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第一部
87.めっちゃ盛り上がってる~
しおりを挟むもしあの眉目秀麗で儚げなアルトゥール様が寵愛するとしたら、もう女神以外いないだろう。
同じ国宝級の美女じゃなきゃつりあわない。
「えーっと、アルトゥール様からの贈り物、贈り物……」
「ユリィ。今つけてるバレッタは?」
「あっ、そうだった」
すっかり忘れていた。
「ぜひ見せてくださいユリアーナお姉様!」
「少し、見せてもらってもいいかしら?」
「え、あ、はい」
私はバレッタを取り、机に置いた。
精密な細工によって作られたバレッタだ。
銀製で作られた小さな銀木犀が素敵で、最近の私のお気に入りである。
よくハーフアップにしているので、お風呂に入る時と寝る時以外は基本的につけており、不器用な私でも使いやすいのでありがたい。
「素敵……」
「銀木犀はリンドール家の家紋にもなっている花ですし、銀色はアルトゥール様の髪の色……。両家の関係を深めたいという意思が感じられます」
「金製じゃないところから、私はユリィのことを想って贈ったと思うの。ユリィは銀色の方が似合うからね」
「華美なものをあまり好まないユリアーナ様の性格も反映されてます」
「あっ……!」
「どうしたんですか? リズ様」
「か、勘違いかもしれないんですけど……アルトゥール様は銀髪ですよね? だから、銀製にしたのかなって……っ」
「!! 自分色に染めたいという微かな独占欲ですね!?」
「もしかしたら、ですけど、そうなります。……でも、もしそうだとしたら、これ、すごい愛の現れだと思いませんか?」
「~~すっごく愛を感じるわ」
「絶対に愛ですね、愛」
―――めっちゃ盛り上がってる~。
私のことなのに私が一番ついていけない。
もっと頑張らないとなぁ~。
―――センスいいよね、アルトゥール様は。
このバレッタは単体で贈られたものだ。
小さな箱に入っていて、何かと思って開けたらこんなに綺麗なものが出てきたので、ちょっとびっくりしたのを覚えている。
―――たしか、一緒にメッセージカードが入ってたっけ。『早く貴女に逢いたい』みたいなことが書かれてた気がする。
やはり主要人物の言うことは違う。
「愛のある婚約など、滅多にないこと……。ユリアーナお姉様が羨ましいです」
「ですが、私より素敵な人をまだ知らないから大切にしてくれているだけですよ。きっと数年後には他に好きな人ができるに決まって……」
「ユリアーナ様。それはないです。少なくとも見た目で選ぶことはないですし」
「そうですけど……」
私よりも性格のいい人はたくさんいる。
だからアルトゥール様が他の人を好きになっても何もおかしくないのだ。
だって私よりも優れた人はたくさんいるのだから。
「大丈夫だよ、ユリィ」
「エリィ姉さん……?」
「一度好きになったら、その人以外好きにならないよ。他の人を好きになるなんて無に等しいから平気平気」
―――いや、アルトゥール様が私を好きかどうかは定かじゃないし、別に他の人と婚約し直しても特に何も思わないと思うよ?
けれど、エリィが私を思って言ってくれたのは嬉しい。
「ありがと、エリィ姉さん」
「ふふ、どういたしまして」
一通り話し終えると、リズ様が話題を振った。
「では、そろそろ恒例のアレに移りましょうか」
「アレ……?」
「ユリアーナお姉様は初めてですよね。アレというのは、女性同士のお茶会では定番のもの―――ズバリ、惚気話です!」
え、のろけ……え?
「このために来ているようなものよね~」
「自分が話すのもいいですが、やはり、他の人のお話を聞くのも面白いものですしね」
「……」
私はずっと、婚約祝いは貴族として普通のことで、ちょっと場が和んだ後に重要な本題が話されると思っていたのだが……
―――これ、重要なことでもなんでもない、ただの女子会というやつでは?
このお茶会を開催する意義は、果たしてあるのだろうか。
――――――――――――
補足/
銀木犀の花言葉は、
「あなたの気を引く」
「初恋」
「高潔」
「唯一の恋」など……
恋にまつわることが多い花です。
補足2/
家紋について軽く紹介させてください。
・リンドール公爵家……長剣に銀木犀
→敵から国を守る騎士の血筋の現れ
・フォーレイン公爵家……雫とクロッカス
→五穀豊穣
・シュヴァリエ伯爵家……白薔薇とベリー
→日々の平穏など
・アンリィリル王国……赤い薔薇に緑の羽
→高貴さと平和の祈願
(※アンリィリル王国のは国旗です)
王族は国旗が家紋のようなものです。
各家紋の花はその土地によく見られるものが多く、先祖が好きだった花などもあります。
リンドール家は騎士団に所属する人が多いため剣が、フォーレイン家はアンリィリル王国の食糧を支える地のため雨の雫が家紋の一つになっています。
補足3/
最後にあったユリィの質問にお応えします。
①重要なことでもなんでもない、ただの女子会というやつでは?
→正解。
②このお茶会を開催する意義は、果たしてあるのだろうか。
→ある。
題名、キャッチコピー、タグが恋愛系なのに、これまでのお話のほとんどに恋愛系が含まれていなかったため。
(原因:著者が『恋愛は後回しでいっか~』と楽観し過ぎていたため。ルアの救出から従者の承認に辿り着くまで20話ぐらいかけてしまったから。など)
つまり私のせいですね、はい。ここまで見てくださった読者の方に本当に感謝しています。ありがとうございます。
お茶会はもう少し続きますので、お付き合いいただけると幸いです。
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