悪役令嬢の妹(=モブのはず)なのでメインキャラクターとは関わりたくありません! 〜快適な読書時間を満喫するため、モブに徹しようと思います〜

詩月結蒼

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第一部

58.間違いない

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「おい起きろ」
「んん……るあ……?」
「全属性の少女のところに行くんだろ?」
―――そうだった……。

 私はのそのそと起き上がる。
 ルアがクローゼットから服を取り出し、「着替えろ」と言って私に投げた。
 私は魔法で服を着替える。
 そしてユリを呼んだ。

「ユリ、出てきて」
「はい。ユリアーナ様」
「おはよ。よろしくね」
「かしこまりました」

 身代わりはいつものユリちゃんで。
 お母様には事前に言っといた。
 すると予想通り「あらあら。早く帰ってきなさいね~。ルアくんと一緒に行かなきゃダメよ」と言われた。
 お母様は放任主義なのであまり口うるさく言わない。
 お父様はお仕事で昨日から出ているのでルアの稽古もなし。
 ちょうどいい日だ。

「ルアも複製体作らないとダメだよ」
「そうだな。……【複製コピー】」

 ルアそっくりの複製体が現れる。

「名前どうする?」
「どうでもいいだろ」
「やだ。ユリ、なんかいいのない?」
「ルゥはいかがでしょうか」
「ルゥ……なんかかわいい」
「かわいいってなんだ、かわいいって」
「じゃあルゥで」
「勝手に決めんな!」
「どうでもいいって言ったルアが悪い」
「ぐっ……」

 よーし、黙った。
 ルゥで決定だ。

「よろしくね。ユリ、ルゥ」
「お任せください」
「御意」
「じゃ、行くわよルア」
「……はぁ、わかったよ」

 窓を開け、飛び降りる。
 地面に落ちるギリギリで【飛翔】を発動させる。

―――うん、いいね。【透明】【隠蔽】【疾風】【同化】……。

 次々と魔法を展開させる。
 するとルアが後ろからやって来て言った。

「馬鹿かおまえは!?」
「え、なにが?」
「なにって、あと少し発動が遅ければあんた死んだぞ!? なんであんな危険なことしたんだよ!」

 【飛翔】をギリギリで発動させたこと?

「魔法を展開するまでの反射を鍛えるには一番いいんだよ。死の危険を感じると極限まで集中力が上がるから自然と精度も上が……」
「次から禁止! 即やめろ。や、め、ろ!」
「えー……ルア、過保護」
「過保護で悪かったなバカ主人」

 すると、ルアの結界内に引っ張られた。

―――わ、すご……。

 入って一瞬で理解した。
 緻密な防護結界だ。
 様々な魔法をいくつも付与してある。
 魔力消費が激しそうだ。

「どうしたのルア。私の魔力の心配なんかしなくていいわよ?」
「あんたは魔力を無駄遣いする。その度に俺は頭が痛くなるんだよ。だったら、あんたに魔力を使わせなければいいだけだ。あんたの分まで俺が支える」
「でも、この結界の維持に必要な魔力はかなり多いでしょ」
「……」

 沈黙は肯定を意味する。
 無理して背伸びしなくてもいいのに。
 まあね、気持ちはわかるよ。
 主人を守るはずの護衛が守られてるってのはあんまり居心地良くないもんね。

「半分こしましょ。必要な魔力をあげるわ」
「半分こって……」
「いや?」
「……はあ。わかった」

 ルアは私と結界の維持に使う魔力を分けた。

―――ルアはすごいな。

 単純な魔力量だったら私の方が上だが、魔法戦をした場合、私は負けてしまうだろう。
 戦いの知識と経験が少ないのもそうだが、ルアは短時間で高精度な魔法を展開させるのがうまい。
 戦闘時に重要なのは短い時間で高度な魔法をいくつも発動させることだ。
 私はルアほど綺麗に構成された魔法を知らない。
 上回るとしたら、エヴァくらいだろう。

「ルア。北北西に20キロ」
「わかった」
―――じゃ、早めに行くとしますか。
「【速度向上】」
「!? だから魔力の無駄遣いをするなって言ってんだろ!」
「早く行って早く戻らないとお母様に怒られるかもしれないじゃない」
「だからって……ああもうっ、やるなら俺にも負担させろ!」
―――半分ヤケクソだね。

 数分すると、目的地に着いた。
 北の地なので寒いかと思ったが、今は夏なのでそこまで寒くなかった。
 むしろ涼しくて気持ちいい。

「おい」
「ん? ……わっ」

 ルアが私の服を変えた。
 ラフな格好だ。
 冒険者みたいなズボンスタイルで、とても動きやすい。
 ルアも違う服に着替えてある。

「さっきの服じゃお貴族様ってバレバレだったからな」
「たしかに……ありがと、ルア」

 少し歩くと、村が見えた。
 綺麗な村だ。
 色とりどりの花が咲いている。
 その中心に、誰かいる。

―――もしかして……。

 レティシア様からは事前に全属性の少女の詳細な情報をもらっている。

『髪は淡い桃色のツインテール、瞳は深い青色だそうです』
―――間違いない。

 私は花畑の中心にいる少女が全属性の子であると確信した。

「あれだね」
―――彼女が主人公ヒロインだ。


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