悪役令嬢のバックには、歩く攻略本がついている

瑞希ちこ

文字の大きさ
24 / 35

笑顔の魔法の効果はばつぐんだ!

しおりを挟む

「ん……んぅ……」

 夢の中で、私は大きな犬と戯れていた。お手をして、お座りをして、それはそれは利口な犬だった。
 言うことをきちんと聞く犬の頭を撫でると、犬は急に私にのしかかり、ぺろぺろと私の頬を舐め回す――。

「もう、ワンちゃん、くすぐったいってばぁ……」

 寝言を言いながら目を覚ますと、そこには夢に出てきたかわいいワンちゃんが――って、ちがう。

「フェリクス⁉︎ 朝からなに! ていうか、なんで私の部屋にいるのっ!」

 今も尚、鼻先で私の頬をつついているのは、犬ではなく狼。詳しく言えば、獣化したフェリクスだ。

 以前も一度、昼寝をしている最中獣化したフェリクスが部屋に入ってきた。フェリクスって、寝込みを襲うのが趣味なのかしら……。

 フェリクスは私になにかを伝えるように首を振る。フェリクスの首が向いた方向には時計があり、時刻を見ると、もう十時を過ぎていた。

 まずい! 遅刻だ! 今日も朝から城の掃除をしなきゃいけなかったのに!

「ど、どうしようフェリクス、ギルバート様にまた怒られちゃう」

 サーっと血の気が引く私を笑うようにフェリクスは小さく吠えると、私に構ってもらいたいのかすりすりと私の体に擦り寄ってくる。

 早く着替えて仕事をしなくてはいけないのに、フェリクスの毛並みが気持ちよ過ぎて撫でるのを止められない。
 私が撫でると気持ちよさそうに目を細めるフェリクス。しばらくじゃれ合っていると、急にフェリクスが部屋から出て行った。

 どうしたんだろう?

「フェリクスー? どこ行ったの……」

 部屋の外を覗くと――そこには仁王立ちしたギルバート様が立っていた。

「リアーヌ、なにしてんだ」
「ご、ごめんなさぁぁい! すぐに着替えますから!」

 結果、朝からギルバート様の怒声を聞く羽目になってしまった。フェリクスったら、ギルバート様が来るのを察してひとりで逃げるなんて……。裏切者め……。

 メイド服に着替え身だしなみを整えると、私は寝坊したことをきちんと謝るためにもう一度ギルバート様の元へと向かう。

 ノックをして執務室に入ると、ギルバート様はしかめっ面で書類に目を通していた。

「ギルバート様、あの、今朝は寝坊して申し訳ございません」

 ギルバート様に話しかけ頭を下げる。ギルバート様は持っていた書類を置いて「はぁ」と呆れた顔でため息を吐いた。

「夜更かしでもしたのか」
「え? 昨日は遅くまで魔法を使えないかずっと試して念じていたので、夜更かしはしました」
「……」
「結局魔力は発動しなかったんです! どうしたらいいですかギルバート様っ!」
「お前謝罪しに来たんじゃねぇのか!」
「あ、そうでした」
「……もういい。次寝坊したら叩き起こすからな」

 ついつい話の趣旨がズレてしまった。そのおかげでギルバート様は怒る気をなくしたようで、あっさりと寝坊を許してもらえた。ラッキーだ。

「ついでにお前の魔力が発動しなかったのは、お前の意思がまだ弱いか、お前の先祖に魔法使いはいなかったってことだ」
「えー! やだ! 私も使いたい! 土でお城作りたい!」

 ギルバート様の前で駄々をこねていると、執務室の扉が開き、フェリクスがやってきた。当たり前だがちゃんと人型に戻っている。
 というか、なんで今朝はわざわざ獣化して私の部屋に来たのかしら。起こしにきたなら普通に来てくれても良かったのに。撫でられたい欲でも溜まっていたのかな。

「リアーヌの声が廊下まで聞こえたんだが、どうかしたか?」
「魔法が使えなくてギャーギャー喚いてるだけだ。うるさいからさっさと連れて行け」
「魔法? あぁ、昨日そんな話をしていたな」

 昨日会議が終わったあと、フェリクスにもギルバート様から聞いた、人間も魔法を使える可能性があることを話していた。フェリクスもそれは知っていたようで、私の話を楽しそうに聞いてくれた。

