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笑顔の魔法の効果はばつぐんだ!
しおりを挟む「ん……んぅ……」
夢の中で、私は大きな犬と戯れていた。お手をして、お座りをして、それはそれは利口な犬だった。
言うことをきちんと聞く犬の頭を撫でると、犬は急に私にのしかかり、ぺろぺろと私の頬を舐め回す――。
「もう、ワンちゃん、くすぐったいってばぁ……」
寝言を言いながら目を覚ますと、そこには夢に出てきたかわいいワンちゃんが――って、ちがう。
「フェリクス⁉︎ 朝からなに! ていうか、なんで私の部屋にいるのっ!」
今も尚、鼻先で私の頬をつついているのは、犬ではなく狼。詳しく言えば、獣化したフェリクスだ。
以前も一度、昼寝をしている最中獣化したフェリクスが部屋に入ってきた。フェリクスって、寝込みを襲うのが趣味なのかしら……。
フェリクスは私になにかを伝えるように首を振る。フェリクスの首が向いた方向には時計があり、時刻を見ると、もう十時を過ぎていた。
まずい! 遅刻だ! 今日も朝から城の掃除をしなきゃいけなかったのに!
「ど、どうしようフェリクス、ギルバート様にまた怒られちゃう」
サーっと血の気が引く私を笑うようにフェリクスは小さく吠えると、私に構ってもらいたいのかすりすりと私の体に擦り寄ってくる。
早く着替えて仕事をしなくてはいけないのに、フェリクスの毛並みが気持ちよ過ぎて撫でるのを止められない。
私が撫でると気持ちよさそうに目を細めるフェリクス。しばらくじゃれ合っていると、急にフェリクスが部屋から出て行った。
どうしたんだろう?
「フェリクスー? どこ行ったの……」
部屋の外を覗くと――そこには仁王立ちしたギルバート様が立っていた。
「リアーヌ、なにしてんだ」
「ご、ごめんなさぁぁい! すぐに着替えますから!」
結果、朝からギルバート様の怒声を聞く羽目になってしまった。フェリクスったら、ギルバート様が来るのを察してひとりで逃げるなんて……。裏切者め……。
メイド服に着替え身だしなみを整えると、私は寝坊したことをきちんと謝るためにもう一度ギルバート様の元へと向かう。
ノックをして執務室に入ると、ギルバート様はしかめっ面で書類に目を通していた。
「ギルバート様、あの、今朝は寝坊して申し訳ございません」
ギルバート様に話しかけ頭を下げる。ギルバート様は持っていた書類を置いて「はぁ」と呆れた顔でため息を吐いた。
「夜更かしでもしたのか」
「え? 昨日は遅くまで魔法を使えないかずっと試して念じていたので、夜更かしはしました」
「……」
「結局魔力は発動しなかったんです! どうしたらいいですかギルバート様っ!」
「お前謝罪しに来たんじゃねぇのか!」
「あ、そうでした」
「……もういい。次寝坊したら叩き起こすからな」
ついつい話の趣旨がズレてしまった。そのおかげでギルバート様は怒る気をなくしたようで、あっさりと寝坊を許してもらえた。ラッキーだ。
「ついでにお前の魔力が発動しなかったのは、お前の意思がまだ弱いか、お前の先祖に魔法使いはいなかったってことだ」
「えー! やだ! 私も使いたい! 土でお城作りたい!」
ギルバート様の前で駄々をこねていると、執務室の扉が開き、フェリクスがやってきた。当たり前だがちゃんと人型に戻っている。
というか、なんで今朝はわざわざ獣化して私の部屋に来たのかしら。起こしにきたなら普通に来てくれても良かったのに。撫でられたい欲でも溜まっていたのかな。
「リアーヌの声が廊下まで聞こえたんだが、どうかしたか?」
「魔法が使えなくてギャーギャー喚いてるだけだ。うるさいからさっさと連れて行け」
「魔法? あぁ、昨日そんな話をしていたな」
昨日会議が終わったあと、フェリクスにもギルバート様から聞いた、人間も魔法を使える可能性があることを話していた。フェリクスもそれは知っていたようで、私の話を楽しそうに聞いてくれた。
「リアーヌ、お前は魔法よりすごいことをすでにこのシャルムでやってのけているぞ。わかってる範囲でもう6人以上だ」
「……なんの人数?」
「お前がたらしこんだ魔法使いの数だ。俺とギルを始め、薬屋の娘、さらに魔法長三人も昨日でたらしこみに成功とはさすがだな。街の人間や使用人仲間を入れたらもっと増えそうだが」
「わけわかんない! なにその集計! それに魔法長のみなさんとはそこまで仲良くなった気はしてないけど……特にクロードさんとか」
「俺はあいつとそれなりに親交がある。クロードは俺の獣化の力に興味津々でな。昨日の会議後、クロードから連絡がきて、お前のことを気に入ったと言っていた」
「どのタイミングで⁉︎ まぁ、嫌われてないならよかったけど」
知らないうちにクロードさんに気に入られたみたい。それにしてもたらしこんだ人数って、私はそんなつもりないのに! たらしこむって言い方もなんかよくない。
「フェリクス、俺を勝手にカウントすんな!」
「すっかりたらしこまれたやつがなにを言っている。ギル、お前はたらしこまれ代表と言ってもいいぞ」
「ふざけんな! 燃やすぞ!」
ギルバート様の手から本当に炎が出てきた。フェリクスは臆することなく涼しい顔で笑っている。……魔法使い同士の口喧嘩だと、こんなの日常茶飯事なんだろうか。
「よしリアーヌ、そろそろ仕事をしないとな。ギルへの用事はもう終わったのだろう?」
「ええ。そうね。ではギルバート様、失礼します」
フェリクスが先に執務室を出て、追いかけるよう私も出て行こうとすると――。
「ちょっと待て」
ギルバート様に呼び止められた。
「ギルバート様? なにか? ま、まさか、まだ寝坊を許してくれてないんですか⁉︎」
「ちげぇよ! いや、昨日のお前の意見聞いて……俺もいろいろ考えたんだ」
「私の意見で?」
「ああ。……いいかもしれない。いつかまた、人間と魔法使いが共存する未来がくるのも」
「!」
「……お前と過ごして、俺はそう思った」
「ギルバート様……」
「ああ! こんなこと言ったってバレたら絶対フェリクスにからかわれる! 誰にも言うなよ」
「は、はいっ! あの、うれしいです! 私も、シャルムの人たちと過ごして――ギルバート様と過ごして、これからも一緒にいたいって思ったから!」
「……そうか」
私の言葉を聞いたギルバート様は、少しだけ照れくさそうに、でもうれしそうに微笑んだ。
「……っ!」
「……おい、どうした? 顔めちゃくちゃ赤いぞ。熱でも――」
「し、失礼しますっ!」
私は逃げるように執務室から去っていく。扉の前で待っていたフェリクスに気づくこともなく、そのまま廊下を走り抜けた。
あれ。あれれ。どうしてギルバート様の笑顔を見るだけで、こんなに鼓動が高鳴るの。
頭から、ギルバート様の笑顔が離れない。これはきっと――そういう呪い⁉︎
私、ギルバート様に呪術をかけられたんだわ……!
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