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第二部
109.セフェルカルツィ図書館
しおりを挟むお昼休み。
アルトゥール様たちとお弁当を食べた後、私はある場所へと向かっていた。
―――むふふんっ、とっしょかーんとっしょかーん、おっきーなとっしょかんっ!
そう。
それは言わずもがな学校の図書館である。
私が色々と文句や不満があっても頑張って来たのは、エトワールにある大きな図書館が理由だ。
―――王宮図書館の次の次に所蔵の多いエトワールの図書室! 生徒じゃないと入れないから、ず~っと行ってみたかったんだよね!
本当は昨日行きたかったのだが……エリィ姉さんに制止されて行けるはずもない。
私はエリィ姉さんに弱いのだ。
そして―――
―――ここが、セフェルカルツィ図書館……!
ついにやって来た図書館は外観も内装も素晴らしいところだった。
中央に根付く大きなクスノキは雄大な自然の力と生命力を表しているようで、とても美しい。
―――おっきぃ~~っ!! すっご~い!!
何故、エトワールの敷地内にあるのに図書室ではなく図書館と呼ぶのか。
それは、普通の学校にある図書室と違い、セフェルカルツィ図書館は書物を保管するためだけに建てられた三階建ての建物だからだ。
なんて特別で贅沢なのだろう。
住みたい……もはや特別寮じゃなくてセフェルカルツィ図書館に住みたい……っ。
いや、今はそれよりもここにしかない本を読むのが先だ。
―――読んで読んで読みまくるぞー!
まずは『物語』の本棚から本を選んでいく。
前世でいう9類の本は今世でも子供には人気なので、まだ入学してすぐのこの時期に借りられそうな本は全て借りるべきだろう。
もちろん、借りられる本には上限があるので、優先順位を考えなければ。
―――あ。『星の神子リル』シリーズ、セフェルカルツィ図書館にもあるんだ……。
私は全巻持っているので借りないが、知っている本が所蔵してあるとちょっと嬉しくなる。
―――あ、この本見たことあるけど読んだことないやつだ! こっちは話題になってたやつ!
なんて素晴らしい図書館なんだろう。
私の読みたい本がすべて置いてあるではないか。
―――これとこれと⋯⋯あっ、これも読みたい! こっちも気になる⋯⋯。
気になった本はすべて手に取り、手に積んでいく。
途中から重くて持てなくなってきたので魔法で何冊か浮かせて運ぶ。
―――はっ! あれは私が前に買い損ねたやつ! あれだけは絶対に読む⋯⋯!
手を伸ばし、本を取ろうとする―――が、反対側から他の人の手が出てきて、お互いに「あっ」とつぶやく。
ふんわりとしたウェーブのかかった香色の髪。
鳶《とび》色の瞳。
―――準主要人物⋯⋯!?
「あ、えっと⋯⋯」
なんて言えばいいのかわからず戸惑う私。
すると彼女の方から話題を振ってくれた。
「⋯⋯あなたもその本、借りに来たの?」
「! はい! 前に本屋で見つけたんだけど買い忘れてて、ずっと気になってて⋯⋯あっ、ごめんなさい。私ばっかり⋯⋯」
「ううん。好きなことになるといっぱい話したくなるの、わかるもん。私はイブ。あなた、もしかして〈氷上の魔術師〉の⋯⋯」
「ユリアーナ・リンドールです」
「やっぱり!」
白髪碧眼に加えてエトワールでは特待生を表す青のリボンタイをつけている。
誰が私のことを知っていてもおかしくない。
「本が好きって聞いたことがあるのだけれど、本当なのね」
「え?」
「その本の量を見ればわかるわよ。題名を見た感じ、勉強関連以外の本も多いし」
⋯⋯まあ、読書は趣味が8割だからね。
「イブ様は⋯⋯」
「イブでいいよ? 同学年だし」
ね、とイブさんは赤のリボンタイに触れて言った。
赤は1年生の色。
私と同じ新入生だ。
「けど、年齢⋯⋯」
私はまだ12歳。イブさんは少なくとも15歳だ。
同学年でも、年齢が違う。
「そんなこと言ったら私のほうが爵位が下だよ」
「……」
「じゃあ、ともだちにならない?」
「ともだち……」
「そ、ともだち。堅苦しい口調で話さない、敬称付けをしない。お互いにね。それならどう?」
「……わかり、ました」
なんか流れで友達になってしまったが、いいのだろうか。
「これからよろしく、ユリアーナ」
「こちらこそ、よろしくおねが……あ、えっと、よろしくね、イブ」
「ふふっ。よろしく」
かわいらしく微笑むイブ。
ほんわかした子と話すのは久しぶりだ。
「ここだとアレだし、場所変えない?」
そうして、あまり人がいないという屋上に移動した。
校舎じゃなくて、セフェルカルツィ図書館の屋上である。
