ゼロから千まで

三旨加泉

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「ゼロから千まで」10話

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「ゼロから千まで」10話


 その日は珍しく二葉たちと予定が合わず、一人で下校することになった。その理由はもう少しで体育祭があるからだ。皆、それぞれのクラスで出る競技の練習を始めているのだ。千歳はバレーボールの競技に出る為、同じ競技に出るクラスのみんなと先程まで練習をしていた。しかし、みんな運悪く千歳とは別方向の帰路だった為、止むなく千歳は一人で校門を潜ることになった。
 
 一人で歩いていると、後ろから男子たちの騒がしい声が聞こえた。振り返ると、どうやら運動部も練習が終わったのか、みんなで帰っている。その中にはサッカー部もいて、当然その中には零一もいた。珍しく零一は一人でこちらへ歩いてきた。何の気無しに零一を凝視していたので、気まずくなった千歳は慌てて前を歩き始めた。零一に気まずさを覚えるなんて、人生でこれが初めてだった。
 暫く二人は隙間を空けながら縦一列に歩いた。今、零一はどこで暮らしているのか分からないが、どうやら千歳と帰る方向は同じ様子だった。

 最初に口を開いたのは零一だった。
「千歳。」
 幼い頃、零一は千歳のことを「ちーちゃん」と呼んでいた。その為か、一瞬自分の名を呼ばれたという事実に千歳は気づかなかった。
 ポカンと口を開けながらも「なにー?」と聞き返した。
「元気?」
「うん。」
「そっか。」
 呆気なく会話は終了し、再び無言の時間がやってきた。昔はお互い喋らなくても気にならなかったのに、千歳は背中あたりがムズムズした。
「サッカー続けてたんだね。」
 あまりにも長いこと会話をしていなかったので、今更という質問をしてしまった。
「え?うん。」
 零一の素っ気無い返事に質問を続けるのを躊躇ったが、それよりも無言の時間の方が千歳は嫌だった。
「懐かしいね。前にサッカーボール使ってさ、たたかいごっこした時にボールが思ったより遠くに飛んじゃってさ。うちがボールに名前書いてたから、それがすごい変な光景で」
「恥ずかしいからやめてよ。」
 千歳の足が止まった。あまりにもその言葉が冷たく、突き放すかのような声をしていたから。
 零一は暫く気づかず先を歩いていたが、やがて千歳の足音が聞こえなかったことに気づいたのか後ろを振り向いた。彼は不思議そうに千歳を眺めていた。

 分かっていた。本当は自分がいかに置いて行かれているのかを。みんながどんどん自分の知らない未知の世界へ足を踏み出していき、自分だけが取り残されているのかを。

「なんか、ごめんね。」
「え?」
「うち、喋り過ぎだよね。」
 何か零一がこちらに声を掛けようとしたが、その前に二人の間に立った人物がいた。
「どうしたの?二人とも。」
 百合愛だった。


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