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「悠、お前今日、家へ来るなよ」
「え?」
時が少し過ぎて十一月。
大いに盛り上がった体育文化祭は、悠たちのクラスが総合優勝を勝ち取った。
悠が原案の応援幕は、去年と同じ最強タッグが参加したのもあり、とても好評で、生徒会から特別賞をもらった。
そんな祭りの余韻もすっかり消えて、三年生は受験モードに切り替わっている。
実際推薦等の受験はもう始まっており、ぽつぽつと欠席者が出ている。
今日は金曜日なので、清盛の母からご飯の支度を頼まれていた。
いつも通り一度自宅に帰ってから、清盛の家に行こうと思っていたら、帰る間際に止められてしまったのだ。
「おばさんから今日は無しって連絡あったっけ?」
「そうじゃねぇ。だけど、今日明日家には来るなよ、分かったな」
いつもの清盛とは違う雰囲気に、悠は不思議に思う。
何だかそわそわしているが、機嫌の良し悪しが読み取れない。
それに、理由も言わずに来るなと言われたのは、初めてだ。
清盛はそれだけ言って、さっさと一人で行ってしまう。
残された悠は、近付いてきた藤本に声を掛ける。
「何なんだ? あれ」
「あー……口止めされてっけど、俺は春名の味方したいから言うぞ。お客さんが来るんだとさ」
「……お客さん? だったらなおさら……あいつカップの位置も分かってないから、俺がお茶出さないと」
言葉の途中で藤本は手をひらひらと振った。違う、とため息をつくと、ホント鈍いなぁ、と呟かれてしまう。
「井上、今日お泊りらしいぞ」
「…………え?」
衝撃の一言に、頭が追いつかなかった。
親がいない間に異性が泊まるなんて、何があってもおかしくはない。
いやむしろ、何かを致すためにそうしたのかもしれない。
とたんに胃がおかしな動きをした。
慌てて口元を押さえると、藤本も心配そうに顔を覗く。
「ああくそ、清盛の奴……大丈夫か? 何もないかもしれないから、黙っててくれって言ってたんだよ。むしろ怖いのは井上の方で……」
「もういい」
普段の接し方を見ていれば、彼女の方は事を起こす気満々だろう。
それに清盛が流されないとも限らない。
悠は鞄を持つと、足早に教室を出た。
大体、親がいないときにわざわざ泊まろう、なんて言い出す神経が分からない。
自分たちは未成年で、責任は親にある。
何かあったときには自分たちだけではなく、お互いの親を困らせることになりかねないのだ。
「春名、待てって!」
一九〇センチ近くある長身の藤本が、走って追いついてくる。
それでも悠は速度を緩めなかった。
「おばさんに言った方がいいんじゃないか? 面倒見るの、任されてんだろ?」
「できないよ」
悠は唇を噛んだ。
今日のことを清盛がもし望んでいるのなら、邪魔はしたくない。
ここにきて自分が一番、清盛に甘いのだと思い知った。
だからと言って自ら邪魔をしに行くのは嫌だった。
もしそういう場面に出くわしたらと思うと、怖い。
「……できないんだ」
「春名……」
藤本は困った顔をしていた。
そんな顔をさせているのは自分なのに、今はどこか遠いところにいるような気がする。
涼しくなった風が、悠の髪を撫でた。心の中の穴を通り抜けた風は、これから来る冬を予感していた。
「え?」
時が少し過ぎて十一月。
大いに盛り上がった体育文化祭は、悠たちのクラスが総合優勝を勝ち取った。
悠が原案の応援幕は、去年と同じ最強タッグが参加したのもあり、とても好評で、生徒会から特別賞をもらった。
そんな祭りの余韻もすっかり消えて、三年生は受験モードに切り替わっている。
実際推薦等の受験はもう始まっており、ぽつぽつと欠席者が出ている。
今日は金曜日なので、清盛の母からご飯の支度を頼まれていた。
いつも通り一度自宅に帰ってから、清盛の家に行こうと思っていたら、帰る間際に止められてしまったのだ。
「おばさんから今日は無しって連絡あったっけ?」
「そうじゃねぇ。だけど、今日明日家には来るなよ、分かったな」
いつもの清盛とは違う雰囲気に、悠は不思議に思う。
何だかそわそわしているが、機嫌の良し悪しが読み取れない。
それに、理由も言わずに来るなと言われたのは、初めてだ。
清盛はそれだけ言って、さっさと一人で行ってしまう。
残された悠は、近付いてきた藤本に声を掛ける。
「何なんだ? あれ」
「あー……口止めされてっけど、俺は春名の味方したいから言うぞ。お客さんが来るんだとさ」
「……お客さん? だったらなおさら……あいつカップの位置も分かってないから、俺がお茶出さないと」
言葉の途中で藤本は手をひらひらと振った。違う、とため息をつくと、ホント鈍いなぁ、と呟かれてしまう。
「井上、今日お泊りらしいぞ」
「…………え?」
衝撃の一言に、頭が追いつかなかった。
親がいない間に異性が泊まるなんて、何があってもおかしくはない。
いやむしろ、何かを致すためにそうしたのかもしれない。
とたんに胃がおかしな動きをした。
慌てて口元を押さえると、藤本も心配そうに顔を覗く。
「ああくそ、清盛の奴……大丈夫か? 何もないかもしれないから、黙っててくれって言ってたんだよ。むしろ怖いのは井上の方で……」
「もういい」
普段の接し方を見ていれば、彼女の方は事を起こす気満々だろう。
それに清盛が流されないとも限らない。
悠は鞄を持つと、足早に教室を出た。
大体、親がいないときにわざわざ泊まろう、なんて言い出す神経が分からない。
自分たちは未成年で、責任は親にある。
何かあったときには自分たちだけではなく、お互いの親を困らせることになりかねないのだ。
「春名、待てって!」
一九〇センチ近くある長身の藤本が、走って追いついてくる。
それでも悠は速度を緩めなかった。
「おばさんに言った方がいいんじゃないか? 面倒見るの、任されてんだろ?」
「できないよ」
悠は唇を噛んだ。
今日のことを清盛がもし望んでいるのなら、邪魔はしたくない。
ここにきて自分が一番、清盛に甘いのだと思い知った。
だからと言って自ら邪魔をしに行くのは嫌だった。
もしそういう場面に出くわしたらと思うと、怖い。
「……できないんだ」
「春名……」
藤本は困った顔をしていた。
そんな顔をさせているのは自分なのに、今はどこか遠いところにいるような気がする。
涼しくなった風が、悠の髪を撫でた。心の中の穴を通り抜けた風は、これから来る冬を予感していた。
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