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大嫌いな男
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「逃げなくてもいいじゃん。一人でこんなとこで飲んでるなんて、どうせナンパ待ちなんだろ?」
「違うから。どっか行って」
「かわいい顔して気が強いんだな」
男はニヤニヤしながら愛美の腕を掴んだ。
「離して!!」
「俺、気の強い女は好き。大人しくさせたくなる」
「私はおまえみたいな男は嫌いだ、離せ!!」
愛美が必死で男の手を振り払おうとしていると、後ろから背の高い誰かが手を伸ばし、その手を愛美の腕からほどいてひねり上げた。
「痛い!!痛い!!やめてくれ!!」
男は大袈裟なくらい痛そうに悲鳴を上げる。
その人はもう一度ギリッと強く男の手をひねり上げて、低い声で静かに言い放つ。
「二度とこいつに手を出すな」
その大きな手から解放された男は一目散に逃げて行く。
背後から聞こえた聞き覚えのある声に、愛美は耳を疑った。
(え……?この声、まさか……)
おそるおそる振り返り、背の高いその人をゆっくり見上げると、そこには仏頂面の緒川支部長が立っていた。
「菅谷……こんな時間までこんな所で何やってんだ」
「ちょっと……」
(ひー!こんな時に会うなんて最悪!!)
「送ってく。家どこだ?」
「大丈夫です!!さよなら!!」
(車で二人きりとか絶対無理!)
愛美がお礼を言うのも忘れて慌ててその場から立ち去ろうとすると、今度は緒川支部長がその腕を掴んだ。
(ぎゃあぁ、やーめーてー!!)
「ホントに一人で帰れますから!」
「いいから乗れ。もう遅いし、さっきみたいなやつに絡まれたら危ないだろう」
「離してください!!」
愛美は大嫌いな緒川支部長の手を思いっきり振り払い、逃げるようにして駅に向かって走り出した。
「あっ……オイ、菅谷!!」
振り返りもせず必死で走って行く愛美の後ろ姿を見つめて、緒川支部長は大きなため息をついた。
「そんなに必死で逃げるほど俺が嫌いか……」
どこか寂しげな小さな呟きは、愛美の耳に届く事はなかった。
翌朝、愛美が珍しく早く出社してみると、まだ誰も出社していなかった。
この支部の営業職員のほとんどが主婦であることから朝が忙しいのか、朝礼の始まる時間ギリギリに出社する。
愛美は席に着くと早速、昨日の帰り際に支部長から頼まれた資料のデータ入力を始めた。
キーボードを叩きながら、ゆうべの事を思い出すと気が重くて、無意識に大きなため息をついた。
まさかあんな所で偶然顔を合わせるとは思わなかった。
マスターの店に通い初めて1年半ほどになるが、店の近くで緒川支部長と会ったのは初めてだった。
(支部長はどうしてあんなとこにいたんだろう?偶然車で通りかかるとか、もしかして支部長んちの近所なのかな?しかも変な男に絡まれてるとこ助けられて車に乗せられそうになるし……。あ、よく考えたらお礼言ってないな……。一応、大人なんだし、助けてもらったんだからお礼くらいは言うべきか……)
「お、早いな」
突然声を掛けられ、考え事をしていた愛美は驚いて、ビクッと肩を震わせた。
席のすぐそばには、緒川支部長が立っている。
「お……おはようございます……」
(朝っぱらからビックリさせんなよ!!)
「昨日の帰り、大丈夫だったか」
「おかげさまで」
「そうか。これからは気を付けろよ」
愛美は椅子から立ち上がり、緒川支部長に軽く頭を下げた。
「はい。あの……助けていただいてありがとうございました……」
(この男に頭を下げるなんて、なんか屈辱的……)
緒川支部長は、棒読みの台詞のように感情のこもっていない声でお礼を言う愛美を見て、フッと冷たく笑う。
「ありがとうなんて、これっぽっちも思ってないくせに」
愛美はムカッときて思わず眉間にシワを寄せた。
(ムカつく!せっかくお礼言って頭まで下げたのに、なんだそれ!)
愛美は眉間にシワを寄せたままパソコンの前に座り直して、またキーボードを叩き始めた。
緒川支部長は支部長席に鞄を置くと、支部のオフィスの隅にある自販機で缶コーヒーを2本買って、1本を愛美のデスクに置いた。
「俺のおごり。早くから出社して頑張ってるから、ご褒美」
「どうも……ありがとうございます……」
(ご褒美ってなんだ?子どもじゃあるまいし)
「割とあからさまだよな」
「え?何がです?」
(まだ何か用?早く向こう行けっての)
「高瀬と俺に対する態度が全然違う。俺の事、嫌いだろ?」
「……そんな事ないですよ」
(なーんだ、バレてたのか。ええ、大嫌いですよー)
愛美は缶コーヒーのタブを開けようと、パソコンの画面から視線を外した。
(ん……?なんだ?)
視線を感じてそちらを見ると、緒川支部長がじっと見つめていた。
「あの……何か?」
(じっと見んな!)
「いや……。やっぱり俺には笑ったりしないんだな」
「……仰る意味がよくわかりません」
(当たり前だろ?何言ってんの、こいつ?)
「そのまんまだけど?」
「なんですかそれ……」
(ああもう、早くあっち行け!!)
