悪役令嬢の妹(=モブのはず)なのでメインキャラクターとは関わりたくありません! 〜快適な読書時間を満喫するため、モブに徹しようと思います〜

詩月結蒼

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第一部

55.……………………人によるね

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「あとこれとこれですね。ついでにこれも。頑張ってください、ごしゅじんさま」
―――ううっ、ううっ……仕事多すぎて泣きそう……っ。

 ユリの監視のもと、書類仕事と向き合い始めて30分。
 私は終わりそうにない量に泣きかけていた。
 現実逃避がてらに、なにがあったか一度簡単に説明しよう。
 前提として、私は3日間ルアを助けるためにユリに身代わりを任せて頼んでいた。
 それにより何が起こったのか。
 最悪なことが起こった。
 仕事が溜まっているのである。

「なんでやってくれなかったのよ、ユリ」
「私はごしゅじんさまではありませんから」
―――ちゃんとした子(?)に育ってくれて嬉しいけどこれは別にしてほしかった……。

 仕事と言っているが私は8歳。
 何をするのかと言うと、勉強と魔法と、そしてお茶会や密会などのお手紙作り&返信作りである。
 今は苦手なお手紙作り&返信作り。
 まあまあ、いやかなり、正直言って結構溜まっている。
 溜めまくった私がいけないのだが、うん。

「手伝ってよユリー」
「ごしゅじんさまの前世の記憶に埋まっていた『萌える猫×メイド』とやらになって応援します。……にゃん」
―――うん。語尾の「にゃん」を入れたことには花丸をあげよう。……けど今は素直に喜べないから手伝ってほしい……。

 そうそう。
 気づいたらユリは複製体なのに自我がある珍しい複製体になっていた。
 前世の知識もあるのでこういう話ができる人がいて嬉しい。
 でも、もうちょっと方向性をね、うん、変えてほしかった気もしなくもない。

―――あ、そうだ。レティシア様にも書かないといけなかったっけ。
「ごしゅじんさま」
「んー?」
「大人な猫×メイドと幼女の猫×メイドはどちらが萌えるのですか?」
「……………………人によるね」
「そうなんですか」
―――そこまで考え始めたか。

 ユリは私の複製体なので見た目は私。
 なのでそんな姿で「大人な猫×メイドと幼女の猫×メイドはどちらが萌えるのですか?」と聞かれるとなんとも居た堪れない気持ちになる。
 私はペンを置いてユリに言った。

「……ユリ」
「はい」
「とりあえず黒髪黒目のメイド服姿になって。身長は私と同じくらい。メイド服はサーシャのを真似して。……あ、髪はボブね」
「かしこまりました」

 ユリが黒髪(ボブ)黒目のメイドになる。
 可愛い脇役モブメイドができあがる。
 ユリが私と同じ姿だと、ちょっと出来が良すぎて怖くなることがあるので、普段からはこっちの姿になってもらおう。
 それにしても、さすがユリってところだ。
 ちゃんと注文を反映させてる。

「猫耳と尻尾は同じ黒にして」
「かしこまりました」
「セクシーなのはヴァイオレットになって満足したから、無自覚なあざとかわいい幼女の猫×メイドがいい。上目遣いで手を丸めて」
「上目遣いに猫の手……こうでしょうか?」
「そして語尾に『にゃん』をつけて決めセリフをどうぞ」
「……どうでしょうかにゃん?」
「そう! それ!!」

 ユリは私と思考を共有しているため、私の求めているものを言わなくてもわかってくれる。
 アレンジをするとしたら体のラインを強調させた露出度高めのメイド服に耳の近くでツインテールさせるべきだろうか。
 でも、ユリはAIみたいな無機質な感じだからツインテールはあんまりかな。
 小さめなヘッドドレスにボブが最適かも。

「うーん……ユリ、フリルとリボンの量多めなメイド服にチェンジ。リボンは淡いピンクね。ヘッドドレスのフリルは大ぶりだけど大きすぎるのはダメ」
「承知しました」

 ユリはポンポンと姿を変える。

「いかがでしょうか。……にゃん」

 遅れて語尾をつけるのが初々しい。
 うん、いいね、最高。

「なにやってんだ、あんたら」
「あ、ルア」

 ルアがいつの間にか部屋に入って来た。
 ユリの出来栄えを見てもらうと、「読書以外のあんたの趣味か……」と言われた。

「うーん、趣味じゃない。趣味とは違う」
「じゃあなんなんだよ」
「なんだろね。趣味とはまた違うんだよなぁ。つい熱が入っちゃって」
「あっそ」
―――理解されなかったか。

 ちょっとはわかってくれると思ったのだが、女性と男性ではまた違うのだろう。

―――もしかして、こういうのに興味あるのって、私だけ? それはそれで悲しいような……誰か仲間いないの!?

 すると、ユリがポンポンと私の頭に触れた。

「ドンマイです、ごしゅじんさま。ユリは応援します。……にゃん」
「ユリ~~!!」

 慰めてくれるのはかわいい猫×メイドのユリだけだ。
 そう言えば―――

「お父様の稽古どうだった?」
「……正直厳しいが、学べることが多くて楽しい」

 それはよかった。
 ルアはお父様に「ユリアーナの護衛のくせに弱くてどうする! みっちり鍛えるからな! 覚悟しろ!」と言われてお父様に毎日稽古をつけてもらっている。
 自分よりも強い相手と戦うことが少なかったらしいルアは、お父様の稽古が楽しいみたい。
 充実しているようで何よりだ。

「ああ……そう言えば、手紙が来てたぞ。お茶会のお誘いだとさ」
「えーまたー? 断ろっかな~」

 最近読書できてないし。

「同じ公爵家のフォーレイン家からだぞ? 断れるのか?」
―――ん? フォーレインって……。
「あああっ!!」
「っ……どうしたんだよ」
「全っ然調べられてない!」
「は?」

 返事を出すのが遅れたからなのか、それともいつもの定期的に行うお茶会なのかはわからないが、きっとレティシア様は怒ってる!

―――まずい、まずいよ……何も調べられてない。ユリが居場所を突き止めてるだけだもんな……ううっ、なんて言おう……っ。
「しかも明日だとさ。急な誘いだけど予定空いてんのか?」
「……空いてる」
「残念だったな」
「はああぁ~」

 当分読書はできそうにない。


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