ゼロから千まで

三旨加泉

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「ゼロから千まで」34話

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「ゼロから千まで」34話


 高校に入っても零一への周りの反応は変わらなかった。変わるどころか日に日に自分に視線を向ける人間が増えているような気がして零一は居心地の悪さを感じていた。元々、目立つことが好きではない零一にとって、学校の女子から好意を向けられるということは嬉しいことではなかった。試しに同じクラスの男子にそれとなく見られるのは好きじゃないことを話すと、「モテるのも大変だなぁ」と茶化すような口調で言われてしまった。他の者からは「羨ましい悩みだ。」と言われ、零一の気持ちを理解しようとしてくれる人間はどこにもいなかった。零一はこれ以上、目立ちたくなかったが、周りはそうはさせてはくれなかった。
 その間、千歳とは一切話さなかった。それでも零一の視線はずっと千歳を捉えていた。
ー千歳が羨ましい。
 零一はすっかり自己嫌悪に陥っていた。みんなに合わせないとやっていけない自分が惨めに思えた。それに加え、千歳はそんな零一を置いて先に行っているようで寂しかった。そんな未練がずっと零一の体を縛って離さなかった。自分は永遠千歳という存在に惹かれ、一緒にいることで自分らしくなっていると思っていたが、ただ千歳に甘えているだけのような気もして、千歳に進んで話しかけることもできなかった。それは、「れいちゃん」と廊下ですれ違った時に千歳が呼んでくれたというのに、零一が反応することができない程であった。

 そんなある日、体育祭が近づく中、部活帰りにいつも通り部員と帰路を歩いていると、前を女生徒が歩いていた。あの腰まである長い髪は千歳だとすぐ気がついた。いつも誰かと一緒にいる千歳が一人で歩いているのは珍しく感じた。
 千歳は部員たちの騒がしい声に気が付いたのか、後ろを振り向いてくる。千歳と目が合う。零一の鼓動は速まった。しかし、千歳はすぐ前を向いて先を歩こうとする。焦燥感に駆られた零一は早足で千歳を追った。
 
「千歳。」
 思い切って声を掛ける。緊張して名前を呼び捨てしたからか、裏返った零一の声は夜道に消えていき、少し遅れて千歳が反応してきた。
「なにー?」
「元気?」
「うん。」
「そっか。」
 何を話したらいいか分からず、会話がすぐ途切れてしまう。そういえば、元々自分はお喋りではなく、ずっと千歳の話を聞く立場であったことを思い出した。
「サッカー続けてたんだね。」
 零一がなにも話さないからか千歳の方から話題を振ってくる。千歳に気を遣わせたことに零一は恥ずかしさを覚えた。
「え?うん。」
「懐かしいね。前にサッカーボール使ってさ、たたかいごっこした時にボールが思ったより遠くに飛んじゃってさ。」
 千歳はあの時と変わらず楽しそうに話し始める。そんな彼女を見るとなんだか自分が体も中身も変わってしまったようで嫌気が差してきた。無理して他人に合わせている自分。何だか千歳の声が遠く感じた。そんな気も知らない千歳はお喋りを続けてくる。
「うちがボールに名前書いてたから、それがすごい変な光景で」

「恥ずかしいからやめてよ。」

 気がつくと、自分の口から擬態しようとする自分の言葉が飛び出てきていた。しまったと思った。でも今までの千歳だったら笑って「なにー!」と流してくれると思った。しかし、後ろで歩いていたはずの千歳の足音が聞こえない。振り向くのが怖かったが、零一は意を決して振り向いた。案の定、千歳は傷ついた表情をして立ち尽くしていた。あんな表情をした千歳を見たのは初めてだった。
 零一は自分がいかに狡くてみっともない行いをしたかを痛感した。千歳は苦笑しながら口を開く。

「なんか、ごめんね。」
「え?」
「うち、喋り過ぎだよね。」

 子どもの頃の千歳は周りの人の気持ちを考えるタイプではなかった。それ故、他人に迷惑を掛けることもあったが、零一のように救われた人間もいた。
 見たことのない千歳に零一は動揺しながら千歳を見つめることしかできなかった。


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