ゼロから千まで

三旨加泉

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「ゼロから千まで」22話

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「ゼロから千まで」22話


 千歳が百合愛と別れ、家に帰ってくると、零一が出したばかりのコタツに入りながら祖母と話をしていた。
「れいちゃん。」
「ちーちゃん。」
 声を掛けると嬉しそうに零一は千歳の元へやって来たかと思えば、すぐに千歳を二階の廊下まで連れて行った。千歳が目が点になっているのを他所に零一は千歳の肩を強めに掴む。
「百合愛と会ってきたって本当?」
「どうして知ってるの?」
「お祖母さんから聞いたんだ。」
 零一は溜息をつきながらおでこに手を当てていた。
「大丈夫だよ。百合愛もう帰ったし。気にしなくていいよ。」
「気にするよ。」
 さっきよりも語気が強めの声に千歳は驚く。それを見た零一は慌てて優しい口調に変え、「千歳、僕から提案があるんだけど」と話題まで変えた。

「僕、今こっちに来てアパートで暮らしてるんだ。」
「へー!一人暮らしなの?」
「うん。そうなんだ。」
 千歳が興味を示したのを見て零一は安心したように笑う。
「ちーちゃんは一人暮らしの部屋って気になるの?」
「うん、気になるよ。」と千歳が頷いたのをまるで待っていたかのように零一は千歳の手を握った。
「良かったら、僕のアパートで入院してた時みたいに一緒に勉強会しようよ。」
「うん、いいよ。」
 嬉しそうに笑う千歳を見て零一はすぐ千歳の手を取った。まるでダンスを誘うかのように軽い手の取り方に驚いた千歳はそのまま一緒に釣られて歩き始めた。一体どこへ行くのだろうかと疑問に思っていると、零一はさも当たり前かのように玄関へ向かおうとした。さすがに千歳は足を止め、零一の腕を引っ張る。
「ね、ねぇ。どこ行くの?」
 零一はキョトンとした顔をして後ろを振り返る。
「アパートだよ?」
 まさか今からだと思わず、動揺していると、廊下の奥から祖母が歩いてくる。
「あら、いいんじゃない?晩御飯はどうする?ここで食べてく?」
「どうする?」
「うーん。」
 零一の問いに千歳は頭を捻る。祖母の料理も食べたいが、ずっと病院食だった千歳の身体は味が濃い食べ物を求めていた。
「じゃあ、れいちゃんとご飯食べるよ!」
「そうかい、そうかい。」
 ニコニコと笑いながら落ち着いてる祖母を見て千歳は入院の時も零一と一緒に過ごしたのだから、何も驚くことは無いな、といつもの楽観的な考えが頭を過ぎる。年頃の男女が一つ屋根の下にいるということに警戒心の無い千歳に抵抗という文字は浮かばなかった。
 しかし、廊下の奥の方から大きい足音が響く。まるで巨人でも歩いているのではないかと思ったら眉間に皺を寄せた祖父だった。
「一体どこへ行くつもりだ。」
「零一の家。」
「ダメに決まっとるだろ!!」
 鋭い目つきの祖父に千歳は慄くが、零一は千歳の肩を掴んで自分に引き寄せる。
「大丈夫です。ちゃんとお孫さんを朝、無事にここへ連れて参ります。」
「ちゃっかり泊まってるじゃないか!ダメだ!!」
「あ、じゃあパジャマ持ってった方が良い?」
「ちーちゃんの分、買ってあるから大丈夫だよ。」
「話を聞け!!」
 顔を真っ赤にして怒る祖父の肩に祖母が手を置く。
「なに言ってるんですか、おじいさん。あなたも学生時代、わたしをカッコつけた言葉を使って、よく家に連れ帰っていたじゃないですか。」
「いや、それは昔の話で、今は」と急にしどろもどろし始める祖父を他所に祖母は「じゃあ、二人とも夜道気をつけるのよ。」
 すっかり日が落ちてしまって暗くなった空とは裏腹に祖母は元気良く二人を送り出した。
 二人が手を振る中、祖母の隣に立つ祖父はずっと口をへの字にしていた。


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