「リアーヌ、お前は魔法よりすごいことをすでにこのシャルムでやってのけているぞ。わかってる範囲でもう6人以上だ」
「……なんの人数?」
「お前がたらしこんだ魔法使いの数だ。俺とギルを始め、薬屋の娘、さらに魔法長三人も昨日でたらしこみに成功とはさすがだな。街の人間や使用人仲間を入れたらもっと増えそうだが」
「わけわかんない! なにその集計! それに魔法長のみなさんとはそこまで仲良くなった気はしてないけど……特にクロードさんとか」
「俺はあいつとそれなりに親交がある。クロードは俺の獣化の力に興味津々でな。昨日の会議後、クロードから連絡がきて、お前のことを気に入ったと言っていた」
「どのタイミングで⁉︎ まぁ、嫌われてないならよかったけど」

 知らないうちにクロードさんに気に入られたみたい。それにしてもたらしこんだ人数って、私はそんなつもりないのに! たらしこむって言い方もなんかよくない。

「フェリクス、俺を勝手にカウントすんな!」
「すっかりたらしこまれたやつがなにを言っている。ギル、お前はたらしこまれ代表と言ってもいいぞ」
「ふざけんな! 燃やすぞ!」

 ギルバート様の手から本当に炎が出てきた。フェリクスは臆することなく涼しい顔で笑っている。……魔法使い同士の口喧嘩だと、こんなの日常茶飯事なんだろうか。

「よしリアーヌ、そろそろ仕事をしないとな。ギルへの用事はもう終わったのだろう?」
「ええ。そうね。ではギルバート様、失礼します」

 フェリクスが先に執務室を出て、追いかけるよう私も出て行こうとすると――。

「ちょっと待て」

 ギルバート様に呼び止められた。

「ギルバート様? なにか? ま、まさか、まだ寝坊を許してくれてないんですか⁉︎」
「ちげぇよ! いや、昨日のお前の意見聞いて……俺もいろいろ考えたんだ」
「私の意見で?」
「ああ。……いいかもしれない。いつかまた、人間と魔法使いが共存する未来がくるのも」
「!」
「……お前と過ごして、俺はそう思った」
「ギルバート様……」
「ああ! こんなこと言ったってバレたら絶対フェリクスにからかわれる! 誰にも言うなよ」
「は、はいっ! あの、うれしいです! 私も、シャルムの人たちと過ごして――ギルバート様と過ごして、これからも一緒にいたいって思ったから!」
「……そうか」

 私の言葉を聞いたギルバート様は、少しだけ照れくさそうに、でもうれしそうに微笑んだ。

「……っ!」
「……おい、どうした? 顔めちゃくちゃ赤いぞ。熱でも――」
「し、失礼しますっ!」

 私は逃げるように執務室から去っていく。扉の前で待っていたフェリクスに気づくこともなく、そのまま廊下を走り抜けた。

 あれ。あれれ。どうしてギルバート様の笑顔を見るだけで、こんなに鼓動が高鳴るの。
 
 頭から、ギルバート様の笑顔が離れない。これはきっと――そういう呪い⁉︎

 私、ギルバート様に呪術をかけられたんだわ……!

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね

星井ゆの花(星里有乃)
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』 悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。 地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……? * この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。 * 2025年12月06日、番外編の投稿開始しました。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

9時から5時まで悪役令嬢

西野和歌
恋愛
「お前は動くとロクな事をしない、だからお前は悪役令嬢なのだ」 婚約者である第二王子リカルド殿下にそう言われた私は決意した。 ならば私は願い通りに動くのをやめよう。 学園に登校した朝九時から下校の夕方五時まで 昼休憩の一時間を除いて私は椅子から動く事を一切禁止した。 さあ望むとおりにして差し上げました。あとは王子の自由です。 どうぞ自らがヒロインだと名乗る彼女たちと仲良くして下さい。 卒業パーティーもご自身でおっしゃった通りに、彼女たちから選ぶといいですよ? なのにどうして私を部屋から出そうとするんですか? 嫌です、私は初めて自分のためだけの自由の時間を手に入れたんです。 今まで通り、全てあなたの願い通りなのに何が不満なのか私は知りません。 冷めた伯爵令嬢と逆襲された王子の話。 ☆別サイトにも掲載しています。 ※感想より続編リクエストがありましたので、突貫工事並みですが、留学編を追加しました。 これにて完結です。沢山の皆さまに感謝致します。

処理中です...