悪役令嬢の妹(=モブのはず)なのでメインキャラクターとは関わりたくありません! 〜快適な読書時間を満喫するため、モブに徹しようと思います〜

詩月結蒼

文字の大きさ
89 / 158
第一部

88.なかなかの策士だね

しおりを挟む



「では、今日はわたくしからでよろしいでしょうか?」

 惚気話の一番手はレティシア様らしい。

「いつものようにわたくしがノーブル様とお会いするため、王宮に来た時のことです。廊下でノーブル様の声が聞こえたので向かってみると、そこには男爵家の令嬢がおりました」
―――わぁ。

 レティシア様とノーブル様の婚約は、貴族であるならば全員が知っていることだ。
 もし王族との関係を目的で近づいたのであれば、かなりよろしくない事態だ。

「お話を聞いていれば、ご自身のお話や王家と領地の関係など、非常に目的のわかりやすいご説明をしていらして……。ノーブル様も困っていらっしゃる様子なのに、一向に終える気配がありませんでしたの」
―――うわぁ。

 男爵は一番下の爵位。
 王族との関わりは少ないし、客観的に見ても権力が強いわけでもない。
 しかもその男爵家、最近お金に困っているらしい。
 王族と婚約をすれば玉の輿で家も領地も安定……ということで近づいたとのこと。
 博打といえるだろう。

「それで苛立ってしまって、思わずそのお方の前に立って言ってしまったのです。『わたくしの婚約者に何かご用でも?』と」

 頑張って怒りを抑えたんだろうなぁ~と思うセリフである。

「そしたらその方、なんとおっしゃったと思います? ―――『ノーブル様との時間を邪魔しないで!』ですって。わたくし、思わず笑ってしまいましたわ」
―――こ、怖い。目が笑ってない。

 レティシア様はノーブル様ラブのお方だ。
 私が王宮図書館に行く時は、ノーブル様に見つからないよう話しかけられないよう、ブライト様対策も兼ねて男装しろと言われるほどである。
 警戒心が強いのはいいことだと思うのだが、もう少し緩和してくれないかな~と思っている。
 ……口にはできないけど。

「レティシア様、レティシア様。ご令嬢はそのお言葉で身を引いたのですか?」
「それが、なかなかに粘り強い人でして……本当に同じ貴族かと疑うほど無知で哀れなお方でした」
―――訳、『同じ貴族として恥ずかしく、哀れに感じるほど愚かな方』ってところかな。

 レティシア様が膨大な知識で押し返したのだろう……と、予想していたのだが―――

「だんだんとご令嬢の言葉が棘のある、不敬なものに変わり、あろうことか、『あなたはノーブル様にふさわしくないわっ!』と言ってきたのです。そうしたら―――」

『下がれ。彼女を侮辱するのであれば、私も黙ってはいられない』

 と、ノーブル様がレティシア様の前に立って言ったらしい。

「はわわ……ノーブルお兄様、カッコよすぎです……っ」
「大事な方を傷つける言葉は誰でも見過ごせないもの。ノーブル様にとってのレティシア様の存在の価値が察せられますね」

 さすがノーブル様、かっこいい。

「それでそれで? そのあと、ノーブル様とは?」
「ふふ。不快にさせてすまないと謝罪されました。不快にしたのは男爵令嬢ですのに、ご自身の対応の甘さのせいだと……。お礼として、今度で出かけるお約束をしたので、楽しみです」
「わぁ~! よかったですね、レティシア様」
「ええ。本当に」
―――さりげなく『ふたりきり』の部分を強調させてるところがレティシア様らしいね。

 あの令嬢の男爵家が爵位を剥奪される日は近いかもしれない。
 レティシア様を……いや、ノーブル様も含め、敵に回せば、それぐらい覚悟しなければならないということだ。
 最悪の場合、

レティシア様はノーブル様に相応しくない
→王族の婚約が不釣り合い
→未来の王族に対して不敬
→王族に対する不敬罪

 と、なりかねない。

「エリアーナ様はどうなのです? ブライト様とは進展しましたの?」
「んー……これという進展はないけど……」
―――なくていいよ、なくて。

 あんなクソ王子とのイチャイチャラブラブなんて進展しなくていい。
 正直に言えば婚約破棄してほしいぐらいだが、それだとエリィの体裁が悪い。
 私はエリィが幸せになってほしいのであって、決してバツイチ的な腫れ物扱いを受けてほしいわけじゃないのだ。

