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第二部
108.学校生活の始まり
しおりを挟む―――【転移】
朝食を食べ、制服に着替え、【転移】で校舎に着く。
私のクラスは4階のAクラス。
Aクラスは一般生徒上位の成績の人と特待生のクラスだ。
だから―――
「ユリィ~!」
「エリィ姉さん……!」
「一緒に教室行こっ」
「! うん!」
私とエリィ姉さんは同じ教室で授業を受けられるのだ。
―――エリィ姉さんが優しい……っ。
至極当然のことだが、思わずにはいられない。
きっと私に友達ができていないんだろうと察しているエリィ姉さんだ。
ひとりで行くよりもふたりで行く方が、周りから一身に注目されないと知っているのだ。
―――私としても、ひとりで行くのはちょっと気まずいんだよね。
珍しい白髪の公爵令嬢。
最年少で一級魔術師となり、特待生として入学した異端児。
脇役として生きたいが、私には色々と目立つ要素がある。
「見て。あれって『氷姫』じゃない?」
「ほんとだ。〈氷上の魔術師〉だ!」
―――恥ずかしいから本当にやめてほしい⋯⋯。
誰がそんな名前を考えたか知らないが、本当にやめてほしい。
すると―――
「お久しぶりですね、ユリアーナ様」
―――げっ……出た……。
金髪碧眼の王道系主要人物、ブライト様の登場である。
15歳となったブライト様はそれはもう予想通りの(外面は)理想のの王子様になった。
年々ブライト様の輝きは増しており、それと比例してエリィ姉さんのベタ惚れ具合も上昇中だ。
―――なんでブライト様が……。
と、思いつつも外向けの笑顔で対応する。
「お久しぶりです、ブライト殿下」
キリッと公爵令嬢モードに切り替える私。
ブライト様には私の心情を知られているかもしれないが、周りにはバレてなさそうなのでさほど問題はない。
「エリアーナとふたりきりで教室に向かうつもりだったのですが、優しいエリアーナはユリアーナ様とも一緒に行きたいとのことで……私の婚約者は女神のようですよね」
「エリィ姉さんが女神のような寛大なお心と美しい容姿をしていることぐらい、ずっと一緒に過ごしていたのでよく知っています」
「今までは週に一度しか会えませんでしたが、これからは毎日会えると思うと、すごく嬉しいのです。―――だから、私の婚約者を奪わないでくださいますか?」
「奪うだなんて……大好きな姉といたいと思って何が悪いのですか?」
ブライト様との間にバチバチと火花が散るのがわかる。
何も知らない第三者から見たら美男美女がお話ししている、と思うかもしれないが、実状はひとりの女神を争う言葉の戦争だ。
だが、第二ラウンドを始めようとした時だった。
「こんなところで何をしていらっしゃるの?」
「なにやってんだよ、おまえら」
「! レティシア様、ノーブル殿下……!」
「…………」
クロッカスの髪は丁寧に結い上げられ、シルバーグレーの瞳はまっすぐに私たちを捉えている。
レティシア様の視線は見た者の心まで透かされているようになり、ドキッとする。
「入学早々に問題は起こさないでくれよ、問題児二人組」
紺色の髪に婚約者と同じ瞳の好青年。
ブライト様の双子の弟で、レティシア様と婚約しているノーブル様だ。
「問題児二人組って、まさか、私とブライト殿下のことですか?」
「お前ら以外いないだろ」
「心外です。訂正してください」
「これに関しては同意見です。ユリアーナ様とペアにしないでください、ノーブル。私のパートナーは生涯エリアーナひとりだけです」
「ブライト様……」
―――そこ、ときめくところ!?
まあ何にしろ、ブライト様と一緒にされるのは嫌だ。
そこはブライト様も同じらしい。
「ノーブル殿下」
「ノーブル」
「……悪かったよ。謝るって」
でも、とノーブル様は続けた。
「ユリアーナとブライトって似てるよな」
「「は?」」
「エリアーナのことが大好きなところ」
「「…………」」
まあ、そこは認めなくもない。
「ユリアーナ様。何故、婚約者のアルトゥール様と一緒でないの? 普通、婚約者同士で過ごすものでは?」
「レティシア様……」
「まさか、断ったわけではないでしょうね?」
「…………」
そう言えば、エトワールに入学する前に手紙で「一緒に登校したい」的なことを言われていた気がするが、寮が遠いという理由で断った気がする。
……実際は「なんか面倒かも~」と思ったからだし、【転移】を使うから寮からの遠さなんて関係ないんだけどね。
「そんなのダメだよユリィ! 絶対、婚約者と行った方がいいって!」
「少しはアルの気持ちを考えたらどうですか?」
「婚約者としてその態度はいかがなものかと」
「防犯対策にもつながるんだぞ? おまえ、常識の面では馬鹿だよな」
色々と文句を言いたいところだが、主要人物に4人に迫られて勝てるとは思えない。
―――こっちの方が面倒だな。
今後はアルトゥール様と登校することにしよう。
―――にしても、美形揃いだね。
みんな、主要人物あるあるの美形だ。
その姿は絵になるほど美しさで溢れており……桃色の悲鳴が聞こえるのも仕方ないだろう。
もちろん私は美男美女に耐性があるので特に何も起こらないが、女子生徒が倒れる理由はよくわかる。
教室に行くと、すでにアルトゥール様は席に座っていた。
アルトゥール様は私の姿を見ると、ぱっと笑顔になって「ユリアーナ様」と言って微笑んだ。
どうやら「隣の席に」と言いたいようである。
「おはようございます。ユリアーナ様」
「おはようございます、アルトゥール様。……席取りをさせてしまったようで、申し訳ございません。本当に、ごめんなさい」
「そんな……こちらこそ申し訳ございません。配慮が足りませんでした」
アルトゥール様は優しいから、きっとそう言うと思っていた。
「あの、お詫びと言っては変ですが……明日からは一緒に登校しませんか?」
「! 私は構いませんが、いいのですか?」
「はい。特に約束している人もいませんし」
「なら、そうさせてください」
ふっと微笑んだアルトゥール様は、とても嬉しそうだった。
―――さて。
アルトゥール様の件が落着したので次のことを考えることとしよう。
―――このクラスの生徒は主要人物か準主要人物が多い。
黒髪の生徒はほとんどおらず、みんなすでに仲良しのようだ。
―――寮が同室で仲良くなったのかな?
