20 / 40
王の動揺
しおりを挟む
「陛下! 南の果て……いえ、南から消失が迫っております!」
「なんだと? 消失は止まったのではなかったのか」
「止まりました! ですが、果てより王都に近い位置から、裂けるように広がったと」
「……何?」
言っている意味がわからない。兵士もまた、理解できない、いや、理解したくないという顔をして地図を広げた。
「鳥による報告をまとめますと、消失はこのように発生しています」
「……」
王も、その場にいたものも、呆然と眺めた。
南の果てを残して、消失は回り込むように発生しているのだ。
「南の、果て、は……」
「この地……恐らく鳥の道が消失する直前に、特務隊の報告が届きました。南の果ては、無事ではないかと……」
特務隊とは、王妃を連れ戻すために出した隊だ。
王妃が神の光を得、消失を止めたというのだから、守るべき王都に彼女を戻さなければならない。
作戦は継続しており、頻繁に鳥を行き交わせていた。
「王妃は」
「……作戦は失敗したようです。周囲を多くの民に囲まれ、奪還は難しいと……」
「では」
「ただ消失は止まり、わずかながら復帰も見られるとのことでした。……その後、消失したと考えることもできますが、王妃殿下のいる果ての地だけが残った可能性が高いでしょう」
王妃のいる地だけが切り取られるように残り、他の地は変わらず消失の危機にある。
この王都もだ。
東の地からの消失も止まらない。
王と貴族たちはこの現実に身を震わせた。神の光を受けた王妃と分断され、王都に戻すことはもはや不可能だろう。
そこに王子が現れて叫んだ。
「父上、リーリエがマイラを連れ去りました!」
「……なん、だと」
王は悪報を持ち込んだ息子の顔を見た。謹慎を申し付けていたということさえ、頭に浮かばない。
何よりもただただ最悪だった。
聖女の名を持つものがすべて、この城から失われていたのだ。
「馬車を使ったようです。すぐに王都を厳戒態勢に! マイラの捜索に全力をつくしましょう! すぐに助け出し、あの偽聖女を極刑に……」
王は乾いた口で、状況のわかっていない王子を叱りつける元気もなかった。
「黙れ」
「はっ?」
「黙れ。部屋に戻っていろ」
「ち、父上!」
「王都の馬車をすべて調べよ!」
「す、すべて、ですか?」
兵の間に動揺が広がったが、王は何を当たり前のことをと思った。
「リーリエを取り戻さねば、この国は滅ぶ」
皆が息を呑む。しかしどこかでわかっていたのだろう、誰も否定の言葉はないようだった。
「すべてだ。すぐに取りかかれ。門から出た馬車の記録もすべて集めよ。いなくなる前に姿を見た者を取り調べよ。マイラに関わった者からもすべて話を聞け、行き先の心当たりがあるやもしれん」
「はっ」
「それから……ああ、リーリエにつけていた者からも話を聞け」
「つけていた、とは……」
「侍女か、護衛がいたであろう」
「いえ。リーリエ、様、は、一般の罪人として牢におりました。誰もつけてはおりません……」
「……そうか」
王は顔をしかめた。
誰もが黙り、絶望的な静寂が襲った。王子だけが騒ぎ、王の視線を受けた衛兵が強引に部屋に連れて行く。
「では……牢番に話し相手になっていたものはいないか? いれば……、いや、牢番全員に話を聞け。リーリエの行き先に思い当たるところがないか」
「……はっ」
数人がすぐに謁見の間を出ていった。
「あとは教会か……司教代理を呼べ。聖女付きだったものがいるだろう」
リーリエを必ず見つけ出さねばならない。
「恐れながら陛下、そのような扱いをされていたのなら、もはや遠くに逃げているのでは……」
「そうであればどうしようもなかろうな」
「……」
「だが、マイラと共にいると……ああ、証言者をまず呼んでくれ。馬車で出ていったのを見たものがいるのだろう」
「父上! 父上……!」
息子の叫び声が遠ざかっていく。もはや構う余裕もないこの時になって、どうにも耳に残った。
「なんだと? 消失は止まったのではなかったのか」
「止まりました! ですが、果てより王都に近い位置から、裂けるように広がったと」
「……何?」
言っている意味がわからない。兵士もまた、理解できない、いや、理解したくないという顔をして地図を広げた。
「鳥による報告をまとめますと、消失はこのように発生しています」
「……」
王も、その場にいたものも、呆然と眺めた。
南の果てを残して、消失は回り込むように発生しているのだ。
「南の、果て、は……」
「この地……恐らく鳥の道が消失する直前に、特務隊の報告が届きました。南の果ては、無事ではないかと……」
特務隊とは、王妃を連れ戻すために出した隊だ。
王妃が神の光を得、消失を止めたというのだから、守るべき王都に彼女を戻さなければならない。
作戦は継続しており、頻繁に鳥を行き交わせていた。
「王妃は」
「……作戦は失敗したようです。周囲を多くの民に囲まれ、奪還は難しいと……」
「では」
「ただ消失は止まり、わずかながら復帰も見られるとのことでした。……その後、消失したと考えることもできますが、王妃殿下のいる果ての地だけが残った可能性が高いでしょう」
王妃のいる地だけが切り取られるように残り、他の地は変わらず消失の危機にある。
この王都もだ。
東の地からの消失も止まらない。
王と貴族たちはこの現実に身を震わせた。神の光を受けた王妃と分断され、王都に戻すことはもはや不可能だろう。
そこに王子が現れて叫んだ。
「父上、リーリエがマイラを連れ去りました!」
「……なん、だと」
王は悪報を持ち込んだ息子の顔を見た。謹慎を申し付けていたということさえ、頭に浮かばない。
何よりもただただ最悪だった。