「高瀬だけじゃなくて、俺にも笑って欲しいと思っただけ」
緒川支部長はそう言って愛美のそばを離れた。
(なんだそれ……。なんで私がおまえのために笑わないといけないんだよ)
「違うから。どっか行って」
「かわいい顔して気が強いんだな」
男はニヤニヤしながら愛美の腕を掴んだ。
「離して!!」
「俺、気の強い女は好き。大人しくさせたくなる」
「私はおまえみたいな男は嫌いだ、離せ!!」
愛美が必死で男の手を振り払おうとしていると、後ろから背の高い誰かが手を伸ばし、その手を愛美の腕からほどいてひねり上げた。
「痛い!!痛い!!やめてくれ!!」
男は大袈裟なくらい痛そうに悲鳴を上げる。
その人はもう一度ギリッと強く男の手をひねり上げて、低い声で静かに言い放つ。
「二度とこいつに手を出すな」
その大きな手から解放された男は一目散に逃げて行く。
背後から聞こえた聞き覚えのある声に、愛美は耳を疑った。
(え……?この声、まさか……)
おそるおそる振り返り、背の高いその人をゆっくり見上げると、そこには仏頂面の緒川支部長が立っていた。
「菅谷……こんな時間までこんな所で何やってんだ」
「ちょっと……」
(ひー!こんな時に会うなんて最悪!!)
「送ってく。家どこだ?」
「大丈夫です!!さよなら!!」
(車で二人きりとか絶対無理!)
愛美がお礼を言うのも忘れて慌ててその場から立ち去ろうとすると、今度は緒川支部長がその腕を掴んだ。
(ぎゃあぁ、やーめーてー!!)
「ホントに一人で帰れますから!」
「いいから乗れ。もう遅いし、さっきみたいなやつに絡まれたら危ないだろう」
「離してください!!」
愛美は大嫌いな緒川支部長の手を思いっきり振り払い、逃げるようにして駅に向かって走り出した。
「あっ……オイ、菅谷!!」
振り返りもせず必死で走って行く愛美の後ろ姿を見つめて、緒川支部長は大きなため息をついた。
「そんなに必死で逃げるほど俺が嫌いか……」
どこか寂しげな小さな呟きは、愛美の耳に届く事はなかった。
翌朝、愛美が珍しく早く出社してみると、まだ誰も出社していなかった。
この支部の営業職員のほとんどが主婦であることから朝が忙しいのか、朝礼の始まる時間ギリギリに出社する。
愛美は席に着くと早速、昨日の帰り際に支部長から頼まれた資料のデータ入力を始めた。
キーボードを叩きながら、ゆうべの事を思い出すと気が重くて、無意識に大きなため息をついた。
まさかあんな所で偶然顔を合わせるとは思わなかった。
マスターの店に通い初めて1年半ほどになるが、店の近くで緒川支部長と会ったのは初めてだった。
(支部長はどうしてあんなとこにいたんだろう?偶然車で通りかかるとか、もしかして支部長んちの近所なのかな?しかも変な男に絡まれてるとこ助けられて車に乗せられそうになるし……。あ、よく考えたらお礼言ってないな……。一応、大人なんだし、助けてもらったんだからお礼くらいは言うべきか……)
「お、早いな」
突然声を掛けられ、考え事をしていた愛美は驚いて、ビクッと肩を震わせた。
席のすぐそばには、緒川支部長が立っている。
「お……おはようございます……」
(朝っぱらからビックリさせんなよ!!)
「昨日の帰り、大丈夫だったか」
「おかげさまで」
「そうか。これからは気を付けろよ」
愛美は椅子から立ち上がり、緒川支部長に軽く頭を下げた。
「はい。あの……助けていただいてありがとうございました……」
(この男に頭を下げるなんて、なんか屈辱的……)
緒川支部長は、棒読みの台詞のように感情のこもっていない声でお礼を言う愛美を見て、フッと冷たく笑う。
「ありがとうなんて、これっぽっちも思ってないくせに」
愛美はムカッときて思わず眉間にシワを寄せた。
(ムカつく!せっかくお礼言って頭まで下げたのに、なんだそれ!)
愛美は眉間にシワを寄せたままパソコンの前に座り直して、またキーボードを叩き始めた。
緒川支部長は支部長席に鞄を置くと、支部のオフィスの隅にある自販機で缶コーヒーを2本買って、1本を愛美のデスクに置いた。
「俺のおごり。早くから出社して頑張ってるから、ご褒美」
「どうも……ありがとうございます……」
(ご褒美ってなんだ?子どもじゃあるまいし)
「割とあからさまだよな」
「え?何がです?」
(まだ何か用?早く向こう行けっての)
「高瀬と俺に対する態度が全然違う。俺の事、嫌いだろ?」
「……そんな事ないですよ」
(なーんだ、バレてたのか。ええ、大嫌いですよー)
愛美は缶コーヒーのタブを開けようと、パソコンの画面から視線を外した。
(ん……?なんだ?)
視線を感じてそちらを見ると、緒川支部長がじっと見つめていた。
「あの……何か?」
(じっと見んな!)
「いや……。やっぱり俺には笑ったりしないんだな」
「……仰る意味がよくわかりません」
(当たり前だろ?何言ってんの、こいつ?)
「そのまんまだけど?」
「なんですかそれ……」
(ああもう、早くあっち行け!!)
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