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第一部
57.よっしゃあぁっ!!
しおりを挟むブライト・コルトレッド・アンリィリル。
アンリィリル王国の第一王子で、私の大切なエリアーナの婚約者。
金髪碧眼の王道系王子に見えて実は執着が強く腹黒で思考が読めない「クソ王子」と呼んでいる王子である。
「……なにか、情報があるのですか?」
―――悪いことを企んでるなら阻止しないとね。私のエリアーナの恋心を利用して婚約者になったクソ王子は。
堂々の一位に輝く悪役と見ている。
「ユリアーナ様への嫌がらせとしてエリアーナ様と婚約されたブライト様ですが、どうやらユリアーナ様への興味が薄まったようです」
「! それって、もしかして……」
「はい。全属性の少女に移ったかと」
―――よっしゃああぁっ!!
筆頭魔術師、筆頭魔術師ってうるさかったクソ王子からようやく解放される!
さいっこうだ!
ここが自室だったらユリとハイタッチしているところである。
「ユリアーナ様にとって喜ばしい出来事であると思いますが……残念なことに、まだ両手をあげて祝杯をあげることができません」
「えっ! どうしてですか?」
こんなにも素晴らしい出来事なのに、何故だろう。
「ユリアーナ様、よく思い出してください。ブライト様がエリアーナ様と婚約したのはユリアーナ様への嫌がらせのためです」
―――そうだね。それがどうかして……ん、待てよ。何か見逃しているような気がする。
前提として、クソ王子の目的のためにエリアーナが必要だった。
でも今は全属性の少女が現れたから自然と私の興味も薄れて、それに伴いエリアーナもいらなくな……あっ!!
「エリアーナとの婚約がなくなる!?」
「一つの可能性にすぎませんけれど、十分あり得ます」
―――嘘だろマジか……。やっぱクソだわクソ王子。
全属性の少女を王族に取り込むために第一王子か第二王子に嫁がせるんじゃないか疑惑が出ていた。
クソ王子はエリアーナと、ノーブル様はレティシア様と婚約している。
ノーブル様はレティシア様の体裁も考えて婚約破棄はしないだろうが、ブライト様はそんなノーブル様に変わって「仕方なく」という形で好きでもないエリアーナを切り捨てることができる。
「最悪じゃないですか!」
「だから素直に喜べないのです」
「あああああ……」
「ユリアーナ様にとってはどちらも嫌な状況に変わりはありません。今日はそのことを直接伝えるためにお茶会を開いたようなものです。頑張ってください」
優雅にお茶飲むなあ……さすが紫系の良いとこ育ちの主要人物《メインキャラクター》。
―――ルアー、今ちょっといいー?
「〈ここの奴らを皆殺しに?〉」
―――物騒なこと言わない。みんないい人だから絶対ダメだよ。いいね?
「〈冗談だ〉」
物騒な冗談だな、おい。
しかもその冗談はルアなら実現しかねないので怖い。
私はちゃんと釘を刺した後、用件を話した。
―――遠隔でクソ王子の監視できる?
「〈クソ王子って……どっちのことだ〉」
アンリィリル王国には二人の王子と一人の王女がいる。
王女様の方には会ったことがない。
名前は確か……いや、今思い出すことじゃないね。
また脱線しちゃうよ。
―――第一王子の方。第二王子のノーブル様はクソ王子と本当に双子なのかと思うくらいめっちゃいい人だよ。
「〈……あんた、第一王子に何されたんだよ〉」
―――本を取られてエリアーナと婚約されて嫌がらせされてる。
「〈殺すか?〉」
え、いいの!? と心の中で若干乗り気だったのは秘密だ。
反逆罪で殺されかねない。
―――だめ。ルアが悪者になるのは嫌。
「〈そうか〉」
―――うん。
「〈わかった。とりあえずクソ王子は俺がなんとかしておく〉」
この時から私たちの中では第一王子が「クソ王子」として定着した。
―――ありがと、ルア。
「〈俺はあんたの従者だからな〉」
それは未来の私を守るためだから、ということだろうか。
ルアが有能で助かるな~と思いつつ、私は意識を現実に戻した。
「情報提供感謝します、レティシア様」
「いいえ。ノーブル様との接触を避けていただけるのであれば、わたくしにはこれ以上に望むものなどありませんから」
―――本当にノーブル様ラブだね、レティシア様は。
大人びて見えて、内では燃えたぎる熱い思いを隠しているミステリアスな人物、それがレティシア様の紫系の主要人物だ。
―――どうかそのままでいてほしい。
レティシア様とはこれからも良い関係を築きたい。
私は仲間が少ない。
だから互いの利害で協力しあうしかないのだ。
―――さあ、頑張りますか。
全属性の少女を調べること。
クソ王子の監視をすること。
それ以外にもエヴァとの契約が残ってる。
私が平穏に生きるためにも、快適な読書生活を送るためにも、今のうちに苦労しないとね。
私はレティシア様と細かい情報を交換してお茶会を終えた。
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