投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ

文字の大きさ
13 / 40

外に出られるみたいです。

しおりを挟む
「外に出られるんですか?」
 リーリエは驚いた。
 驚いた勢いで軽く跳ね、とんとんと牢の床に着地する。やることのない生活は自由すぎて、ついつい動き回ってしまう。

「……何をしている」
「あっ、すみません」
 客人の前でする態度ではなかっただろう。
 リーリエはうずうずする足を抑え込み、その場に腰を下ろした。

「気違いめ……」
「リーリエ様、そうなのです。南の果てで異変があるそうで、民が動揺しています。聖女であるリーリエ様にぜひ、民を導いていただきたいのです」
「まあ……」

 リーリエは眉を下げて首をかしげた。
 そもそも教会から出ることなく育ったリーリエにとって、外の世界に親しみなどない。その上、遠い地の民の話を聞かされても、想像のしようがなかった。

「お顔を見せて、大丈夫だと言ってくださればいいのです」
 マイラは軽く言い直した。
 顔色を読むのが得意なマイラは、リーリエの民への興味の無さををすぐに察したのだ。

「簡単なお仕事でしょう? それにリーリエ様も外に出てみたいんじゃないかと思って」
「それは……そうですけど……祈らなくてもいいんですか?」
 リーリエは少し警戒しながらマイラを見る。

 外に出てみたい気持ちはある。しかし祈らされる危険があるなら、リーリエはずっと牢獄にいる方が自由だ。
「もちろんです。神に祈るのは私の仕事ですから」
「まあ!」

 リーリエは胸に手をあて、堂々としたマイラの言葉に感動した。
(祈るのは私の仕事ですから。祈るのは、私の、仕事、ですから)
 頭の中で何度も反芻する。なんて素晴らしい言葉、石碑に刻んでおきたいような言葉だった。

「おまえの祈りなど神に通じるものか」
 王子にとってリーリエは、役に立たない、無用のものだ。
 自分に選ばれた真の聖女たるマイラを虐げ、聖女の地位にしがみついておきながら、正気を失ってのんきに暮らしているなど、許しがたい。辺境の荒れ地に厄介払いできることが嬉しくてならない。

「辺境の地の惨状を見て、少しは自らの行いを悔やむがいい」
 しかしリーリエにとっては、祈れと言わない良い人である。

「少し遠いですから、馬車になります。リーリエ様、馬車は好きですか?」
「好きです!」
 リーリエは即答した。

「がたがた揺れて、楽しいです!」
 教会で祈るばかりの日々の中、外に出られた記憶はどれも楽しいものだ。馬車の中でさえリーリエは祈っていたが、ふと目を開ければいつも、知らない景色が見えるのだ。

「それに、馬の体が、引き締まっていて、とても力強くて……」
 人よりも力のある生き物を見ると、驚くと同時に安心した。この世界には人間ばかりいるわけではない。
「今回は遠出ですから、リーリエ様が知るよりずっと力強い馬ですよ」
「本当ですか!?」

 楽しみだ。
 わくわくする体を押さえ、しかし不安にもなった。

「そんなに遠いのですか?」
 リーリエは教会から遠く離れたことがない。何があるのだろうと想像は膨らむが、恐ろしさもあるのだ。
「そうですね。南の果てですから……」
「南の果て」
 そこは自分の祈りが作り上げた土地だと、実感はなかったが聞いてはいた。地図も学んだので頭に浮かぶが、縮尺の感覚がわからない。

 とても遠いのはわかる。
「でも大丈夫ですよ、リーリエ様。たくさん人を連れていけます」
「たくさん……?」
「ええ。リーリエ様は、あまり外に出たことがないのでしょう? なので……」

「わたくしも同行しますわ!」

「おばさま!」
「ふふ。楽しみねえ!」

「な、きさ……!」

 ユーファミアが二人をその体で押しのけるようにやってきた。幅があるものだから、どうしてもそうなってしまうのだ。
 王子は罵倒しかけて口をつぐんだ。
 深く眉間に皺をつくる。
 これでもユーファミアが王妃であることを、先日、思い知らされている。元聖女であるユーファミアを、王も少なくとも排除しようとはしないのだ。

「……ユーファミア様」
「マイラ様、ご機嫌よう。さきほど陛下の許可を頂いたところですのよ。リーリエ、南の果てまで、一緒に旅をしましょう?」
「はい! 楽しみです!」

 ユーファミアが一緒であれば、リーリエの頭は楽しさでいっぱいになる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

醜貌の聖女と呼ばれ、婚約破棄されましたが、実は本物の聖女でした

きまま
恋愛
王国の夜会で、第一王子のレオンハルトから婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リリエル・アルヴァリア。 顔を銀の仮面で隠していることから『醜貌の聖女』と嘲られ、不要と切り捨てられた彼女は、そのまま王城を追われることになる。 しかし、その後に待ち受ける国の運命は滅亡へと向かっていた——

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

聖女の妹、『灰色女』の私

ルーシャオ
恋愛
オールヴァン公爵家令嬢かつ聖女アリシアを妹に持つ『私』は、魔力を持たない『灰色女(グレイッシュ)』として蔑まれていた。醜聞を避けるため仕方なく出席した妹の就任式から早々に帰宅しようとしたところ、道に座り込む老婆を見つける。その老婆は同じ『灰色女』であり、『私』の運命を変える呪文をつぶやいた。 『私』は次第にマナの流れが見えるようになり、知らなかったことをどんどんと知っていく。そして、聖女へ、オールヴァン公爵家へ、この国へ、差別する人々へ——復讐を決意した。 一方で、なぜか縁談の来なかった『私』と結婚したいという王城騎士団副団長アイメルが現れる。拒否できない結婚だと思っていたが、妙にアイメルは親身になってくれる。一体なぜ?

処理中です...