たしかにここなら人は来ないだろう。
「私、本について話せるともだちがほしかったんだよね。ユリアーナと会えてよかった」
女性のお貴族様が特に話す話題は前世とそこまで変わらない。
恋愛や噂話、オシャレなど、『女性らしさ』があるものはどこに行ってもある。
本について話すことなど、ほとんどない。
―――やっぱり、本について話せる人は少ないよね。
本について話したいと思っていて、でも、話せる人がいなくて⋯⋯。
私はたまたま契約のためレティシア様と本について話すことができたが、イブはそうじゃない。
イブの周りにはきっと、本について話せる人がいなかったのだろう。
「それでそれで? ユリアーナはどーゆー系の小説が好きなの?」
「私は基本的に何でも読むから、特にこれ!っていうのはないけど⋯⋯一番好きなのはなんだかんだ言って『星の神子リル』シリーズかな」
「っ!!」
「知ってる? 『星の神子リル』シリーズっていうのは、神々の力を特別に使うことのできる神子たちの物語でね、もう、最っ高におもしろいの。主人公は題名の通り星の神子のリルって女の子で、神子たちの中で一番力が弱いんだけど、でも、リルは誰よりも人の気持ちに寄り添える子で、友達も多くてね、読んでると頑張れって応援したくなる、そんなヒロインなの!」
「⋯⋯そうなの?」
「うん! 作者のセイラ様⋯⋯あっ、セイラって人なんだけど、その人の文、とっても素敵なの! 読みやすいし、なんて言うんだろう、こう、綺麗だなって思う言葉を使ってて、見ているだけで、自分の穢れが浄化されるっていうか⋯⋯見惚れるっていうか⋯⋯」
つまり、だ。
「お話の内容も、文章も、セイラ様も、私、尊敬してるんだ! ⋯⋯イブ?」
「っ、あ、いや、ユリアーナは『星の神子リル』シリーズこと、すっごく好きなんだってわかって、ちょっとびっくりしちゃった」
「! 私ばっか話しちゃってたよね⋯⋯ごめんイブ」
「ううん。むしろ嬉しいというか、なんというか⋯⋯」
そう言うと、イブは少し恥ずかしそうに俯いた。
―――私、話しすぎた?
自分の好きについて語りすぎて、聞くのが疲れたのだろうか。
もしかして、嬉しいって言ってたけど本当はつまらなかったとか?
そうだとしたらどうしよう!?
私、イブに嫌われたくないよ!
「い、イブ。あのね、私⋯⋯」
「―――ありがとう、ユリアーナ」
「えっ⋯⋯?」
「ユリアーナの好きな本、『星の神子リル』のこと、教えてくれて、ありがとう。すっごく嬉しい」
「えっ、え?」
「まさか、『星の神子リル』が出てくるとは思わなかったの。聞けてよかった」
「イブ⋯⋯?」
「そういえばユリアーナは知ってる? “図書館の番人様”のこと」
「図書館の番人様?」
明らかに話をそらされたが、まぁいいか。
図書館の番人様。
初めて聞く言葉だ。
「友達に聞いたんだけど、このセフェルカルツィ図書館には古くからこの図書館に住んで本を守ってる番人様がいるんだって。番人様は大事な書物を外敵から守る守護者で、図書館で悪戯する人や悪事を働こうとする人を排除して、図書館の平和を守ってるんだとか」
「へぇ~。本当にいるのかな?」
「どうだろう⋯⋯七不思議的な存在らしいよ。“庭園の青薔薇”とか“校舎裏の金木犀”もそのひとつだし」
「庭園の青薔薇? 校舎裏の金木犀??」
「ユリアーナは噂とか知らないタイプかぁ⋯⋯」
イブによると、まず、エトワールには(学校内なのに)5つの有名な場所があるらしい。
そこには〈精霊〉がいて、生徒を見守っているんだとか。
「図書館に入ってすぐに、大きなクスノキがあったでしょ? あれはセフェルカルツィ図書館の象徴とも言える木でね、図書館の番人様はそのクスノキの〈精霊〉って説もあるの」
「それが一番現実的だね」
「もうっ! そーゆーこと言わないの」
そのあともいくつか話をして、友達が待ってるからとイブはどこかへ行ってしまった。
今日はたくさん読むつもりだったが、思ったよりイブとの話が楽しくて時間もなくなってしまったので、特に読みたい本だけ借りて帰ることにしよう。
そう、思っていたのに―――
「ユリアーナ様、ですわね」
金髪縦ロールのご令嬢と、黒髪や茶髪のいかにも脇役らしき取り巻きのご令嬢たち。
「少し、お時間いいかしら?」
あれだ。
きっとこれはあれだ。
入学早々に絡まれるテンプレだ。
だけど―――
―――なんでその対象が主人公のカレン・ミラーじゃなくて私なのよ!?
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