聖女の名を持つものがすべて、この城から失われていたのだ。
「馬車を使ったようです。すぐに王都を厳戒態勢に! マイラの捜索に全力をつくしましょう! すぐに助け出し、あの偽聖女を極刑に……」
王は乾いた口で、状況のわかっていない王子を叱りつける元気もなかった。
「黙れ」
「はっ?」
「黙れ。部屋に戻っていろ」
「ち、父上!」
「王都の馬車をすべて調べよ!」
「す、すべて、ですか?」
兵の間に動揺が広がったが、王は何を当たり前のことをと思った。
「リーリエを取り戻さねば、この国は滅ぶ」
皆が息を呑む。しかしどこかでわかっていたのだろう、誰も否定の言葉はないようだった。
「すべてだ。すぐに取りかかれ。門から出た馬車の記録もすべて集めよ。いなくなる前に姿を見た者を取り調べよ。マイラに関わった者からもすべて話を聞け、行き先の心当たりがあるやもしれん」
「はっ」
「それから……ああ、リーリエにつけていた者からも話を聞け」
「つけていた、とは……」
「侍女か、護衛がいたであろう」
「いえ。リーリエ、様、は、一般の罪人として牢におりました。誰もつけてはおりません……」
「……そうか」
王は顔をしかめた。
誰もが黙り、絶望的な静寂が襲った。王子だけが騒ぎ、王の視線を受けた衛兵が強引に部屋に連れて行く。
「では……牢番に話し相手になっていたものはいないか? いれば……、いや、牢番全員に話を聞け。リーリエの行き先に思い当たるところがないか」
「……はっ」
数人がすぐに謁見の間を出ていった。
「あとは教会か……司教代理を呼べ。聖女付きだったものがいるだろう」
リーリエを必ず見つけ出さねばならない。
「恐れながら陛下、そのような扱いをされていたのなら、もはや遠くに逃げているのでは……」
「そうであればどうしようもなかろうな」
「……」
「だが、マイラと共にいると……ああ、証言者をまず呼んでくれ。馬車で出ていったのを見たものがいるのだろう」
「父上! 父上……!」
息子の叫び声が遠ざかっていく。もはや構う余裕もないこの時になって、どうにも耳に残った。
744
あなたにおすすめの小説
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
醜貌の聖女と呼ばれ、婚約破棄されましたが、実は本物の聖女でした
きまま
恋愛
王国の夜会で、第一王子のレオンハルトから婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リリエル・アルヴァリア。
顔を銀の仮面で隠していることから『醜貌の聖女』と嘲られ、不要と切り捨てられた彼女は、そのまま王城を追われることになる。
しかし、その後に待ち受ける国の運命は滅亡へと向かっていた——
護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜
ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。
護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。
がんばれ。
…テンプレ聖女モノです。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ
タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。
灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。
だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。
ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。
婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。
嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。
その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。
翌朝、追放の命が下る。
砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。
――“真実を映す者、偽りを滅ぼす”
彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。
地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。
聖女の妹、『灰色女』の私
ルーシャオ
恋愛
オールヴァン公爵家令嬢かつ聖女アリシアを妹に持つ『私』は、魔力を持たない『灰色女(グレイッシュ)』として蔑まれていた。醜聞を避けるため仕方なく出席した妹の就任式から早々に帰宅しようとしたところ、道に座り込む老婆を見つける。その老婆は同じ『灰色女』であり、『私』の運命を変える呪文をつぶやいた。
『私』は次第にマナの流れが見えるようになり、知らなかったことをどんどんと知っていく。そして、聖女へ、オールヴァン公爵家へ、この国へ、差別する人々へ——復讐を決意した。
一方で、なぜか縁談の来なかった『私』と結婚したいという王城騎士団副団長アイメルが現れる。拒否できない結婚だと思っていたが、妙にアイメルは親身になってくれる。一体なぜ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる