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「ちゃんちゃら」番外編2話
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「ちゃんちゃら」番外編2話
そんな昔のことを思い出しては苛立ち、頼んだアイスティーに入っている氷をストローで突く。なぜここまで空島が苛立っているかというと、今日は例の男と会わなければならないからだ。もう好きでも何でもない人だ。
「や、やあ。」
昔は良いと思っていた声は頼りなく、何も心に響かなかった。木待先輩はスーツ姿で空島の向かいの席に座った。彼も飲み物を頼んでいる。しっかりしたスーツを着ているのをみると、どうやら木待建設は今日も絶好調のようだ。
木待先輩は席につくなり、早口で話し始める。
「大学に通ってるんだって?楽しいかい」
まるで久々に会う親戚のおじさんのような聞き方だった。
「まあ、それなりには」
それから暫く沈黙が続いた。木待先輩はずっと手を組んだり離したりとまごつかせている。特に話すこともないので黙っている空島を見るなり、木待先輩は本題に入り始めた。
「これ、保育園の運動会なんだけど」
彼は徐に自分のスマホの画面を見せつけてくる。特に見たいわけでもなかったが、目の前にこれでもかと見せてくるので、嫌でもそれは視界に入った。
そこには五歳くらいの幼い男の子がはちまきをつけて、他の子と懸命に走っている様子が写真に写っていた。それを無感情で空島は眺める。
「翔(かける)。一位だったんだ。凄いだろう!」
まるで他人の家族の親バカ話を聞かされてるようだった。自分には似ていない翔という子ども。本当に自分が産んだのかと全く実感が湧かなかった。ずっと黙っている空島を見て木待先輩は苛立たしげに言ってきた。
「空島の子どもだろ。何とも思わないのか?」
そんなことを言われても空島は困った。なにしろ一切連絡が無かったと思えば、突然子どもの写真を見せられても空島はピンとはこなかったし、この子どもに愛着も湧かなかった。
「いや、別に。」と空島は無表情で言うと木待先輩は声を荒げた。
「それでも君はこの子の親か!?随分と冷たい男だな。そんな奴だとは思わなかった。」
空島は目をぱちくりさせた。飲んでいたアイスティーの氷がカランと強く鳴る。
「一度も会ったことが無いのに、どう感じろって言うんすか?」
木待先輩は視線を逸らす。
「俺や両親も一応連絡しましたよね?子どものその後のこととか聞きましたけど、会わせる気無かったじゃないすか。」
「そ、それは」
木待先輩は分かりやすくしどろもどろし始める。分かっている。この人はただの木待家の操り人形でしかないっていうことも。中学の時に憧れていた先輩は、一回りも二回りも小さく見えた。ただ、空島が腹立たしいのは、そんな彼が父親面をしてあたかも自分は親の役目を果たしているかのように意気揚々と子どもの話をしているからだ。
恐らく、生まれてきた子どもは英才教育というやつを受けさせられているのだろう。しかし、木待家のような最近になって油が乗ってきた企業では見様見真似の教育といったものだろうな、と金城大地という本物の大企業の御曹司と会ってしまった空島は苦笑していた。
「俺、もう帰っていいすか?」
そう冷たく言い放って空島は立ちあがろうとする。焦った木待先輩は思い詰めた表情でこちらを見ていた。
「俺、結婚するんだ。」
空島は椅子をテーブルの下まで入れる。
「両親がようやく大企業のご令嬢との見合いに漕ぎつけることができてね。その人と結婚することになった。その人は俺に子どもがいても受け入れてくれた。」
空島がお金を置きながら顔を上げる。
「そうですか。良かったっすね。」
「いいのか?」
「何がっすか?」
空島が怪訝な表情を向ける。
「もう俺と結婚できなくなるぞ。子どもにも会えない。」
空島は鼻で笑った。
「本当に自分勝手っすね。」
空島が出口へ向かおうとすると、先輩は後を追うように口を開く。
「あ、あとお前!短髪似合ってないぞ!」
空島は何事もなかったかのようにカフェのドアを開けた。
そんな昔のことを思い出しては苛立ち、頼んだアイスティーに入っている氷をストローで突く。なぜここまで空島が苛立っているかというと、今日は例の男と会わなければならないからだ。もう好きでも何でもない人だ。
「や、やあ。」
昔は良いと思っていた声は頼りなく、何も心に響かなかった。木待先輩はスーツ姿で空島の向かいの席に座った。彼も飲み物を頼んでいる。しっかりしたスーツを着ているのをみると、どうやら木待建設は今日も絶好調のようだ。
木待先輩は席につくなり、早口で話し始める。
「大学に通ってるんだって?楽しいかい」
まるで久々に会う親戚のおじさんのような聞き方だった。
「まあ、それなりには」
それから暫く沈黙が続いた。木待先輩はずっと手を組んだり離したりとまごつかせている。特に話すこともないので黙っている空島を見るなり、木待先輩は本題に入り始めた。
「これ、保育園の運動会なんだけど」
彼は徐に自分のスマホの画面を見せつけてくる。特に見たいわけでもなかったが、目の前にこれでもかと見せてくるので、嫌でもそれは視界に入った。
そこには五歳くらいの幼い男の子がはちまきをつけて、他の子と懸命に走っている様子が写真に写っていた。それを無感情で空島は眺める。
「翔(かける)。一位だったんだ。凄いだろう!」
まるで他人の家族の親バカ話を聞かされてるようだった。自分には似ていない翔という子ども。本当に自分が産んだのかと全く実感が湧かなかった。ずっと黙っている空島を見て木待先輩は苛立たしげに言ってきた。
「空島の子どもだろ。何とも思わないのか?」
そんなことを言われても空島は困った。なにしろ一切連絡が無かったと思えば、突然子どもの写真を見せられても空島はピンとはこなかったし、この子どもに愛着も湧かなかった。
「いや、別に。」と空島は無表情で言うと木待先輩は声を荒げた。
「それでも君はこの子の親か!?随分と冷たい男だな。そんな奴だとは思わなかった。」
空島は目をぱちくりさせた。飲んでいたアイスティーの氷がカランと強く鳴る。
「一度も会ったことが無いのに、どう感じろって言うんすか?」
木待先輩は視線を逸らす。
「俺や両親も一応連絡しましたよね?子どものその後のこととか聞きましたけど、会わせる気無かったじゃないすか。」
「そ、それは」
木待先輩は分かりやすくしどろもどろし始める。分かっている。この人はただの木待家の操り人形でしかないっていうことも。中学の時に憧れていた先輩は、一回りも二回りも小さく見えた。ただ、空島が腹立たしいのは、そんな彼が父親面をしてあたかも自分は親の役目を果たしているかのように意気揚々と子どもの話をしているからだ。
恐らく、生まれてきた子どもは英才教育というやつを受けさせられているのだろう。しかし、木待家のような最近になって油が乗ってきた企業では見様見真似の教育といったものだろうな、と金城大地という本物の大企業の御曹司と会ってしまった空島は苦笑していた。
「俺、もう帰っていいすか?」
そう冷たく言い放って空島は立ちあがろうとする。焦った木待先輩は思い詰めた表情でこちらを見ていた。
「俺、結婚するんだ。」
空島は椅子をテーブルの下まで入れる。
「両親がようやく大企業のご令嬢との見合いに漕ぎつけることができてね。その人と結婚することになった。その人は俺に子どもがいても受け入れてくれた。」
空島がお金を置きながら顔を上げる。
「そうですか。良かったっすね。」
「いいのか?」
「何がっすか?」
空島が怪訝な表情を向ける。
「もう俺と結婚できなくなるぞ。子どもにも会えない。」
空島は鼻で笑った。
「本当に自分勝手っすね。」
空島が出口へ向かおうとすると、先輩は後を追うように口を開く。
「あ、あとお前!短髪似合ってないぞ!」
空島は何事もなかったかのようにカフェのドアを開けた。
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