特別寮を除き、エトワールの寮は二人一部屋が基本だ。
絶対ではないけれど、大抵は同じクラスの生徒とルームメイトになる。
「アルトゥール様のルームメイトは誰でしたか?」
「ああ……私はノーブルと一緒でした」
「ノーブル様と?」
「はい」
ふたりなら気も合うだろう。
となると気になるのはブライト様のルームメイトだが……ま、誰でもいっか。
「ユリアーナ様は一人部屋なのですよね」
「はい。意外と広いお部屋で嬉しかったです」
もちろん、本を置くスペースができて、という意味で嬉しかった。
「今年は優秀な生徒が多く、一部では豊年だったと言われているようです。一級魔術師のユリアーナ様はもちろん、魔法にも武術にも長けた獣人など、多くいるのだとか。去年もすごかったらしいですよ」
―――詳しいな……。
意外と、と言っては失礼だが、アルトゥール様は情報通なようだ。
エトワールについて、私はやエヴァでは知ることができないだろう情報を知っている。
「他に優秀なのは……今年の新入生代表挨拶をした首席のルコラ様ですね」
「ルコラ様?」
どこかで名前を聞いたことあるような……誰だっけ?
「ご存知ありませんか? エトワールの理事長で一級魔術師のライゼ様の御息女ですよ」
「…………あぁっ!」
ライゼ様の名前で思い出すことができた。
ルコラって人があのライゼ様の娘なら、聞いたことがある。
……なにせ、本人がうざったいほどに自慢してくるのだ。
『よく聞けよぉ新人。俺の子供たちはみんなすげぇんだよ』
『(何度も聞いているので)知ってます』
『まず長男のロベルト。あいつはエトワールの血をよく引いてるよ。真面目で誠実、紳士で素直。子供の頃の俺にそっくりだ』
『……そうですか』
『次に長女のルコラ。勝利に貪欲で誰よりも努力できるやつだ。プライドが高く、自分の限界まで挑戦する姿は昔の俺と同じだ』
『……はぁ』
『そして末っ子のレオノーラ。おまえさんと同じ本好きだ。将来は魔術師じゃなくて王宮図書館の司書になりたいんだとさ。すげぇだろ?』
『司書……なんて羨ましい……っ』
『……おまえさん、一級魔術師になりたくてなったんじゃないのか?』
『まさか。様々な要因が重なった結果、目指すことにしただけです。一級魔術師になる気なんて微塵もありませんでした』
『……あんまし公《おおやけ》の場で言うなよ? 本気でなりたいやつに殺されっぞ?』
『その時は返り討ちにしてやります』
『ははっ、そうだろな』
とまあ、後半、話が逸れたが、ルコラ様の話はライゼ様から聞いている。
正直、ライゼ様の子供自慢は聞きすぎて飽きているので、また、最近は適当にあしらっていたため、忘れかけていた。
―――歳が離れてるから関わりなんてないだろうと思ってたけど……。
まさかエトワールで関わることになるとは。
しかもアルトゥール様によるとルコラ様は同じクラスらしい。
「あ、ユリアーナ様。今、教室に入ってきた彼女がそうです」
―――あれが……。
ふんわりとした伽羅色のミディアムヘア。
黒縁の眼鏡からのぞくつぶらな灰茶の瞳。
少し冷めた視線には、ライゼ様が言っていたようにプライドの高さが見受けられる。
―――お酒を飲む前のライゼ様にそっくり。
ルコラ様の登場に、クラスの生徒がひそひそと小さな声で話し合う。
「見て、ルコラ様よ」
「新入生代表挨拶の……」
「理事長の娘だろ? 親のコネとか……?」
羨望もあれば疑いもある。
学校と同じエトワールの名を冠した生徒。
そうなるのは当然のことだろう。
うんうんと心の中で頷いていると、ふと、ルコラ様と目が合った―――気がした。
―――気のせいかな……。
もしそうだとしても一瞬だけだったので、自意識過剰だろう。
それに、特別仲良くなりたいわけでもない。
むしろ、ルコラ様は準主要人物と思われるから、できるなら最低限の接触で抑えたい。
―――なんとかなるといいけど……。
この系統の願いが叶ったことは転生後一度もないので、あまり期待はしないことにしよう。
――――――――――――
補足/
本文で出たユリアーナを示す氷姫と〈氷上の魔術師〉について補足させてください。
一級魔術師になると、大抵二つ名が付きます。ユリアーナの場合は〈氷上の魔術師〉です。由来として、ユリアーナが強い氷の属性を持っていることと、一級魔術師試験で派手に暴れた際の姿から〈氷上の魔術師〉となりました。
氷姫は社交界でいつの間にか広まったユリアーナの隠語です。いつも静かでひとりでいることから氷姫と呼ばれるようになったとか。アルトゥールの盲目の貴人と同じようなものです。
補足2/
アルトゥールはユリアーナが来る30分前から座っていました。
時々アルトゥールにお近づきになろうとやって来る女子生徒がいましたが、アルトゥールは依然として「婚約者と過ごしたいので」と相席をお断りしていました。
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