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第一部
56.あ、美形ね
しおりを挟むレティシア様とは定期的にお茶会をしている。
対面での情報交換をするのもあるが、単純に私が貴族デビューに取り残されないようにしてもらうためだ。
「お久しぶりですね、ユリアーナ様」
「……お久しぶりです、レティシア様」
「どうぞこちらへ」
王族が取り込もうとする全属性の少女。
仮定、主人公。
第一王子か第二王子と婚約させるだろうとの予想が出ている今再注目の人物。
―――「なにか知っていることがあれば教えていただきたいです」と言われたものの、何もわからないし何も調べられてないよ……。
この世界に乙女ゲーム系の世界説が出たのは全属性の少女の存在が発覚したからだ。
もしそうだとしたら、彼女は私と同じ転生者の可能性が高い。
レティシア様との契約は、毎月私が新しい本を三冊以上とブライト様から逃げるための情報をもらうのを条件に、今後私からノーブル様に接触するのは禁止、というものだ。
―――王宮図書館も最近行けてないな……男装しなきゃいけないのは面倒だけど、それをするほどの価値がある場所だもんなぁ。
紙の匂いにずらっと並んだ本。
なにより王宮図書館っていう響きが最高だよね。
はぁ、思い出すだけでうっとりする……。
「おい、大丈夫なのか?」
「っ、大丈夫だよルア」
「現実逃避するなよ」
「うっ……頑張る」
―――現在進行形でしていたとは言えないな。
ルアにはレティシア様との関係は同じ公爵家としての付き合いだと伝えている。
さすがに利害一致による協力者だなんて言えないからだ。
席に着くとレティシア様は人払いをした。
当然、ルアも部屋を出ることになる。
「何かあったらすぐ言えよ」
「ありがと、ルア」
ルアがいてくれると思うと少し心強い。
主要人物《メインキャラクター》だからかな?
「ではお話をしましょうか、ユリアーナ様。いつもの【結界】をお願いします」
「わかりました」
―――【防音】【結界】
これで誰かに聞かれる心配はない。
安心して話し合える。
レティシア様は紅茶を一口飲むと、話を切り出した。
「何か情報はつかみましたか?」
―――うぐっ。
「え、っと……居場所は調べ終えたので近いうちに探りに行く予定です」
「よろしくお願いします。できれば彼女の弱点などがわかると嬉しいです」
「な、何に使うご予定で……?」
「そこは内緒です」
―――怖いことはしないでくださいねー?
それにしても、とレティシア様が言った。
「あの従者、噂以上の人ですね」
「ルアのことですか?」
「それ以外にいるとでも?」
―――ですよねー。
他に一緒に来てるのはサーシャだけだ。
それ以外の人は連れてきていない。
サーシャはなんでもできるので、馬車での送迎や私のメイド兼護衛でもある。
実はサーシャはお父様の教え子で、メイド服の中に暗器を入れて私の護衛もしているすごい脇役さんである。
戦うメイドさんっていいよね。
ユリにサーシャの戦闘パターンを模倣するよう言ってあるので、1ヶ月ぐらいすればユリも戦うメイドさんになるだろう。
ユリは「萌える&戦う猫×メイド……なんかかっこいいですね。頑張ります」と意気込んでいた。
「ルアの噂ってどんなものですか?」
―――怖いとか強いとか、そういうのかな?
だが私はルアが主要人物であることをすっかり忘れていた。
主要人物の大きな特徴、それは―――
「魔力にも武術にも秀でた美形の少年がリンドール公爵家の次女の新しい従者になった、と言われていますよ」
―――あ、美形ね。そうね。そうだったね。
美形揃いってことである。
主要人物《メインキャラクター》と関わりが(謎に)多いせいか、私は最上級ランクの美形に会ってもそこまで興奮しなくなった。
慣れってすごいね、うん。
「最近はノーブル様と会っていないようですね」
「はい。ちゃんと約束は守ってますよ」
「それはよかった。今日は引き続き全属性の少女の調査をお願いしたいのと、もうひとつありまして」
「なんでしょうか」
レティシア様はカップをソーサーに置いて言った。
「―――ブライト様について」
「!」
――――――――――――
更新日について/
予告していたとおり、今月から火曜日に加えて金曜日も更新します。次回更新日は4月4日、その次は4月8日となります。
今後ともよろしくお願いします。
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