「あ! この前、王宮に来た時にリンドール家と交流のある侯爵家の人たちに声をかけられて、お話ししてたんです。そしたらブライト様が来て―――」

『私の婚約者に何か用ですか?』

 とキラキラスマイルで言ったらしい。

「……それは普通の反応なのでは?」
「ふふっ。これには続きがあるの。ブライト様が『私の婚約者に何か用ですか?』って言った時、その侯爵家の方に何をしてたと思う?」
―――あの腹黒クソ王子のことだし……あ! わかった!
「右腕でエリィ姉さんを守って、左手で侯爵令息の腕をめっちゃ強く握りしめて、あのキラキラの裏のありそうな黒い笑みで圧をかけてた!!」
「……色々と言いたいことはあるけど一応正解だよ、ユリィ」
「やったぁ!」

 仮にあのクソ王子がエリィのことを好きで、その侯爵令息のことが嫌いだった場合、外面ではよくある王子様像を保ちつつ、裏で攻撃してると思ったのだ。
 ブライト様ならそれができる。

―――誰か守るような姿勢は、その人が大事である証拠。腕を握っているのは『彼女に触れることは容認できない』と甘い言葉を吐けば多少強く握っても攻撃する意思はなかったとなる……。

 あのブライト様のことだ。
 全部計算済みで行動したことに違いない。

―――なかなかの策士だね。

 これに加えて足を踏んでいたらもっと面白いのだが……さすがに数人の人目はあるはずなので難しいだろう。

「エリアーナ様が羨ましいです……っ。女の子なら、一度はそのように好きな殿方から守られてみたいものです」
「きっと不敵に微笑んでいたことでしょうね。その令息たちはどうなったの?」
「しつこく迫られたわけではないから、注意だけで終わらせてもらったわ」
―――エリィが優しい! マジ天使!

 2人の惚気話を聞いていて、思ったことがある。

―――やっぱり性格とかセリフは、色に関係してるのか?

 王子が2人だけの場合、どちらかはブライト様のようなキラキラスマイルで、もう1人はノーブル様のような真面目で現実的な人が多い。
 筋肉バカとかインテリ、または、王位を狙っていてこじれちゃってる系もいるが、大半は想像から生まれた理想とかだ。
 そして、これは王子が2人だけの話だった場合である。

―――王子が3人以上の場合、他者よりも独占欲が強い甘えん坊や、女慣れしてる誑し魔が候補に上がるよね。

 そう。
 女性向けで考えた場合、やはり王道は外せないが、一定数の人気を誇る現実離れした性格保持者のキャラクターは存在する。
 小悪魔や闇落ち、暴走族など、危険な香りのするキャラクターに惹かれる人は多い。
 現に、この世界にはルアのいた、エヴァみたいな人が集まる裏社会せかいがあった。

―――それらを含めて考えると、ブライト様とノーブル様ってかなりの王道系王子様だよね。

 優秀な王子2人のいるアンリィリル王国だ。
 しばらくは安泰だろう。

「次はリズ様ですよ」
「きょ、今日はあんまりありませんが……」
「あるにはあるのでしょう?」
「はっ、はい……っ」

 そういえば、今はお茶会という名の謎の惚気話タイムだった。
 どうやら順番がリズ様に回ってきたらしい。
 あれ、でも……

「エリィ姉さん」

 私は小声でエリアーナに聞いた。

「リズ様って婚約してたっけ?」

 私の知識が正しければ、リズ様はまだ婚約していないはずだ。
 王族が婚約したらすぐに情報が降りてくるはずだし、「どうでもよくね?」と思っている私だけれど、知らないのは貴族失格。
 社交界で名を馳せるエリアーナとスパルタ教育をするエヴァがそばにいながら、リズ様の婚約の情報がこないのはおかしい。

「あっ……ユリィ、えっとね……」
「時期に発表があるかと思いますが、既にクローリス様はラーマオ・グランティルド様との婚約が決まっておりますよ」
「えっ! グランティルド、って……」

 正式名称・グランティルド帝国。
 強い軍事力を持ち、この世界で最も大きな発言力を持つと言っても過言ではない、大国の名前である。



――――――――――――
補足/
 エリアーナの口調が砕けて柔らかくなっているのは、素の自分を見せても平気だと安心しているからです。他の貴族の前では公爵令嬢らしく敬語をちゃんと使ってます。
 この世界での貴族のお茶会は、ちゃんとした話をしたり、遠回しに誰かの悪口を言ったりします。ユリィが「なんで惚気話に?」となったのはこのためです。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)

犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。 『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』 ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。 まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。 みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。 でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

悪役令嬢に転生しましたがモブが好き放題やっていたので私の仕事はありませんでした

蔵崎とら
恋愛
権力と知識を持ったモブは、たちが悪い。そんなお話。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

処理中です...