲り懲りっすよ。」
「そうかしら?」
空島が顔を上げると、マスターはしたり顔でこちらを見ていた。
「ソラちゃんは、恋する方だと思うけどな」
「なにを根拠に言ってるんすか」
空島が苦笑いをしていると、マスターは何やら両手を顔横に上下している。空島が首を傾げるとマスターは楽しそうに笑った。
「だって、昔は髪伸ばしてたんでしょ?恋してたソラちゃん、どんな感じだったのかなぁって」
空島は「えー」と言いながらスマホの写真フォルダを漁る。
「そんな昔の写真残ってますかねー」
残っていた。
空島は慌ててスマホを隠す。それをマスターは見逃さなかった。手の平を差し出してくる。空島はそのマスターの笑顔に負け、大人しくスマホを差し出した。スマホの画面を見たマスターは花が咲いたかのように明るい笑顔になった。
「あら!!かーわいいじゃなぁ~い!」
「中学の頃っすからね~」
「違うわよ」
マスターはこちらにスマホを返す。
「髪の長いソラちゃん似合ってるじゃなぁ~い」
マスターはまるで自分の子どもを可愛がるように満足そうだった。しかし、その瞳が僅かにほくそ笑む。
「でも、確かにその男はソラちゃんに合わないかもねぇ」
「えっ」
慌てて画面を見ると、写真の端っこに木待先輩が写っていた。空島の眉がどんどん吊り上がっていく。
「ソラちゃん、塩顔イケメンより醤油顔イケメンの方が合うと思うのよねぇ」
「そ、そんなのどうでもいいっすし、もう死語っすよ、それ」
マスターが時の流れの残酷さに驚いているのを他所に空島は帰り支度を始めた。
「新しい恋かぁ」
外は春だが夜となるとまだ寒かった。少し身震いしたが、すぐに体温が熱くなるのを感じた。
また不定期のヒートが始まったことを空島は悟った。これは木待先輩の呪いなのか、あの妊娠の一件からずっと安定もしないし薬も大して効かないヒートが空島を襲っていた。幸い、番防止の器具を首に付けていた為、木待先輩とは番にはならなかったが、このヒートとは早くおさらばしたかった。
ー海斗先輩がこの苦しみを味わわなくて良かった。
空島は呼吸を荒げながら早歩きでアパートに向かう。その際に通行人に少しぶつかってしまうが、軽くお辞儀をしてその場を走り去る。ゆっくりしている暇は今の空島には無かった。
「それで、こっちで不貞腐れてるの?」
屈強な男は飲み物を運びながら、テーブルに顔を突っ伏している空島を見遣った。
「本当に最悪っす。なんで今さら傷口抉るような話を蒸し返すんすかね。」
「その男、未練タラタラって感じよね。」
「そんなこと言われても。こっちはもう何とも思ってないし、結婚なんてどうせ向こうの両親が許さないっしょ。」
マスターは険しい顔で腕組みをする。
「それもそうだけど。それにしても、元とはいえ恋人の容姿について無神経に突っ込むのはナンセンスよね。その婚約相手っていう、お金持ちご令嬢と上手くやっていけるのかしら。」
「もう俺にはどうでもいいことっす。」と言って再び空島はテーブルに突っ伏した。
ふと入り口付近に目が行く。今から約一年近く前、ここで一人の男とマスターが言い合いになった。
海斗先輩が妊娠していたことには驚きはしたが、驚きよりも同情の方が勝った。自分も同じ目に遭っているから。だから、大地がここで海斗のことを悪く言った時は本当は殴り飛ばしてやろうかと思った程だ。
しかし、大地はすぐに自分の行動を反省し、海斗と一緒にいることを選んだ。大地の悩みながらも真っ直ぐに海斗を見つめる瞳に空島は感心したのと同時に羨望の念を抱いた。その姿は自分が木待先輩に求めていた全てが詰まっていた。
空島は被りを振った。いつも自分は求めてばかりだ。だから全てを失ったのだ。
空島が暗い表情で掃除をしているのをマスターは心配したのか閉店後、自分に一杯奢ってくれた。
「心配かけてすんません。でも、俺もう大丈夫っすよ。」
「ソラちゃん。そろそろ新しい恋でも始めてみたら?」
空島は持ってるグラスを少し回す。
「恋愛はもう懲り懲りっすよ。」
「そうかしら?」
空島が顔を上げると、マスターはしたり顔でこちらを見ていた。
「ソラちゃんは、恋する方だと思うけどな」
「なにを根拠に言ってるんすか」
空島が苦笑いをしていると、マスターは何やら両手を顔横に上下している。空島が首を傾げるとマスターは楽しそうに笑った。
「だって、昔は髪伸ばしてたんでしょ?恋してたソラちゃん、どんな感じだったのかなぁって」
空島は「えー」と言いながらスマホの写真フォルダを漁る。
「そんな昔の写真残ってますかねー」
残っていた。
空島は慌ててスマホを隠す。それをマスターは見逃さなかった。手の平を差し出してくる。空島はそのマスターの笑顔に負け、大人しくスマホを差し出した。スマホの画面を見たマスターは花が咲いたかのように明るい笑顔になった。
「あら!!かーわいいじゃなぁ~い!」
「中学の頃っすからね~」
「違うわよ」
マスターはこちらにスマホを返す。
「髪の長いソラちゃん似合ってるじゃなぁ~い」
マスターはまるで自分の子どもを可愛がるように満足そうだった。しかし、その瞳が僅かにほくそ笑む。
「でも、確かにその男はソラちゃんに合わないかもねぇ」
「えっ」
慌てて画面を見ると、写真の端っこに木待先輩が写っていた。空島の眉がどんどん吊り上がっていく。
「ソラちゃん、塩顔イケメンより醤油顔イケメンの方が合うと思うのよねぇ」
「そ、そんなのどうでもいいっすし、もう死語っすよ、それ」
マスターが時の流れの残酷さに驚いているのを他所に空島は帰り支度を始めた。
「新しい恋かぁ」
外は春だが夜となるとまだ寒かった。少し身震いしたが、すぐに体温が熱くなるのを感じた。
また不定期のヒートが始まったことを空島は悟った。これは木待先輩の呪いなのか、あの妊娠の一件からずっと安定もしないし薬も大して効かないヒートが空島を襲っていた。幸い、番防止の器具を首に付けていた為、木待先輩とは番にはならなかったが、このヒートとは早くおさらばしたかった。
ー海斗先輩がこの苦しみを味わわなくて良かった。
空島は呼吸を荒げながら早歩きでアパートに向かう。その際に通行人に少しぶつかってしまうが、軽くお辞儀をしてその場を走り去る。ゆっくりしている暇は今の空島には無かった。
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