悪役令嬢のバックには、歩く攻略本がついている

瑞希ちこ

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 ドタバタ魔法長会議が終わり、去って行った三人。私とギルバート様はふたりで庭に残される。

「くそっ、ディオンのやつ、ちゃんと処理してから行け」

 ギルバート様は土でできた城を魔法で元の地面に戻しながら、小さく舌打ちをする。ああ、素敵なお城だったのに……。

「あーあ。人間も魔法科に通えば、魔法が使えるようになったらなぁ」

 手をかざすだけで、あっという間に土を戻していくギルバート様の隣で、私はぽつりと呟いた。これだけ毎日魔法に触れていたら、自分も使えたら、と思ってしまうのが人間の性だ。

「……すべての人間ではないが、実はそれは起こり得る話だ」
「えっ!? 人間も魔法を使えるのですか!?」
「もし先祖に魔法使いがいた場合、人間の血がどんなに濃くとも、わずかに魔法使いの血は巡り残っているはず。そういうやつは、内に魔力を秘めている」
「じゃあ魔法使いになれる人間はまだ残っていると……」
「まぁな。でも身近に魔法を感じなければ、奥底に眠る力が発動することはない。そもそも今の人間は、自分が魔法を使えるなんて考えたこともないだろ」

 そりゃそうだ。魔法とは無縁の存在を送っているのだから。

「んー……。だったらシャルムの人たちが結界外に出て、人間に魔法を近くに感じさせたらいいのでは?」
「……はぁ?」
「そしたら、眠っていた魔法使いがたくさん目覚めるかも! さっき言った魔法科を学園に作って、そこでちゃんと魔法のコントロールを教えたらいいし! 楽しそう! ……というか、魔法を感じれば魔力を発動できる人間がいるなかで、どうして魔法使いは人間に数で負けたんですか?」

 自分で話しているうちに、そのことが引っかかった。魔法使いと人間との間に生まれた子供はほとんどが魔法を使えず、ただの人間として生まれる。そのせいで魔法使いの数が人間に飲まれて行ったという話だけど、その中に実は魔力を使えた人間はもっとたくさんいたんじゃないのかしら。

「魔法使いの血が薄いものは、余程のきっかけや、本人の魔法を使いたいという強い意思がないと発動しない。逆に血が濃い魔法使いは、意図せずすぐに魔力を発動できる。故に血が薄いものは勝手に魔力が発動しないから、自分のことを魔力のない人間だと思い込みそのまま生きていく。……人間が圧倒的に増えてからは、むしろ人間であるほうが生きやすい世の中になっていたと聞くしな」
「なるほど……。でも、それは200年も前の出来事ですよね? 今は時代が変わってます。みんな魔法がどんなものかすら知らないわ。だから魔法の存在を知って間近で見れば、自分も使いたいと強く思う人間はいるはずです! 私がそうですから! きっとギルバート様のまだ見ぬ仲間たちは、この世界にたくさんいるんですよ!」
「……200年も経てば魔法使いの血が残ってても、そりゃもう死ぬほど薄くなってるだろうな。相当強い意思がないと、魔力は引き出せない。……そんなやつ、いねぇだろ」
「いますよ! 世界はめちゃくちゃ広いんですからっ!」

 私は澄み渡る大空をビシィッ! と指さし、ギルバート様に言う。結界を超えて、この空はどこまでも続いているのだ。
 人間だって、魔法使いがこんな近くに生きているなんて誰も思っていなかった。
 だから、魔法使いが思ってもみなかったことが、この広い世界にあるはず。いや、あるに決まってる!

「……そうか、広いんだよな。この結界の向こうは」

〝うるせぇっ!〟と言われて終わりと思ったが、ギルバート様は意外にも一緒に空を見上げてくれた。

「私はいいと思うけどなぁ。――また、魔法使いと人間が共存できる世界がやってくるの」
「……んなこと、今までの国王誰もしようとしなかったな」
「ギルバート様がやるのはどうですか? 200年ぶりに! 私がここに来たのも、もしかしたら意味があるのかもしれません。人間と魔法使いを繋ぐ架け橋になるため、とか」
「……バーカ。お前は偶然落っこちただけだろ。自惚れんな。行くぞ」
「あ、待ってくださいよ! ギルバート様っ!」

 軽く頭を拳でコツン、とされ(全然痛くないけど)、ギルバート様はさっさと歩いて行く。すぐに後ろから追いかけると、上からなにか叫び声が聞こえた。
 何事かと思い見上げると、物凄い勢いで花瓶らしきものが私の顔面めがけて落ちてくる。

 ――あ、これ、かなりまずい感じ?

「おいっ!」

 ギルバート様の声が聞こえたのと、私が目を閉じるのは同時だった。
 花瓶が直撃して怪我したら、ベアトリスさんの白魔法が見られるかなー……なんて思って目を固く閉じるが――なにも起こらない。

「……ったく、危ねぇな」

 ゆっくり目を開ければ、花瓶がふわふわと宙に浮いている。
 そしてそのまま花瓶は上昇し、窓から青ざめた顔でこちらを覗くメイドの手元に戻って行く。

「すすす、すみませんギルバート様ぁぁぁ!」
「謝るのはこいつにだろ! 気をつけろ! こいつはなんもできねぇ人間なんだからな!」
「ひぃぃ! リアーヌ、ごめんなさいぃぃっ!」

 ギルバート様にギロリと睨まれ、蛇に睨まれた蛙状態のメイドは、何度も私に頭を下げる。私は手で大きく丸を作り自分は怒ってないことを伝え、下がっても大丈夫という合図を送った。

「ギルバート様、ありがとうございます。助けていただいて……」
「人間ってのはたいへんだな。こんな小っせぇ事故も回避できない。……守ってやるやつがいないと不安になるぜ。……ん? 待てよ。かつての魔法使いもまさかこう思って人間に惚れて……いや、俺は別にそうじゃ……」
「なにひとりでぶつぶつ言ってるんですか?」
「うわっ! お前いつからいたんだよ!」
「いや、だいぶ前から一緒にいましたけど」
「仕事しろ仕事を! 会議でまとめた資料をフェリクスのとこにさっさと持っていけ!」

 ……お礼を言っただけなのに、どうしてこんな怒られてるんだ。
 疑問を抱きつつフェリクスを捜しに城内へ戻ったところで、私はあることに気づく。

 メモ、全部会議室に置いてきちゃった!

 結局その後、フェリクスと地下の会議室まで一緒にメモを取りに戻った。

 ――ちなみにその日の夜。自分も魔法使いになれる可能性を信じ、何度も魔法を使いたいと強く念じたが、魔力を発動することはなかったのだった。
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