ゼロから千まで

三旨加泉

文字の大きさ
23 / 51

「ゼロから千まで」23話

しおりを挟む
「ゼロから千まで」23話


 零一のアパートは学校から少し離れた場所に建っており、築年数もそこそこ重ねていそうな雰囲気だった。近づくと見える建物の壁にある黒ずんだ汚れは、夜だとなんだか不気味に見えた。

 小学生の頃、零一が引っ越してしまったことには理由があった。
 それは、急な両親の他界だった。交通事故だったらしい。その日は零一と一緒に外で遊んでいたから、零一だけ助かったのだ。それからすぐ零一は親戚の家に引き取られていったのだ。

「れいちゃん。どうしてアパートで暮らすことになったの?」
 零一の提案で手を繋ぎながら階段を上り、零一の部屋のドアの前まで歩く。しかし、返事が無かったので、千歳は顔を上げると零一はどこか後ろを見ていた。
「どうしたの?」
「え?いや…なんの話だっけ。」
「アパート暮らしの理由だよ。」
 零一は「あー」と言ってから「親戚の家からだと高校まで遠いんだよ。叔父さんたちに許可を貰ってアパート暮らしを始めたんだ。」とようやく前へ向き直る。
「サッカーも遅くまでやってる時あるもんね。」
 千歳の言葉に零一は苦笑しながら鍵を開けてドアを開ける。
「それもあるけど、ちょっと叔父さんたちと距離を置きたかったんだ。」
「なんで?」
 零一の叔父さんたちとは零一が引っ越す際にチラリと顔を見た程度だった為、人物像などよく浮かばなかった。
「親戚と言えど、ちょっと俺だけ疎外感を感じちゃってさ。」
 零一は整頓された部屋のベッドに腰を下ろす。
「僕からしてみては、どちらかと言うとちーちゃん一家の方が親戚って感じがするんだよね。」
「いつでも家に来ていいよ。」と笑いながら言う千歳に零一は何か思い詰めた表情で千歳を抱きしめる。突然抱きしめられたので千歳はびっくりしたが、病院で抱きしめられた時よりは緊張しなかった。しかし、零一は加えて千歳の頭を撫で始めたので、不思議そうに顔を上げて零一を見つめる。零一がこちらへ顔を近づけてきたので、驚いた千歳は一歩後ろへ後退る。千歳の頭に触れていた零一の手の平が離れていく。
「じゃあ、ご飯食べたら勉強会、始めようか。」
「う、うん。」
 いつもだったら勉強会という言葉に気後れしていたが、それどころではなかった。さっきの雰囲気は、今までに感じた事ない焦燥感を覚えさせた。頭を触られたはずなのに背中を撫でられたような、そんな感覚があった。

「せっかくだから、僕が作るよ。ちーちゃん、なに食べたい?」
「え、れいちゃん、料理できるの!?」
 そう言って千歳は零一と一緒に冷蔵庫を眺める。零一の表情はよく見えなかった。代わりに冷蔵庫の中に入っている、綺麗に並べられた野菜や肉が目に入る。千歳は一体どんな献立が良いかとワクワクする気持ちと同時にどこかスッキリしない気持ちが心の中をかき混ぜていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ホストと女医は診察室で

星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。

本命は君♡

ラティ
恋愛
主人公の琴葉。幼なじみの駿太がサークルに入っていることを知り、自分も入ることにする。そこで出会ったチャラい先輩の雅空先輩と関わるうちに、なんだか執着されて……

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

蛇の噛み痕

ラティ
恋愛
ホストへ行かないかと、誘われた佳代は、しぶしぶながらもついていくことに。そこであった黒金ショウは、美形な男性だった。 会ううちに、どんどん仲良くなっていく。けれど、なんだか、黒金ショウの様子がおかしい……? ホスト×女子大学生の、お話。 他サイトにも掲載中。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

お人形令嬢の私はヤンデレ義兄から逃げられない

白黒
恋愛
お人形のように綺麗だと言われるアリスはある日義兄ができる。 義兄のレイモンドは幼い頃よりのトラウマで次第に少し歪んだ愛情をアリスに向けるようになる。 義兄の溺愛に少し悩むアリス…。 二人の行き着く先は…!?

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...